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2022/01/30

「湯に浸かれる世界遺産」も 聖地熊野の湯垢離場

日本の三大温泉聖地③ 湯の峰温泉[和歌山県]

石川 理夫

写真/石川理夫

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〝湯に浸かれる世界遺産〟「つぼ湯」。

世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれる聖地・熊野本宮詣での湯垢離場

 湯の峰温泉はユネスコ世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産「熊野参詣道・中辺路(なかへち)」に含まれ、「湯峯王子社」も残る。そして構成資産「熊野三山」の聖地・熊野本宮参詣の際身を清める湯垢離場だった。

 湯脈が走る湯ノ谷川の川床から湧く天然湯壺「つぼ湯」に平安時代の1109年11月、入湯した右大臣藤原宗忠はその感激を日記『中右記(ちゅうゆうき)』に「…神の験(しるし)にほかならない。この湯に浴すれば万病を消除するといわれる」と記した。
つぼ湯のすぐ近くある東光寺は、小栗判官の蘇生伝説ゆかりの地でもある。
「つぼ湯」は、中世以降流行した説経節(仏教の道理を説く口承文芸)『をぐり』を通じて、地獄に一度堕とされた小栗判官(おぐりはんがん)が照天姫(てるてひめ)と時宗(じしゅう)の聖らの助けで湯治して蘇る「再生の湯」として知られる。さらに温泉寺にあたる東光寺の秘仏本尊は温泉名の由来となる湯胸(ゆのむね)薬師像で、温泉成分が堆積して造形されたご神(仏)体である。

 川床には今も健在の「つぼ湯」と92℃の熱泉が湧く「湯筒」が並び、東光寺と共同浴場が上手に建つ。参詣道が川沿いの温泉街を横切っている。「ゆ(う)や」と読める熊野の神社が温泉の守護神に加わったのも、「熊野本宮之湯」として権威を持つ湯の峰温泉のおかげ。温泉霊場の雰囲気を保つ、まさしく人が蘇る温泉聖地である。
時宗開祖の一遍が岩に経文を爪で刻んだと伝わる「一遍上人名号碑」 。一遍は熊野権現のご神託を受け、熊野詣でに訪れた。

まだまだある全国の温泉聖地[西日本]

  • 満願寺温泉(熊本県南小国町)● 鎌倉幕府がモンゴル帝国の侵攻(元寇)という国難にあたる祈願所として開基した満願寺門前を流れる志津川の川辺と底から自然湧出し、川湯もある門前温泉。
  • 別府鉄輪温泉(大分県別府市)● 古代から利用もかなわなかった熱泉地獄地帯を時宗開祖の一遍上人が「蒸し風呂」活用で温泉開発。今も温泉寺下に共同湯と蒸し湯広場がある。
  • 浜児ヶ水(はまちょがみず)温泉(鹿児島県指宿市)● 薩摩半島南端、浜児ヶ水海岸高台の共同湯のみの温泉。地区の墓地と納骨堂が楠の大樹茂る広場にあり、隣に老人憩いの家と共同湯。ニライカナイ信仰につながる集落の聖地。
『一個人』冬号 特集「開運の聖地100」より抜粋
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WRITTEN BY

石川 理夫

いしかわ・みちお
温泉評論家
1947年、宮城県生まれ。東京大学法学部卒業。日本温泉地域学会会長。環境省中央環境審議会温泉小委員会専門委員。著書に『温泉の日本史』(中公新書)『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)など多数。

いしかわ・みちお
温泉評論家
1947年、宮城県生まれ。東京大学法学部卒業。日本温泉地域学会会長。環境省中央環境審議会温泉小委員会専門委員。著書に『温泉の日本史』(中公新書)『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)など多数。

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