特集

2021/10/09

そうだ、名越先生に聞いてみよう。

【「自分」や「不安」との付き合いかた】名越康文さんインタビュー

名越 康文

●写真/岡崎隆夫 ●取材・文/笹本健児(「一個人」編集部)

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 健康長寿の実現には心の安寧が欠かせないが、特にコロナ禍以降は種々の不安が高まっていると感じている人が多いのではないだろうか。そんな中、私たちはどのように自分や自分の中の不安と付き合うべきなのか…そのヒントを乞うべく、「「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント」(宝島社)を上梓したばかりの名越先生を訪れた。
「教え諭すのはあまり好きじゃないですけど、それでもよければ…」
 そう言いながらソファに腰を下ろした先生にさっそく話を聞いた。

「早く教えて」って言われても…ぼくにもわからない

───最近は怒っている人、イライラしている人が増えている気がします。
名越─イライラすることが良い悪いというよりも、誰かに頼っている…知らず知らずに依存心が生まれている時にイライラし易いということを知っておくだけで違うと思います。「あいつのせいだ」と思うと増大するイライラも、「自分も当てにしていたんだ」と思えば和らぎます。

───イライラした時の対処法はあるのでしょうか?
名越─ゆっくり八つ数えながら吸う吐くの深呼吸をすると大概おさまりますが、「相手が悪いのに…」と思っていれば「なんで自分が…」となりませんか。対処はいわば絆創膏のようなものです。そもそも「なぜ自分は怒るのか?」を考えてみることの方が応用が効きます。今は考えることが苦痛になっているのか、みんな「何が正し
いの?」「早く教えて」となりがちですが…自分の怒りの原因は自分にしか分かりません。

───現代は「個の時代」「多様性の時代」と言われますが、SNSなどでは無理をして、不幸になっている人も少なくないよう感じます。
名越─今は移行期なので、次から次へといろいろなものが乱立するでしょう。そこに不安を感じる人もいれば、向いている人もいます。でも、「みんながやっているから安心」という気持ちは、恥ずかしいけどぼくの中にもありますよ。ただ、その弱さは認めたい。でも常に意識しておきたいと思います。

───コロナ禍によって自宅時間が増えました。多くの人は家族との時間を求めていたはずなのに、実際は離婚が増えているというデータもあります…これはなぜなのでしょうか。
名越─そこに留まると、何も見えなくなってしまいます。「自分にとって、家族とは何か」が無い状態では、自分に足りないものを見つけては鬱感情になってしまう。幸せは個人的なものなのに、アベレージに近づこうとすれば、ほとんどの人はそれを下回ってもっと苦しくなる。「幸せになりたい」と言うけれど、「幸せとは何か」を問わない。現代だけではなく、いつの時代も「こうすれば幸せになれる」のようなハウツーばかりが存在していました。

だから本当は、この取材も受けるべきじゃないんです

───なんだか、すみません…。
名越─いえいえ、僕も一緒です。みんな、刷り込まれた「理想」を、無意識に「強制」されているのです。例えばぼくが「家族とはこうであるべきだ」と答えたとしたら、ぼくは「誰かを強制する人」になってしまう。そうすると読んだ人は余計に苦しくなる。そういう意味では、人を怖がらせる情報や何かに急かす言葉が溢れています。人は日に日にがんじがらめになってしまう。人間ってそういうものなんです。もしかしたらこういう記事もないほうがいいのかも(笑)

───「自分にとっての幸せ」は大人になるにつれて、見失っていってしまうものなのでしょうか? 例えば子どもの頃は、もっと夢があったような気がするのですが…。
名越─自分達が子どもの頃だって、人気のゲームが欲しいとか大きなカブトムシを捕まえたいとか、そんなことが全てだったんじゃないでしょうか。すでにそこから、かなりの意訳がされている気もします。それだけ、大人になると膨大な刷り込みがある。でも、みんなが同じ幸せを目指すという「共同幻想」を取り外すのはすごく怖いのです。それが幸せか不幸かはわからないけど、「なんとなく大丈夫そうだ」という思い込みが皆にあった頃が良かったという人が多いのならば、それも否定はできません。幻想は排除できないですから。

