連載

2021/12/11

かつて西ドイツの首都だったボン郊外の乗り歩き~思い出のヨーロッパ鉄道紀行~

ドイツ・ボン中央駅からコブレンツ中央駅まで

野田 隆

この記事をシェア

堂々たるボン中央駅
 ドイツのライン河畔にあるボンは大学都市であり、楽聖ベートーヴェンの生地だが、かつては西ドイツの首都だった。首都に似合わない小さくのどかな街。訪問した1994年は、ドイツが再統一されて4年後。首都の重責から解放され、かつての小都市に戻ってホッとしたかのような雰囲気を漂わせていた。
 この年のヨーロッパ旅行はフランスのパリを起点に、オランダ経由でドイツ入りし、最初に滞在したのがボンだった。3日ほどのんびり過ごしたが、ベートーヴェンの生家や大学を訪れ、一通りボンの名所をまわったので、ちょっと郊外を散策したくなった。
 それで中央駅前を発着していたトラム(路面電車)に乗車した。66番系統の電車でライン河対岸のケーニヒスヴィンターに向かう。路面電車といっても郊外は専用軌道を走るので、郊外電車と呼んでもおかしくない。
トラムでライン河を渡ってケーニヒスヴィンターへ
 もっとも路面電車なので、こまめに停車していく。Rheinaue を出ると、電車はライン河を渡る。その後、対岸を南下し、ケーニヒスヴィンターに到着した。ボン中央駅から25分ほどだった。ここで下車し、ドラッヘンフェルス(訳すと「竜の岩」)という標高321mの山に登ることにした。といっても登山電車が走っているのでハイキング気分のお手軽な散策だ。
登山鉄道の保存SL
 登山鉄道は線路幅1000㎜という狭軌でリッゲンバッハ式というアプト式に似たラックレール(歯車式)のある鉄道で急勾配を上っていく。麓の始発駅にはかつて走っていた蒸気機関車が展示されていた。電車は緑の濃淡に塗り分けられたツートンカラーで爽やかな感じがする。夏休みだったので、車内は親子連れなどで満員。何とか座れたものの狭いので窮屈だった。隣で幼児が両親と会話していたが、ドイツ語が上手いなあと聞きほれた(当たり前だが…)
ドラッヘンフェルスの登山電車
 10分ほど乗ると頂上に到着。自然の展望台になっていて、ゆったりと流れるライン河やボンの街並みが一望の下だ。周囲を見渡すと、山の中腹に古城が聳えていた。良い感じのお城であるし、山といっても丘のような標高なので、帰りは電車に乗らずに歩いていく。ドラッヘンブルク城は壁が茶系に塗られていて中世の城のようだが、19世紀後半(日本で言えば明治時代)に富裕な資産家が邸宅として建てたという。何だか歴史的ないきさつは有名なノイシュヴァンシュタイン城に似ている。
ドラッヘンブルク城
 さらに降りていくと、ニーベルンゲンハレという建物に出くわした。脇に作曲家リヒャルト・ワーグナーのレリーフが置いてある。言い忘れたが、このドラッヘンフェルスというのは、その名の通り竜伝説の地だ。ワーグナーの壮大な4部作「ニーベルングの指輪」のもととなったニーベルンゲンの歌の舞台となったところである。複雑なストーリーだが、英雄ジークフリートがここで竜退治をして、浴びた返り血のおかげで不死身になったものの、背中の一部のみは返り血を浴びなかったので、最後はそこを攻められ殺されるという話が、物語の中では有名だ。
 その竜伝説にちなんだというわけか、その建物は爬虫類館になっている。もっとも、そんな薄気味の悪いところには入りたくないので、さっさと丘を下りて行った。

 ケーニヒスヴィンターは他のドイツの小さな町と同じように花に囲まれた美しいところだった。麓の街中のレストランで簡単なランチを済ませたあとは、来た道を戻るのではなく、ここを通っているDB(ドイツ鉄道)の路線に乗りたくなった。この路線を南下してコブレンツまで行き、対岸を走る幹線でボンに帰ることにした。
ケーニヒスヴィンター駅を通過する貨物列車
 ライン河の両岸には鉄道が走っていて、西側(左岸)の路線はドイツを南北に貫く幹線のひとつで高速列車ICEをはじめ、国際列車やインターシティなどの特急列車が頻繁に走っている。
 一方、東側(右岸)は複線電化ではあるものの、大都市がないことから貨物列車とローカル列車のみの地味な路線だった。ライン河に沿って走る特急列車の車内からは、右岸を走る貨物列車やローカル列車をたびたび見かけていたのだが、乗ったことがなかったので、ボンへ戻るのに大まわりにはなるものの、この機会に乗ってみることにした。
自動車メーカーのロゴが描かれた貨車
 ケーニヒスヴィンター駅はクリーム色の瀟洒な駅舎だった。ドイツの鉄道模型のジオラマに出てきそうな建物だ。ボンから乗ってきたトラムや登山電車に比べると、観光地の駅なのに閑散としていた。ホームで列車を待っていると、北へ向かう長い編成の貨物列車がかなりのスピードで通過していった。通り過ぎると駅のはずれには貨車がたむろしていて、自動車メーカーのロゴを車体に描いた貨車も停車しているのが目に留まる。
コブレンツ行き普通列車
 列車は30分に1本程度あったので、それほど長時間待つことはなかった。やってきたのは電気機関車が牽引する普通列車で、客車は当時ローカル列車ではお馴染みだったステンレス車両。ドアが車体の端にはなく、中程2か所にあるもの。電車ではないし、色も違うけれど、日本の115系電車に似たような雰囲気だ。車内はクロスシート主体で、1等車はコンパートメントになっている。

 旅行中はユーレイルパスを持ち歩いていたので、ガラガラの1等車のコンパートメントを独り占めできた。列車は小さな駅にも丹念に停まっていく。南に向かうので、右側にライン河が見える。その先には何回も乗ったことがある幹線の特急列車が行き交っている。
コブレンツ中央駅からは北行きインターシティに乗車
リンツという駅にも停車した。リンツというとオーストリアの街が有名だ。紛らわしいためかLinz(Rhein)と、こちらはライン河畔の街だと注釈付きだ。聞くところによるとワイン祭りで有名らしい。

 50分ほどのんびり進み、突然ライン河を渡るとコブレンツ中央駅に到着。これまでの閑散さとは裏腹にホームは人でごった返していた。事故か何かあったようで、南へ向かう特急列車が遅れているとアナウンスしていた。
それに対して、北行きのダイヤ乱れはないようで、すぐにインターシティがやってきた。ボンまでの乗車時間は40分ほどだが、ユーレイルパスは1等乗り放題なので、迷うことなく1等車に乗車。相客がいないコンパートメントを独り占めして、ライン河の車窓を楽しみながら、変化にとんだ気ままな日帰り散策を締めくくった。
19 件

WRITTEN BY

野田 隆

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

KEYWORDS

この記事をシェア

おすすめの記事