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2022/01/21

霊場・恐山ならではの〝極楽〟温泉と〝地獄〟景観

日本の三大温泉聖地①  恐山温泉[青森県]

石川 理夫

写真/石川理夫

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恐山菩提寺の境内に泉源がある恐山温泉

死者の魂が集まる山として「日本三大霊場」の一つとされる下北半島の山岳・温泉霊場

 本州最北端の下北半島中央部に連なる火山群を総称する恐山は、平安時代前期の天台宗座主(ざす)・慈覚大師円仁(えんにん)が入唐求法から帰国したあと開山した、という開山伝承がある。高野山や立山同様に死者の魂が集まる山として古くから信仰の対象、巡礼の場となり、「日本三大霊場」の一つとされる。

 ピラミッド型の霊力みなぎる山容を誇る標高828mの外輪火山・大尽(おおつくし)山が、三途(さんず)の川から流入する高温の酸性硫黄泉によりコバルト色をたたえた宇曽利(うそり)山湖に山容を映す光景は、幻想的ですらある。湖岸の白い極楽浜の奥は噴気地帯で、亡き子を供養する風車群がカラカラと回り、地獄の様相を呈する。一帯は恐山菩提寺(曹洞宗円通寺管理)の境内地で、本尊の延命地蔵菩薩への地蔵信仰参詣も盛んだった。
湯小屋「花染湯」
 境内地に熱泉も噴出し、宿坊内浴室を除く4か所の木造湯小屋(男女別と湯治混浴)が点在し、一般開放されている。浴槽からは青白色をたたえた熱い源泉があふれ、床を洗い流す。

 宗教的聖地そのもので、外は荒涼たる地獄景観。湯小屋内は“温泉の極楽”。対極ぶりに温泉霊場の醍醐味を味わうことだろう。
冷抜(ひえ)の湯(男湯)、古滝の湯(女湯)、薬師の湯(男女入れ替え)、花染の湯(混浴)がある。

まだまだある全国の温泉聖地[北日本~北関東]

  • 大滝温泉(秋田県大館市)● 江戸時代に菅江真澄が歴史的泉源「ススキの出湯」に神仏習合で温泉(ゆ)の神を祀る「薬師仏の堂」(現薬師神社)があることを記録。薬師神社を中心に温泉地が形成された。
  • 湯田川温泉(山形県鶴岡市)● 『延喜式』神名帳に温泉神社の由豆佐賣(ゆづさひめ)神社記載。今も温泉街を前にうっそうとした杉木立の中に鎮座。由豆佐賣は泉源地の湯出沢を司る日本唯一の希有・貴重な温泉女神。
  • 湯殿山温泉(山形県鶴岡市)● 芭蕉が奥の細道の旅で「語られぬ湯殿にぬらす袂かな」と詠んだように社殿もない湯殿山のご神体は神聖な泉源そのもの。写真撮影も公開も禁じられた修験の霊場、温泉聖地。
  • 日光湯元温泉(栃木県日光市)● 奈良時代に日光の山を霊場として開山した勝道上人が開湯。後に温泉寺が開かれた。境内が泉源地で、旅館街に配湯。寺湯として寺内で「薬師湯」も体験できる。
  • 那須湯本温泉(栃木県那須町)● 泉源地に建つ延喜式内社の温泉神社が今も鎮守し、下手に共同湯が多い温泉街が形成された。噴気上る泉源地帯に名勝・殺生石があり、九尾の狐伝説も伝わる。
『一個人』冬号 特集「開運の聖地100」より抜粋
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WRITTEN BY

石川 理夫

いしかわ・みちお
温泉評論家
1947年、宮城県生まれ。東京大学法学部卒業。日本温泉地域学会会長。環境省中央環境審議会温泉小委員会専門委員。著書に『温泉の日本史』(中公新書)『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)など多数。

いしかわ・みちお
温泉評論家
1947年、宮城県生まれ。東京大学法学部卒業。日本温泉地域学会会長。環境省中央環境審議会温泉小委員会専門委員。著書に『温泉の日本史』(中公新書)『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)など多数。

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