───「共同幻想」的なものは団塊世代や団塊Jr.に今も色濃く残っています。
名越─この世代の人たちは言われてきたことを真面目にやってきたわけです。受験勉強や仕事を頑張って、マイホームを手に入れて…と。そしていま、たとえば
ぼくの母親はぼくの健康だけを祈っています。最後はそこしかなくなってくる。では、その、いわば思考停止を変える必要があるのかといえば、個人ではなくマスで言うと、やはり主体的であるべきだとは思います。

自分の中に安住できる場所を見つけるといい

───そういった人たちが主体的になって「自分」に向き合おうとした時には、どのような方法があるのでしょうか。
名越─ぼくも少しずつできるようになってきている一つのゴールは、自分と、自分の言葉にならない声と対話することです。そして、自分の中に安住する場所を見つけることです。

───自分の中の安住できる場所…ですか。
名越─例えば「田舎暮らしをしたい」と言う人はたくさんいますよね。でも、それは環境に大きく左右されるのでいきなりは実行できない。ところが、自分の中に「その場所」があれば、いつでも行けるわけです。

───少し難しく聞こえますが、それは誰にでもできることなのでしょうか。
名越─はじめはうまくいかないのですが、毎日5分でも目を瞑って身体を見つめていると誰でも上手くなります。その助けになるのは、旅に出ること。あるいは自然の中に身を置くことです。余裕があれば、数日間自然の近くにいれば、心は充実しているのに1日に1つのことしかできないような日が出てくるはずです。そうするといわば「心が追いついてくる」。つまり自分が何をしたいのかも、おいおい見えてきます。

───私は初めて一人でキャンプをした時に、「これは何だかよさそうだぞ」と感じた瞬間がありました。
名越─うまく言語化できないけれども、自分にとって「よい」と感じる感覚はとても大切です。「よくわからないけど、よかった」。これは自分の中に安住する感覚がつかめるきっかけになります。ぼくにとっては映画館もその一つですが、人によっては公園のベンチかもしれないし、お寺の境内かもしれない。なるべく静謐な場所がいいけど、コツとしては、ただのんびりするのは良くない。できれば少し緊張感があったほうが良いかもしれません。だから「静謐」という言葉を使いました。謙虚であることで感覚が深く鋭敏になるので、より早く、そこへ到達できる可能性があります。

───先生でも「不安」に陥ることがあるのですか?
名越─もちろんあります。ぼくの場合は朝4時頃に多いのですが、いつものことなので巻き込まれません。それと、最近気がついたのが喜怒哀楽を「しすぎない」のがいいんじゃないかということ。怒りすぎが良くないのはそのままですが、喜びですら過剰になると強迫的になります。もちろん喜びは受け入れるけれども、欲張らず引っ張りすぎない。そうすることで落ち込むことが少なくなったと思います。

やっぱり多少の訓練は必要です

───そうやって自分の状態が良くなることで、他人へ与える影響にも変化はあるのでしょうか。
名越─それは大いにあります。ただし、それを目的にするのではなく、結果としてそうなるということです。どんなに近い人であっても「他人」を変えることはできません。しかし、人は心と心でつながっているので、その人の感情は影響を与えます。周囲の人たちが楽になる。近くにいると少し元気になる。そうでありたいものです。

───ありがとうございました。多くのヒントやポジティブな言葉を頂戴いたしました。
名越─何かやり残したことがあるような感覚を持っていたり、今の自分の不安な状況を理解したいと考えている人にとって、何かの足しになれば嬉しいです。

───このインタビューの他にも、先生のTwitterにある素晴らしい言葉たちもぜひ読んでもらいたいと思います。
名越─偉そうなつぶやきもあるかもしれませんが、ふっと浮かんだ言葉にすぎないので、どうか大目に見てやってください。
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名越 康文

なこし・やすふみ
精神科医
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。
専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
最新刊は「「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント」(宝島社)。

なこし・やすふみ
精神科医
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。
専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
最新刊は「「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント」(宝島社)。

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