連載

2021/11/13

ドイツでのSL列車~思い出のヨーロッパ鉄道紀行~

ドイツ東部の小さなSL列車

野田 隆

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 ドイツ東部の都市ドレスデン近郊には小さなSL列車が走っている路線がいくつかあった。そのうちのひとつでも訪問したいと思っていたのだが、1999年夏にようやく実現した。
ラーデボイル・オスト駅に停車中の客車

ドレスデン近郊のSL狭軌鉄道を訪ねて

 まずは、ドレスデン中央駅からドイツ鉄道(DB)の近郊列車Sバーンに乗る。Sバーンはドイツ各地の大都市近郊を走っていて、ベルリンやハンブルクなどは電車なのだが、ドレスデンでは2階建て客車を電気機関車が引っ張ったり押したりして走る形態だった。
 そのうち、S1というマイセン方面へ向かう列車に乗って15分、ラーデボイル・オスト(東)駅に降り立つ。
ラーデボイル・オスト駅で準備中のSL
 Sバーンから降りたホームの反対側が、これから乗ろうとするラーデブルク行き(ラーデボイルと紛らわしい地名である)のローカル線乗り場だ。Lößnitzgrundbahnという路線で、同じDBなのに、線路の幅は750ミリで本線(1435ミリ)の半分ほど、いわゆる狭軌鉄道である。

 当時、列車は2時間毎の発車で、すべてSL(蒸気機関車)牽引だった。小さなマッチ箱のような客車が何両も連なってすでにホームに横付けになっていた。まるで、テーマパークを走るおもちゃの汽車みたいだが、れっきとした公共交通機関である。
 ホームの端から少し離れたところに車庫があり、小さな機関車が煙を上げて発車準備中だ。やがて、甲高い汽笛を鳴らしながら姿を現し、99形742号機というナンバープレートを掲げたSLが目の前をゆっくりと進み、列車の先頭に連結された。
客車の内部
 客車に乗り込むと、定時に発車。列車は、ごろごろと動き出す。しばらくは、マイセン方面への本線に沿って走る。後ろからスマートな特急列車(オイロシティEuroCity)が颯爽と、わがSL列車を追い抜いていく。
 やがて、SL列車は右へ大きくカーブし、本線と分れてラーデブルクを目指す。最初は、住宅地の中を、けたたましく鐘を鳴らしながら進む。安全対策なのだろうか? 大きな踏切があり、路面電車と平面交差する。残念ながら電車は停まっていなかったが、SLと路面電車が交わるフォト・スポットとして有名な場所である。

 市街地を離れると、草原を走ったり、森の中を駆け抜けたりする。カーブも多く、窓を大きく開けて写真を撮っていたら、近くの開いている窓をパタンと閉めてしまったおばさんがいた。沿線のまともな利用者でSLなど珍しくも何ともないのだろう。わざわざ乗りに来る鉄道ファンを鬱陶しいと思っているようだ。何枚も撮影して堪能したので、そっと窓を閉めて大人しくシートに腰をおろした。
モーリッツブルク駅でのすれ違い(上り列車車内から)
 一応DBの路線なので、駅で発着する際は、車掌や駅員が、棒に円板の板を取り付けたドイツ独特の指示標識を振りかざして安全確認をしている。湿地帯の中の築堤を進んで、この路線のほぼ中間地点にあるモーリッツブルク駅に到着。
 お城がある沿線随一の観光地の最寄り駅なので、大勢の乗客が降りていく。すれ違いのできる駅なので、向かい側にも列車が停まっている。そちらもSL列車だ。ただし、終点に機関車の向きを変える転車台がないらしく、機関車は後ろ向きになって客車の先頭に立っている。とはいえ、今どき、SL列車同士のすれ違いは大変珍しい光景だ。
か細い線路が延びる
 とりあえず、ここで下車しないで終点まで行ってみることにした。発車すると牧草地のようなところをのんびり走っていく。車内はガラガラで、さきほどのおばさんも降りてしまったようだ。心置きなく窓を開けてSL列車の旅を楽しんだ。
 客車の最後尾から眺めると、か細い線路が頼りなげに延びている。客車がゆらゆら揺れるのも納得だ。始発駅のラーデボイル・オスト駅を発車して50分ほどで終点のラーデブルクに到着。機関車が切り離されて構内の片隅に停車。水を飲んだり、石炭を補給したりして帰路に備える。

