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2022/10/21

大病後、夢をかなえた「らせん階段の家」@福島県郡山市「50代、60代からの家づくり〜人生100年時代を愉しむための新しい家~」

ちょい出し『一個人』秋号

一個人編集部

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 かつて50代以降の家づくりといえば「バリアフリー化」「老朽化対策」など、将来的な不安に対応することが主な目的でした。しかし人生100年時代が到来し、50代はまだ人生の折り返し地点。本コーナーでは、新時代に対応した家づくりの事例を紹介していく連載第一回!

「一度は失った命だから」

 施主の斎藤正彦さんは昭和29年生まれ、現在68歳。長年、単身でアパート暮らしを続けてきたが、およそ10年前、58歳のときに胃ガンが発見された。何とか一命をとりとめたものの、その後の人生を考える上でこの経験が大きな契機になったという。「一度は失った命だから、もう後は好きなことを、と思った」。そこで思い立ったのが「家づくり」。自分で土地を探し、建築家も多くの候補の中から自分で選んだ。それが東京代官山で設計事務所を営む黒川浩之さん。
 東北人らしく朴訥な口調の斎藤さん。しかし黒川さんとの最初の面談で、斉藤さんは黒川さんに3つの条件を明示した。一つが、「らせん階段」。二つめが「コンクリートの打ち放し」。三つめが「シアタールーム」。それを聞いた黒川さんは、限られた建ぺい率や、崖地に面した土砂災害危険地域に指定されている土地の特性を考えるとどれも難題だが、斎藤さんの年齢を考えると、老後に上り下りで苦労することになるらせん階段は特に現実的ではないと考えた。そこで黒川さんは、斎藤さんの希望の通りの第一案に加え、予備のプランとしてらせん階段の無い予備案も提案。しかし斎藤さんは予備案には全く興味を示さなかったという。ほぼ現在の姿のままの第一案に対して即決でゴーサイン。黒川さんは「今までで最短の打ち合わせだった」という。「建築家の仕事は、施主や施主家族から丹念に話をきき、会話をふくらませ、施主のこれからの暮らし方を一緒に明確にしていきながら、それにふさわしい家を設計すること」といつも語る黒川さん。斎藤さんは珍しいケースで、最初から自分のこれからの暮らし方がかなり明確になっていたという。
 2017年に完成した現在の斎藤邸。一階部分はコンクリートの打ち放しで造られ、まるでショップやカフェのような風貌だ。ドアを開けると、目の前にらせん階段が聳える。8坪の一階は、玄関およびらせん階段、そしてシアタールームのみの構成。生活に必須のリビングやお風呂、トイレ、寝室は全て15坪の2階に集約されている。らせん階段をのぼると二階リビングの真ん中につながっている。写真の通りの立派な邸宅だが、ツリーハウスのようなワクワク感に溢れている。斎藤さんに、「一番のお気に入りの場所はどこですか」と聞くと、即答で「らせん階段です」との回答。らせん階段に座って、ぼーと外の風景を眺めるのが何よりのお気に入りの時間であるという。なぜ、らせん階段がそんなに好きなんだろう。ご本人もよくわからないらしい。

完成後5年を経て

 今回の取材、建築家の黒川さんにも同行していただいたが、黒川さんも斎藤邸の訪問は久しぶりだった。完成後、2018年には福島県沖地震もあり、斎藤邸のことはいつも気になっていたが、新型コロナの流行もあり再訪することが出来なかった。久しぶりの斎藤さん、そして斎藤邸との対面に黒川さんの顔はほころんでいた。斎藤さんが自分で様々なDIYやガーデニングを施し、変化している斎藤邸の姿を眺める黒川さんは、わが子の成長を喜ぶ、父親のようだ。
「あー!こうやったんだ〜」2階から屋上につながる白い梯子を指さして黒川さんは笑う。設計段階から斎藤さんは「完成したら2階から屋上に梯子をかけてのぼりたい」と漏らしていたが、なんと常設の梯子を自ら設置し、屋上スペースにオリーブの植栽まで置いている。らせん階段でのぼるだけでは飽き足らず、屋上にのぼる楽しみまで、自身でこの家に追加してしまったようだ。
「家が完成して5年間暮らしてみて、失敗したと思うこと、後悔していることはありませんか」と聞くと、「う〜ん、無いなあ」と微笑む斎藤さん。強いて言えば、屋上をもっと楽しめるように、屋根の形状をもっと考えておけば良かったという。屋内の飾りつけや庭、ウッドデッキはほとんどが自作。特に庭は広く、斜面も多いため手入れが大変そうだが、「毎日やらないといけないことが多すぎて」と斎藤さんは嬉しそうに微笑む。斎藤さんの足腰が弱り、いずれらせん階段の昇り降りに支障が出てきた時のために、黒川さんは密かに、追加設置できるエレベーター用のスペースを設けている。しかしその必要は当分無さそうだ。黒川さんは言う。
「60や70からの家づくりというと、バリアフリー化が必須という人もいるが、そうではないということが分かってきた。身体が動くうちはセミバリアフリーくらいがちょうど良い。どうしても支障が出てきた時のための対策を準備しておくことが出来れば、今施主さんが望まれている暮らし方にあった家を設計することが自分のやり方だ。」「最近はどんな生活を送られていますか」と斎藤さんに聞くと、コロナも落ち着き、あちこち出かける機会が増えてきたという。「この前、埼玉にいって初めてスカイダイビングをやってみたんだけど、楽しかったなあ」と微笑む。高いところが本当に好きな人である。

【今回の気づき】

●家づくりは自分探し。自分の好きなこと、これからの暮らし方を明確に出来れば、良い家ができるし、幸せになれる。
●自分探しに付き合い、理解してくれる建築家を見つけることは重要。
● 60台、70台はまだまだ元気。将来的なバリアフリー対策は考慮しつつも、自分の夢を追求して良い。
取材・文/鈴木烈 撮影/平山訓生
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