特集

2022/01/26

夏目漱石も湯治した箱根の温泉霊場

日本の三大温泉聖地② 姥子温泉元湯[神奈川県]

石川 理夫

写真/石川理夫

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天然岩盤湯壺「姥子の湯」は箱根八湯の一つ。源泉の湧出する大岩は御神体のように注連縄がかかり、修験の湯垢離場としての起源を今に伝える。

室町時代の石造薬師座像と地蔵菩薩立像の寺堂、石仏群が並ぶ、箱根の自然湧出泉の温泉霊場

 首都圏から近い大観光温泉郷箱根に温泉霊場があるとは思えないだろう。大涌谷の北西下で高度成長期に掘削による温泉開発が始まり、姥子温泉と総称されるが、その元湯にあたる。

 明治半ばに現在の一軒宿「姥子秀明館」が開業した。山姥と金太郎伝説にちなみ、江戸以前から「姥子の湯」と呼ばれる。夏目漱石も眼病で2週間湯治したように、源泉に殺菌力のある明礬を含む「目の湯」として評判だった。

 箱根でも希有な季節性の自然湧出泉を保つ。箱根権現神領の大涌谷(元地獄山)から賽の河原もあった姥子の湯にかけては山岳信仰の修行場・霊場で、室町時代には姥子山長安寺も起立された。温泉が湧くためで、江戸時代の史料に「禅定(ぜんじょう)之湯」とあるとおり、修験者の湯垢離場で湯治場でもあった。
姥子元湯秀明館の敷地内にある霊場空間。姥子堂には木造地蔵菩薩像と山姥像が安置される。
 森と静寂に包まれた姥子秀明館の敷地には、寺の境内みたいに江戸時代の年号を刻む墓石群や石仏群、室町彫刻の特徴を持つ石造薬師如来座像を本尊とする瑠璃光堂、地蔵菩薩立像や山姥像が鎮座する姥子堂、箱根権現の石祠が天然岩盤湧出湯壺を守護する配置で並ぶ。貴重な温泉霊場景観である。

まだまだある全国の温泉聖地[中日本]

  • 箱根湯本温泉(神奈川県箱根町)● 奈良天平年間に白山信仰の聖が開湯したと伝わり、白山神社と熊野神社が元湯泉源と温泉街を守護する景観構造を保つ。北条氏の菩提寺・早雲寺の寺内温泉町でもある。
  • 別所温泉(長野県上田市)● 「信州の鎌倉」と言われ、周囲の国宝の三重塔はじめ古寺古搭が多い。温泉街は観音信仰の霊場・北向観音の門前町としてのたたずまいを保つ。
  • (湯田中)渋温泉(長野県山ノ内町)● 一帯は山岳信仰・修験道の行場で、温泉寺も開創。石畳の温泉街は寺の山門下から始まる。「厄除け順浴」で九つの外湯を巡り、最後に高薬師参りで結願となる。
  • 立山地獄谷温泉(富山県立山町)● 標高約2300mと日本最高所に湧く温泉で、立山信仰の対象。平安時代の『今昔物語集』は「人は罪をつくると、立山の地獄に堕ちる」と記す。その供養に詣でる霊場。
  • 山代温泉(石川県加賀市)● 加賀温泉郷の山代・粟津・山中温泉は神仏習合の白山信仰の修験者が開湯に関わる。山代温泉は薬王院温泉寺の門前温泉町で、寺の下の総湯広場「湯の曲輪(がわ)」が核となっている。
『一個人』冬号 特集「開運の聖地100」より抜粋
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WRITTEN BY

石川 理夫

いしかわ・みちお
温泉評論家
1947年、宮城県生まれ。東京大学法学部卒業。日本温泉地域学会会長。環境省中央環境審議会温泉小委員会専門委員。著書に『温泉の日本史』(中公新書)『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)など多数。

いしかわ・みちお
温泉評論家
1947年、宮城県生まれ。東京大学法学部卒業。日本温泉地域学会会長。環境省中央環境審議会温泉小委員会専門委員。著書に『温泉の日本史』(中公新書)『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)など多数。

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