 私以外の鉄道ファンもいるけれど、日本みたいに「密」になるほどはいない。皆、のんびりと機関車を撮影したり、眺めたりしてゆったりと過ごしている。
終点ラーデブルクで待機中のSL
 帰りは後ろ向きになった機関車に牽かれて戻る。単純に往復するだけではつまらないので、お城の最寄り駅モーリッツブルクで下車した。上下2本のSL列車が相次いで発車してしまうと、駅は人っ子一人いなくなってしまった。お昼過ぎだったのでお腹が空いてきた。

 ただし、どこに何があるのか皆目見当が付かない。不安に思いながら駅舎をのぞいてみたら、制帽を被った女性の駅長さんがひと仕事終えてくつろいでいた。少々お歳を召しているようだが、美しい人だ。レストランは駅から少し離れたところにあることや、お城までは歩いても15分くらいだと笑顔で教えてくれた。
モーリッツブルク駅
 駅長さんに言われたとおりに歩くと、集落がありレストランもあった。ドイツ風カツレツともいうべきシュニッツェル風の豚肉とサラダのついた定食を注文。ドイツなので、もちろんビールも飲む。食後は散歩がてら駅周辺を線路に沿って散策。踏切近くに見通しの良い場所があった。バックには森があり、手前は芝生になっている。
 小径の脇には瀟洒な建物があり、中がよく見えるがお年寄りが多い。老人ホームのようだ。このあたりで、SL列車の走りを撮影しようと決めた。
モーリッツブルク駅を発車したSL列車
 待つことしばし。まずはラーデブルクからのSL列車がやってきた。機関車はお尻を向けた状態だ。駅に到着すると、下り列車も到着。駅での列車交換の様子が手に取るようにわかる。2~3分すると甲高い汽笛が鳴って下り列車が出発。あまり煙を吐かなかったのは残念だったが、ゆっくりと目の前を通過していった。

 帰りの列車は2時間後。時間がたっぷりあるので、お城を訪問することにした。駅長さんに教えてもらったとおり、小さな街のメインストリートを進む。並木道になっていて、両側にはお店や住宅がある。こんな小さな街にもおもちゃ屋があり、ショーウインドウには本格的な鉄道模型が置いてある。さすが、ドイツだと驚く。
モーリッツブルク城
 15分ほどでお城に到着。手前には大きな駐車場があり、観光バスやクルマがぎっしり駐車している。駅前の閑散とした様子とは対照的だ。汽車で来る人もいるのだが、大半はドレスデンからバスやクルマで来るようだ。
 水を満々と湛えたお濠で四方を囲まれたお城は、赤茶色の丸屋根にベージュ色の壁で窓付近は白く、明るいたたずまいだった。ザクセンのモーリッツ公のために16世紀に建てられた狩りの城ということで、内部には狩猟の道具や狩りで射止めた動物の頭などが展示されている。お城は手つかずの自然のままの森に囲まれていて、城以外の建物はない。もちろん看板などは一切なく、大変に落ち着く情景だった。
モーリッツブルク城のテラスから湖畔を望む
 訪問して数年後、2004年には、この鉄道はDBから分離し、ドレスデン近郊のいくつかのSLが走る鉄道と一緒になってBVO鉄道の一路線となった。モーリッツブルクとラーデブルクの間の利用客が少ないゆえに、半数の列車はモーリッツブルクで折り返すようになり、SL列車同士のすれ違いは、定期列車では見られなくなってしまった。
 赤字や合理化のためだが、残念なことである。良い時期に訪問したと思う。
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WRITTEN BY

野田 隆

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

のだ・たかし
1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。
蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

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