守りに回ってしまってはビジネスは成功できない。さらなる飛躍を求めてこそ未来は開ける。
ご利益寺社の中には厳しいビジネスシーンを生き抜くための力を与えてくれるところもある。今回はそうした寺社の中でも、とびっきりの霊験寺社を取り上げる。
勝ち抜くご利益が得られる 『摩利支天様』と『おたぬき様』
摩利支天という仏さまをご存じだろうか?
陽炎(かげろう)のように正体を見せずに敵を打ち破る仏教の守護神で、護身・勝利・財福のご利益があるとされる。こうしたことから毛利元就や徳川家康など武士の篤い信仰を受けてきた。特徴的なのがその姿で、猪に乗って疾駆しているのである。
この摩利支天を本尊することで有名なのが、上野広小路の徳大寺(東京都台東区)である。創建は寛永年間(1624~44)であるが、本尊像は聖徳太子の作と伝えられ、江戸中期に徳大寺に安置されたという。現在、徳大寺周辺はアメ横として全国的に知られているが、もともとは徳大寺の門前町であった。今も縁日の亥の日には特別のご利益を得ようと多くの参詣者が訪れる。
摩利支天像を本尊とするお堂は京都にもある。建仁寺(京都市東山区)の禅居庵摩利支天堂だ。
こちらの像は三面六臂(顔が3つで腕が6本)で7頭の猪に乗っておられる。まさに無敵を表したようなお姿である。
現在の堂は織田信長の父・信秀が天文16年(1547)に再建したものというから、そのご利益がいかに戦国武将に広まっていたかが偲ばれる。
禅居庵摩利支天堂は摩利支天のお姿を刷ったお札や猪形のお守りなど、バラエティある授与品も魅力的だ。ここ一番の商談の前にいただいておこう。
「狸(=他を抜く)」は勝利の象徴
ビジネスチャンスを勝ち取る上で頼りになる神仏はほかにもおられる。
それは「おたぬきさま」、すなわち狸だ。なんだ、と言ってはいけない。狸は「他を抜く」こと、競争から勝ち抜くことを象徴する霊獣なのだ。そうした「おたぬきさま」のご利益が得られる寺社の一つが、群馬県館林市の茂林寺(もりんじ)である。
茂林寺は応永33年(1426)に開山した曹洞宗の古刹で、狸が茶釜に化けて住職に恩返しをした「分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)」の伝説で有名だ。その茶釜は汲んでも汲んでも湯は減らず、その湯でいれた茶を飲んだ者は開運出世・長寿などのご利益を受けたという。
残念ながら分福茶釜の湯を飲むことはできないが、「他を抜く」ご利益は今でもいただける。
「おたぬきさま」は秋葉原にもおられる。柳森神社(東京都千代田区)だ。
柳森神社は室町時代後期の太田道灌が江戸城の鬼門封じのために建てたと伝えられる。「おたぬきさま」はその境内社で、福寿神(福寿稲荷)という。
この福寿神は第4代将軍綱吉の生母・桂昌院が創建した神社で、もとは江戸城内で祀られていた。その後、大奥の他の美女たちを差し置いて将軍の寵愛を得た桂昌院にあやかろうとする女中たちの信仰を集め、「お他抜きさま」と呼ばれたという。
境内にはユニークな狸像もあるので、こちらも拝してご利益をいただいておこう。
「出世☓☓」の寺社を巡る
勤め人にとっての一番の関心事は、やはり出世であろう。これは昔も同じことで、各地に「出世☓☓」とついた神仏がお祀りされている。
もともと「出世」とは仏さまがわれわれの世界に現れて迷える者を救ってくれることを意味する言葉であった。そこから転じて貴族が出家する意味に使われるようになり、そのような者は地位が上がるのが早かったので栄達を指すようになった。
神仏が出世の手助けをするのは奇妙に思われるかもしれないが、願掛けをした者は自ずから身を慎むようになるので、結果として社会もよくなっていく。また、信心深い者が出世するとわかれば、自ずと信仰も広まるものだ。
お説教的なことはこれくらいにして「出世☓☓」の寺社のご紹介に入ろう。まず各地の有名な「出世☓☓」を列挙してみよう(おおむね西から東へとあげていくが、順番に特別の意味はない)。
◆『出世稲荷神社』(島根県松江市)
→歴代松江藩主が崇敬した神社
◆『道頓堀出世地蔵尊』(大阪市中央区)
→江戸時代に役者などの信仰を集めたお地蔵さま
◆『出世稲荷神社』(京都市左京区)
→豊臣秀吉が聚楽第を造営する際に創建
◆『清水寺出世大黒天』(京都市東山区)
→清水の舞台で有名な本堂にひっそり安置されている
◆『粟田神社出世恵比須神社』(京都市山科区)
→源義経が源氏の再興を祈願、現存最古の恵比須像を安置
◆『銀座出世地蔵尊』(中央区銀座)
→銀座三越の屋上に鎮座(地上から屋上へと出世された)
◆『西新井大師總持寺出世稲荷』(足立区西新井)
→関東三大厄除大師の一つに数えられる
◆『成田山新勝寺出世稲荷』(千葉県成田市)
→七代目市川團十郎などが信仰
ビジネス街の最高峰へ登る
変わった例では、「愛宕神社」(東京都港区)の出世の石段がある。これは愛宕神社の表参道にある急傾斜の石段で、曲垣平九郎が将軍家光の命により馬で登ってみせ、その技量と勇気を褒められて出世したことに由来する。
東京の中心にあることから、出世を願ってこの石段を登るサラリーマンが多い(ちなみに、境内は23区内の最高峰でもある)。
ここでとくにお奨めしたいのは、三面大黒天である。これは大黒天が弁才天(弁財天)・毘沙門天という二大財神と合体したもので、出世・富貴のご利益がとりわけ大きいとされる仏さまだ。
「比叡山延暦寺」の大黒堂に安置される三面大黒天像は伝教大師最澄が彫ったものされ、豊臣秀吉が信仰して太閤にまで出世したことで知られる。
また、秀吉の正室・北政所が創建した「高台寺」の子院・圓徳院には秀吉が守り本尊とした三面大黒天像が安置されている。関西出張の折には、少し足を伸ばしてでもお参りしておきたいお寺だ。
商売の神様・恵比寿さま信仰
大黒天と並ぶ七福神の代表、恵比寿(恵比須・夷・戎・ゑびす)さまは商売の神様でもある。
もともと恵比須さまは漁師が祀る航海や漁業の神さまであったが、市場にも祀られるようになったことから商人の信仰も集めるようになり、商売の神様として信仰が全国に広まっていった。
実は恵比須さまの正体については2説ある。イザナキ神・イザナミ神の御子神である蛭子神(ひるこのかみ)とするものと、大国主神(大黒天)の御子神である事代主神(ことしろぬしのかみ)とするものである。
前者の説を基づく信仰では「西宮神社」(兵庫県西宮市)を総本宮とし、後者の説に基づく信仰では「美保神社」(島根県松江市)を総本宮としている。
しかし、これはどちらかが正しく、どちらかが間違っているというものではない。神さまに対する見方の違いというべきもので、いわばどちらも正解である。その証拠に、いずれの神社も多くの参拝者を集め繁栄している。なお、関西圏では「今宮戎神社」(大阪市浪速区)も「西宮神社」と並んで恵比寿信仰の中心となっている。
恵比寿様のご利益を授かる2社
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