読切

2021/12/12

里崎智也流「逆境の乗り越え方」(後編)

元世界一の捕手が悩めるビジネスマンに贈る言葉

里崎 智也

●取材・文/田中幾太郎 ●撮影/矢島宏樹

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千葉ロッテマリーンズで正捕手として2度の日本一に輝いた里崎智也さんは現役時代、4人の監督のもとでプレー。上司とどうつきあえばいいか、さらにはセカンドキャリアをどう充実させていくか、その極意を聞いた。

自分のポジションを確立せよ

―メジャーリーグでテキサス・レンジャースやニューヨーク・メッツの監督を務めたボビー・バレンタインが2004年に千葉ロッテマリーンズの監督に就任。里崎さんとの相性はどうでしたか。

 すごく良かったですよ。だけど、よく言い合いはしていました。「なんで、あのバッターにもっと高めを攻めないのか」と言うボビーに、「そこにピッチャーが投げきれない、無理なことやるぐらいだったら得意なことで抑えられることを考えた方がいい。もしそこに投げさせたかったら、ちゃんと投げ切れるように練習させて欲しい」と言うようなミーティングのやり取りもあり、その結果バスの出発の時間が遅れたこともありました。

 アメリカの監督のほうが話をよく聞いてくれるんです。だから、とてもフランクに言いたいことを口にできる。ボビーは自身が納得したら、こちらの意見もすぐに取り入れてくれます。もちろん、ボクのほうも同じです。お互いに新しい発見があって、より高みに登ることができたんだと思います。

―たしかに、バレンタイン監督になって2年目に日本一も実現しています。でも口論になって、感情のしこりとかは残らないんですか。

 それは一切ありません。激しい言い合いもしましたけど、その場ですべて解決するので引きずることはない。かなりきつめに言っても、それで扱いが変わることもないので、ボビーには非常に言いやすかった印象がある。だからこそ、お互いに考えを共有できたのだと思います。

 その点、日本人監督は違うことが多いです。トップに就任する時に、「みんなでやっていこう。言いたいことがあれば、なんでも言ってきてくれ。一緒につくりあげていこう」とあいさつする。この社交辞令を真に受けてはいけない。その通りにやると、痛い目にあわされます(笑)それは野球に限らず、日本のどの社会でも同じではないでしょうか。
社交辞令をちゃんと汲み取ることも重要と話す。
―里崎さんはロッテで4人の監督のもとでプレーしています。最初は山本功児監督、そしてバレンタイン監督、西村徳文監督、伊東勤監督と代わりましたが、各監督との関係で何か気をつけたことはありますか。

 ボク自身はあまり気にしなかったですね。まだ正捕手になっていない時代の山本監督の時はともかく、ポジションを得てからは自分がしっかりしていればいいんだという気持ちでした。ボビーの時代に正捕手になって、その次に誰が監督になろうと関係なかった。生意気な言い方ですが、ボクを使うしかないように自身の能力を高めるだけですから。監督は選手というコマがなければ、勝つことはできない。優秀なコマを使わないで負けたら、それは監督の責任になってしまいます。

 ボク自身、自信家なんでしょうね。子どもの時からずっと、自信のかたまりでした。プロ野球の世界に飛び込んからも、それは変わらなかった。2軍時代から根拠のない自信は常にあったんです。そこに結果がともなってきて、さらに気持ちが強くなっていったんです。

―会社生活を送っていても、上司が代わる場面はたびたび出てきます。上司との関係があまりしっくりきていない時、対応の仕方でアドバイスはありますか。

 現状に満足できなかったら、やれることは3つしかないと思っています。ひとつは、我慢してそのまま上司に従う。2番目は、自分がトップに立てるように頑張る。最後の選択肢は“辞める”です。

 ボクの場合は2番目でした。といっても、トップに立つとは球団社長になるとか、監督になるという意味ではありません。キャッチャーとして、押しも押されぬ存在になることです。

 駆け出しの時に正論を言ったところで、誰も聞いてはくれません。レギュラーのキャッチャーと同じサインを出しても、ピッチャーは首を縦には振ってくれないこともある。実績を積んでレギュラーとして認められてやっと、自分のやりたいようにできるのです。会社でそうしたポジションをつくれないのなら、上司の言うことを従順に聞くか、辞めるしかないのではないでしょうか。
実績を積み上げる重要性を語る里崎さん。

努力したと思っているうちは二流

―多く人は、辞める選択をするのはなかなか難しそうです。同じ会社で働き続けるしかないとして、嫌なことを平気で言う上司がいたら、どう対応すればいいでしょうか。

 現役時代、ボクは首脳陣から嫌なことを言われても、何も感じない方法を身につけていました。それはどういうことなのかというと、理不尽なことを平気で口にするような上司を心の中で見下すんです(笑)そうすれば、ムカつくこともなくなる。

