読切

2021/10/14

伝統芸能「麒麟獅子舞」の魅力

日本海の風が生んだ絶景と秘境 幸せを呼ぶ霊獣・麒麟が舞う大地「因幡・但馬」

「一個人」編集部

●取材・文/内山賢一 ●撮影/木下清隆

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因幡・但馬地方に伝わる「麒麟獅子舞」は、日本遺産にも認定されている無形民俗文化財。
世にも不思議な発展と伝播を遂げた伝統芸能の魅力に迫る。
発祥の地・鳥取東照宮の神前で舞う因幡麒麟獅子舞の会。
【因幡・但馬に伝わる伝統の舞い「麒麟獅子舞」】
一角の黄金の麒麟をかたどった獅子頭に、緋色の胴幕(衣装)を纏って舞う「麒麟獅子舞」。人々に幸福をもたらす芸能として鳥取県東部(因幡)と兵庫県北但西部(但馬)に伝わり、約140の村々で受け継がれている、当地で老若男女に最も親しまれている伝統芸能。

ひとつとして同じ演出がない奇跡の伝統芸能が今日も舞う

 麒麟獅子舞は、最新の調査によると鳥取県東部(因幡)128カ所と、兵庫県北但西部(但馬)の10カ所の計138カ所に伝承されている伝統芸能。春と秋の神社の祭礼を中心に、ほぼ1年を通じて各地で舞われている。

 麒麟は中国の想像上の動物で、古来より泰平の世の象徴として幸せを呼ぶ霊獣として知られる。獅子舞は、麒麟の顔をかたどった一角を持つ黄金の獅子頭を使い、緋色(赤)の胴幕に二人が入って舞う二人立ちで披露する。傍らには先導役として、赤い衣装を纏った猩々(しょうじょう)がいるのが基本的な舞いだ。

 太鼓や笛、鉦の囃子に合わせて、頭が地を這うようにゆっくり動き、ひねったり回ったり、天に向かって伸び上がったりと所作が特徴的だ。麒麟の顔は面長で直立の耳、大きい鼻の穴、瞳は閉じている。その表情は、可愛げがあってユーモラスで親しみやすい。

 その始まりは約370年前の江戸初期。鳥取池田家の初代藩主・池田光仲が曽祖父の徳川家康を祀る鳥取東照宮を建立した。その祭礼で、優れた政治を行った徳に慕って出現するとされる麒麟にあやかって、光仲が獅子頭を麒麟に変えたというのがその起源とされている。また、猩々も中国の想像上の動物で、光仲が能から着想を得て取り入れたと考えられている。
3色の衣装が独特の因幡・芦津神社の獅子舞。
 この伝統芸能は、各地域への伝わり方も独特だった。
 伝播の現状を調査している鳥取市文化財課の佐々木孝文さんによると、村やまちごとで微妙に獅子頭の造形や囃子、舞い方、衣装などの演出に違いがあるという。

「もともと東照宮で行われていた麒麟獅子舞は繁栄の象徴でした。凶作や飢えに苦しむ人々は幸運を呼ぶ麒麟に救いを求め、他の神社に学ぶだけでなく、時には盗み見て、見よう見まねで再現し、各地に広まりました。敬意を表して少しアレンジすることが当時の不文律だったようです」
但馬・宇都野神社の獅子舞は2頭の獅子が特徴。
 こうして少しずつ変化しながら麒麟獅子舞は広まった。特に但馬には、因幡地方とは大きく違った特徴が見られる。
 但馬の麒麟獅子舞に詳しい浜坂先人記念館「以命亭」の川夏晴夫さんは、因幡は神事、但馬は祭りの要素が強いのが違いのひとつと語る。

「但馬ではお祭りらしく、お囃子も軽快でテンポが速くてにぎやかです。それと楽器のジャンジャンと呼ばれる銅拍子は但馬でしか使いません。新温泉町の宇都野神社と諸寄為世永(もろよせいよなが)神社では麒麟獅子が2頭登場するのも特徴です」

 ひとつとして同じ演出がない麒麟獅子舞が今日も舞う。それは、その地に暮らす人々が脈々と、大切に守ってきた奇跡の伝統芸能。その魅力を現地で体感した。
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雑誌「一個人」編集部
本誌「一個人」のほか、健康や教養などを中心に、多層的なテーマを扱った増刊を編集制作しながらこのサイトを運営しています。

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