連載

2022/01/15

豪華列車「サフィール踊り子」で伊豆へ

グリーン車のみの贅沢な車内空間

野田 隆

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バックシェルの座席、カフェテリアも備えた豪華列車の旅

東海道本線を快走するサフィール踊り子
 昨秋のこと、妻が伊豆の温泉宿のリーズナブルな食事付きプランを見つけてきた。「伊勢海老・アワビ・サザエなどのフルコースと飲み放題」というのが気に入ってさっそく予約してしまった。かなり予算を下回ったので、往復の列車にこだわってみようと人気の豪華列車「サフィール踊り子」をチェックしてみた。すると、1カ月近く前とあってプレミアムグリーン車が2席予約出来てしまった。帰りは比較の意味もあって同じ「サフィール踊り子」のふつうのグリーン車を予約。ちなみに「サフィール踊り子」はグリーン車のみの編成で、普通車はない。かなり長い間、夫婦で旅行していなかったので、たまには贅沢もいいかなと思った次第である。
プレミアムグリーン車
 待ちに待った当日。東京駅の9番ホームで待っていると、上野方面から「サフィール踊り子」が入線してきた。先頭の1号車がプレミアムグリーン車、ドアが開くと喜び勇んで車内へ入る。噂には聞いていたが、車内右側に通路があって、左側は大きなシートが2つずつ、それもほんの少し間隔をあけて並んでいる。東北新幹線のグランクラスや近鉄特急「ひのとり」のプレミアムシートと同じバックシェルの座席なので、大きくリクライニングしても後ろの人に迷惑にはならない。ふんぞり返るように座ってみると、天井の両側にも窓があり車内は実に明るい。椅子の構造上、隣がよく見えないので、赤の他人が座った場合プライベートが保たれる空間となる。妻に窓側を譲り、通路側に座ると車窓が楽しめないと思ったのだが、右側つまり山側の車窓は何ら問題なく眺めることができた。
プレミアムグリーン車の座席
座席のコンセントとドリンク置き場
 列車はいつの間にか東京駅を定刻通り発車して、東海道本線を滑るように進んでいく。意外なことに品川駅に停車するが、渋谷方面からの客の利便を図ってのことだろうか。かなり前に「スーパービュー踊り子号」に乗車した時は、品川を通過したことを覚えていたので意外だった。
 横浜駅を発車。相鉄線や横須賀線の線路を走る湘南新宿ラインの電車と並走する。ところで、サフィール踊り子号にはカフェテリアがある。列車内の自席とは別のテーブル席で食事を摂れる機会というのは最近ではほとんどなくなってしまった。それで、何としてもカフェテリアで昼食をしたいと思い、事前にスマホで予約を取っておいた。メニューと時間帯も選ぶようになっていて、指定時間は11時45分から30分間、それゆえ大船駅に近づく頃に4号車のカフェテリアに向かった。通り抜ける2号車と3号車はコンパートメントになっていて4人または6人用の個室だ。山側になる通路を歩いていると、まるでヨーロッパで何回も乗った国際列車のコンパートメント車両の雰囲気を思い出した。
2号車の通路
 4号車のカフェテリアに到着。スマホ画面を見せて、指定された席に着く。妻と2人なので、4人掛けのテーブル席ではなく、窓を向いたカウンター席に並んで腰をおろした。時間的には、国府津あたりで相模湾を眺めながら食事ができるはずだったのだが、その日は小田原の先で先行する列車が人身事故を起こしたとのアナウンスがあり、しばらく大船駅で停車するはめになってしまった。残念ながら大船駅の暗い構内を眺めながら、注文しておいたパスタを食べた。軽食と銘打っているだけあって、それほど量は多くなく、値段は税込みで1000円をいくらか超える程度。乗車時間もせいぜい2時間ほどなので、かつての北斗星やカシオペアのような豪華なものではない。
カフェテリアでの食事はイタリアン
 食事時間が終わる頃、列車は運転を再開。30分ほどの遅れだ。熱海まではノンストップなので、遅れを取り戻すかのようにかなりのスピードで飛ばす。往年の東海道本線を走っていた優等列車を彷彿とさせるような堂々たる走りだ。小田原を過ぎると、相模湾を間近に見ながら進む。食事をしながらの旅は叶わなかったけれど、この付近の車窓は何度通っても飽きることがない。絶景区間のひとつに挙げるのを躊躇することはない。
相模湾の車窓 小田原~熱海間
 熱海を出ると伊東線に乗り入れる。トンネルが多く、単線なのでスピードは出ない。時刻表上は伊東駅まで伊東線内の駅はすべて通過になっているが、列車の行き違いがあるため複数の駅で運転停車がある。JRの路線ではあるものの、熱海と伊豆急下田を結ぶ普通電車のほとんどは伊豆急の車両だ。何も知らないと熱海から先が伊豆急だと思ってしまう人もいるであろう。
伊豆高原駅付近で見かけた伊豆急の旧型車両
 伊東駅で運転士が伊豆急の乗務員に交代する。席に着く前に車内に向かって一礼するとは礼儀正しく、こちらが恐縮してしまう。いよいよ伊豆急線だ。やはり単線でトンネルも多い。海岸近くを走っているはずなのだが、意外に海が見える区間は少ない。車両基地がある伊豆高原駅では、到着直前に右手に伊豆急の旧型車両がちらりと見えたり、左手には豪華列車「THE ROYAL EXPRESS」の本体や北海道を走行するときに使う白い電源車が停まっていたりして鉄道ファンには興味深いものがある。
海岸に沿って走る伊豆急線内の絶景区間 片瀬白田~伊豆稲取
 駅周辺で湯けむりが立ち昇る伊豆熱川駅を出て、片瀬白田駅を通過すると相模灘に沿って走る。伊豆急屈指の絶景区間で車内放送もある。晴れていれば伊豆大島も見えるのだが、生憎の曇天で島影は確認できなかった。それでも、通路を進んで運転台の後ろの前面展望を見ていると、海岸線を走る様子がよく分かり実に見ごたえがあった。
河津駅を発車するサフィール踊り子
 伊豆稲取駅に停車すると、数分で河津に停車。宿はここが最寄り駅なので下車する。30分ほど遅れた時間だけ長く豪華車両に乗っていられたので満足だった。列車を見送って、タクシーで宿に向かった。
サフィール踊り子のふつうのグリーン車車内
 翌日は、伊豆急下田駅に出て昼食を摂り、妻の買い物に付き合ったりして、往路と同じく「サフィール踊り子号」で東京駅に戻った。比較する意味で、普通のグリーン車に座った。在来線特急「あずさ」「ひたち」のグリーン車は通路を挟んで2人席が並ぶのに対し、この列車のグリーン車は2人席と1人席という配置でゆったりしている。いきなりこのグリーン車に乗ったのなら大満足だったであろうが、往路にプレミアムグリーン車に乗ったばかりだったので、大した感動もなく過ごしてしまった。ある意味、もったいない話である。それでも、ひさしぶりの鉄道旅で豪華列車に乗れたのだから思い残すことはなかった。
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WRITTEN BY

野田 隆

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

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