 相手を自分と同等、もしくは上だと思っているからムカつくんだと思います。下に見ている人間から何を言われてもムカつかない。バカだな、何もわかっていないなと思うだけです。仕方ないな〜、俺がなんとかしてあげようかって考えます(笑)
自分と合わない人は必ずいるので、気にしないようにすること一番と説く。
―2014年のシーズンで引退されました。

 気力はあるけど、体がついていかなくなり、満足いくプレーができなくなったので、すぱっと辞めることにしました。ずるずるとしがみつく気はなかった。辞めるのなら、早いほうがいい。セカンドキャリアの成功率が下がるのだけは避けたいと考えていました。

 思い通りのプレーができないまま、無駄にプロ野球選手として過ごしていたら、残りの人生が減ることになる。そうしたら、第2の人生にチャレンジする時間も減ってしまう。時間が少なければ少ないほど、セカンドキャリアの成功率は下がってしまいます。先ほど、会社が嫌だったら辞める選択肢もあると言いましたが、決断するのであれば、早いに越したことはありません。

―第2の人生をどう送るか、プランはあったのですか。

 具体的に、こうしようと考えていたわけではありません。ボクは現役時代に税理士と相談して、引退後に仕事をしなくても、80歳まで余裕をもって生きられる金額を計算していた。そして、その額を目標に貯蓄をして、引退までに資産形成ができた。これは大きな安心感を生みました。もし、セカンドキャリアが思うようにいかなくても、怖いと感じる必要がなくなった。目先のことなど考えず、なんでもトライできる体勢ができたんです。

―現在、野球解説者、テレビやラジオのパーソナリティをはじめ、さまざまな分野で活躍されています。YouTuberにもチャレンジ。チャンネル登録者数はまもなく50万人に到達しようとしています。

 YouTubeに進出したのはたまたまです。引退した年に、ボクはロッテのビックリマンチョコの終身名誉PR大使に任命して頂きました。毎年、エイプリルフールの4月1日にCMをつくったり、ウソ記者発表会をして、ビックリマンチョコのプロモーションをするんです。

 2019年の企画がYouTubeだった。そこで4月1日に合わせ5~6本のプロモーション企画をつくると、ロッテの担当者が「これで終わりなので、チャンネルを閉めましょうか? どうします?」と聞いてきた。YouTubeには以前から興味があり、何かできるかもしれないと思い、「このまま置いといてもらえますか」とボクが言うと、OKの返事。

 ただ、そこから特に進展もせず、休止状態になっていた。動きだしたのは2019年の7月。先にYouTubeを始めていた高木豊さん(元プロ野球選手、横浜ベイスターズほか)から一緒にやらないかと声をかけてもらって、あとはトントン拍子に進んでいったんです。

―セカンドキャリアでも成功されているように映りますが、いろいろな苦労があった?

「すごい努力をされましたね」と言われて、「ハイ」と答えるような人は二流だとボクは思っているんです。したと言われれば、たしかにしたのかもしれないけれど、選手時代も含め、目標のために必要だったからやっただけのこと。「それって努力なの?」という気がするんですよね。結果を残していない人間ほど、「こんなに頑張っています」と努力をアピールする傾向があると思います(笑)

 うまくなるためや、成功するためにやっていることって、努力じゃないんです。自分が努力していると感じているうちは一流にはなれないと思いますよ。ビジネスマンのみなさんにも、努力が目的にならないように気をつけて欲しいですね。
努力を努力と感じない思考が成功への道と語る。
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WRITTEN BY

里崎 智也

さとざき・ともや
1976年、徳島県出身。
帝京大学野球部を経て、1999年千葉ロッテマリーンズ入団。2度の日本一。
2006年の第1回WBCに正捕手として出場。打率.409を記録し、日本の世界一に貢献。
2014年のシーズンで引退後は野球解説者、コメンテーター、YouTuberとマルチな活動をしている。
著書に里崎智也氏初の新書『シンプル思考』(集英社新書)など。

さとざき・ともや
1976年、徳島県出身。
帝京大学野球部を経て、1999年千葉ロッテマリーンズ入団。2度の日本一。
2006年の第1回WBCに正捕手として出場。打率.409を記録し、日本の世界一に貢献。
2014年のシーズンで引退後は野球解説者、コメンテーター、YouTuberとマルチな活動をしている。
著書に里崎智也氏初の新書『シンプル思考』(集英社新書)など。

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