連載

2022/02/05

SL代行V200形ディーゼル機関車のイベント運転~思い出のヨーロッパの鉄道紀行~

ドイツ・ハンブルクの中央駅からレトロ列車に乗る

野田 隆

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恐竜を思わせる風貌のV200形

ハンブルク中央駅にやってきたV200形ディーゼル機関車
 1990年夏のこと、北ドイツの大都市ハンブルクの中央駅を発車するSLイベント列車が運転されるというので、2、3日前に駅窓口で指定券を購入し楽しみにしていた。

 当日の朝、ハンブルク中央駅のホームで列車を待っていると、指定された時刻に入ってきたのは、SL列車ではなく、ディーゼル機関車に牽引されたレトロな列車だった。変だなあと思っていると、近くの人や駅員が「Kaputt(故障だ)」と言っている。たどたどしいドイツ語で切符を見せながら駅員に尋ねると、蒸気機関車が故障してしまったので、本日のイベント列車はディーゼル機関車が牽引することになった。あなたの指定券は、この列車のものだから、車内へどうぞ、と説明してくれた。

 ディーゼル機関車といっても、当時、現役で活躍していた機関車ではなく、すでに第一線を退いていたV200形という機関車だ。恐竜を思わせる独特の風貌は、メルクリンの鉄道模型ではお馴染みだったが、本物を見るのは初めて。当初予定されていた01形1100号機にお目にかかれなかったのは残念だが、これはこれで貴重な車両なので納得して列車に乗り込んだ。
ハンブルクの古びた家並をバックに進む列車
 客車はダークグリーンに塗られた旧型車ばかり。1両だけ赤い食堂車がつながっていた。かなり年季の入ったつわもの揃いである。私の予約席は、コンパートメント(個室)ではなく、日本でもおなじみの向かい合わせのボックス席だった。一人旅だったので、ドイツ人の家族と相席になる。面白いことに両親と女の子の3人。父親もそれほど鉄道が好きな感じではない。ある意味、まともな家族で、列車に乗って日帰りの遠足に行くような雰囲気である。目的地が湖畔のリゾート地なので、乗客は鉄道ファンばかりではない。家族は、皆、人見知りをする性格なのか、静かに微笑むばかりで、話は弾まない。

 ほぼ定時に発車。列車はリューベック方面に向かうので、すぐに左へカーブしていく。線路際の古風な街並みが、レトロな編成の列車によくマッチしている。車掌が検札にやってきた。SLは故障したけれど、代わりの機関車を旧東ドイツ地区に手配しているから、帰りはSL牽引になるかもしれないとのこと。わざわざ日本から乗りに来たのに、と言ったら、お詫びの印にと、当日の行程表のコピーをプレゼントしてくれた。
撮影用の列車が追い抜いていく
 最初の停車駅で、カメラ片手のいかにも鉄道マニアという風情の男たちが何人もホームに降り立つ。何事かと思うものの事情がよく分からない。勝手に列車から降りて迷子になっても困るので、車内から様子を眺めるばかりだ。やがて発車。駅を出ると、列車は複線の左側を走り出す。ドイツは右側通行なので、これは異例のことだ。もっとも、線路工事などで一区間を左側通行することは時々あるから、その手のことなのかなと思っていた。やがて、線路がさらに分岐し、複々線のように広がる。すると、一番右側の線路を別の列車が追い抜いていく。列車の窓を開け、身を乗り出すように私が乗っている列車の写真を撮影する者が何人もいる。しばらくして、次の駅に停車すると、カメラ片手の鉄道ファンたちが車内に戻ってきた。

 先ほど車掌からもらった行程表をじっくり眺めると、Parallelfahrt(並行運転)と書いてある。なるほど、別の列車からイベント列車を撮影するためのサービスだったのだ。もう少しドイツ語が達者だったら、車掌もアドバイスしてくれたかもしれないと思った。

 古色蒼然としてSL時代から使っているような煤けたドームに覆われたリューベック中央駅に到着。北欧へ向かうときに何回か通った駅で、街を散策するために降りたこともある。列車は数分停車した後、発車。北欧へ向かう「渡り鳥コース」ではなく、北西へ延びる単線のローカル線に乗り入れた。

 ずっと座っていたので、気分転換に車内を散策する。賑やかないかにも鉄道ファンといった感じのドイツ人のグループがいた。挨拶してきたので応対すると、どこから?日本人?と訊いてくる。Ja(ヤー=はい)と答えると、日本人に会うのは珍しいらしく、質問攻めにあった。新幹線をはじめ、日本の鉄道について、ドイツ語と英語で尋ねてくる。数字を挙げて比較するなど、理数系に強いドイツ人らしい。車掌が午後になるとSLを借りてくると言っていたけれど本当なのかな?と訊いてみると、ちょっと微妙だろうね、とのことだった。
瀟洒なプレーン駅
プレーン湖で船を待つ人々
船上から眺めたプレーン城
 盛り上げっているうちに列車は、プレーン駅に到着。ここで、湖をめぐる遊覧船ツアーがあるとのことで、全員下車することになった。ドイツ人の鉄道ファングループと一緒に湖畔に向かい乗船。意外に大きな船で船内にはカフェテリアもある。売店で軽食とドリンクを購入して、しばし船旅を楽しんだ。白亜のプレーン城が見え、のんびりと時間が過ぎていく。
休憩中のV200形DL
 1時間ほどの船旅が終わっても、列車の発車時間までは相当余裕がある。わが国のツアーだったら、トイレ休憩くらいで次の目的地に向けて発車するのだろうが、こうした点はお国柄というべきだろう。本格的なレストランで寛いだり、湖畔を散策するグループもいるけれど、先ほどの鉄道ファンたちと一緒に列車の写真を撮ることにした。イベント列車は定期列車の邪魔にならないように駅近くの側線に入って待機中だ。様々な角度からV200形ディーゼル機関車や旧型客車、それにたまたまやってきたこの路線を走る列車などじっくりと撮影できた。
イベント列車の旧型客車
イベント列車の食堂車
V200形とディーゼルカーの出会い
 ようやく、発車時間が近づいてきたので駅に戻ると、列車が側線から入線。乗り込んで発車を待つ。帰りは来た道を戻るのではなく、別ルートだという。どんな行程なのか楽しみだ。 つづく
プレーン駅に到着する定期列車
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WRITTEN BY

野田 隆

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

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