特集

2021/10/15

100歳でも海外旅行に行けるように…運動習慣の重要性を正しく知る

超高齢化社会、 Withコロナ時代を健幸で過ごすための知恵

久野 譜也

●写真/岡崎隆夫 ●取材・文/笹本健児

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運動不足がもたらす「健康二次被害」を知る

 超高齢化社会へと突き進む日本において、健康寿命延伸が重要課題であることは明白である。健康政策・スポーツ医学の専門家でもある筑波大学人間総合科学学術院の久野譜也教授(以下、「久野先生」)によれば、その実現のためには【①運動②栄養③社会参加】の3要素が必要であることがエビデンスによって明らかだという。
 しかし、自覚のある方も多いと思うが、長期化するコロナ禍においては、外出自粛によって運動不足が加速、慢性化している。また、とくに就労していない高齢者に顕著であるが、社会参加をしたくてもコミュニティそのもの自体が閉鎖されていることが増えている。これらによって起こっているのが「健康二次被害」である。

 コロナ禍における一次被害は感染となるが、その影に潜んだ種々の健康被害の実態が顕在化してきているのだ。その具体的なリスクや想定される健康被害は下図の通りであり、最も避けなければいけないのは「基礎疾患などの持病の重症化」であろうが、実際被害は老若男女を問わず、より広範におよぶこともわかってきたという。特に知っておきたいのは、「メンタルヘルスの悪化」と、要介護へ直結しかねない高齢者の「認知機能の低下」である。
■健康二次被害とは?
一次被害である感染を予防するだけではなく、健康にも目を向けて「健康二次被害」を防ぐことが重要となる。
<出典:筑波大学久野研究室>
 これらのリスクを共有し、防止するために久野先生が代表発起人を務める「健康二次被害防止コンソーシアム」が本年発足した。その発起人会において、健康二次被害の初期症状とも言える「フレイル(=虚弱状態)」についての話があった。ここでは特に65歳以上の高齢者において「外出回数減少・歩行速度低下・筋肉量減少」の割合が例年に比べて2.8〜3.4倍となっているなど、コロナフレイルが増加している深刻な現状が共有された。
また、それ以外にも体幹の低下や滑舌の悪化といった症状も顕在化してきてるとの報告もあった。

 このように「健康二次被害」は多くの場合において、無自覚に進行しながら心身の健康を害する性質を持っていると言える。また、久野先生によれば、高齢者の転倒骨折が増えているという報告が最近になって上がってきているという。
 もちろん感染は避けなければならない。しかし、「正しく恐れる」のではなく、「過剰に恐れる」あまり、深刻な健康被害をもらたす可能性があることは知っておいていただきたい。
 運動不足になれば、免疫力が低下すること、基礎疾患が悪化しやすいこと、及びフレイルをもたらすことは科学的に明白なのだ。
「健康二次被害防止コンソーシアム」発起人会の冒頭、その概要や目的だけではなくエビデンスに基づいた最新の情報などについて語る代表発起人の久野譜也先生。

エビデンスが表す、心身の健康に有益な運動習慣の効果

 では、それらを防止するにはどうすべきなのか。やはり、こちらも「正しく知る」ことが重要になってくる。
 まずは、運動の習慣化によって免疫力が高まり、筋肉量を維持することで転倒を予防できること、そして、質の高い睡眠につながることを理解していただきたい。また、海外の研究からは、運動習慣を持つ人は、そうではない人に比べて市中感染リスクで約31%、死亡リスクは約37%も低くなる調査結果があることが報告されており、一次被害である「感染」に対しても大きな効果が期待できることがわかってきている。

 久野先生の研究によれば、運動の習慣化によって体力年齢が若返ることについても、顕著な効果が認められているという(※下グラフ参照)。約3ヶ月の運動によって平均で5歳程度の若返り効果が出ていることは嬉しい結果といえるだろう。前述の「健康二次被害防止コンソーシアム」発起人会においても、ゆっくりとしか歩くことのできなかった90代の女性が約3週間、適切な筋力トレーニングを行った結果、走ることができるようになった映像が共有されたが、高齢者であっても筋力の増加や運動による健康効果を享受することは可能なのである。
■運動習慣の継続による体力年齢の若返り効果
『体力年齢』とは?…体力を評価する方法で、体力水準を示す年齢のこと。筑波大学の研究成果を基に6項目から構成される体力テストの合計得点から評価。現在の暦年齢と比較することで、体力水準の理解が容易となる。
 ただし、過度な運動は逆効果になる可能性があるため、無理をしたり、運動の強度を闇雲に上げるなどよりも、あくまで習慣化を目的としてもらいたい(※下図参照)。
■運動量と感染リスク
感染リスクの軽減に運動は効果的であるが、「運動しない」よりも「運動のし過ぎ」のほうが感染リスクが高まる可能性もあるので注意が必要だ。
<出典 Nieman ; Med Scl Sports Exerc 26, 1994>
 また、運動習慣を継続することで、医療費の削減につながるというエビデンスもある。1人あたりの1年間の医療費が10万円ほど抑制できる効果は非常に大きい(※下グラフ参照)。高齢者たちが元気で過ごせることは、それ自体が社会貢献となると言えるだろう。

 このように、長引くコロナ禍ではあるが、その間、多くのことが専門家たちの研究によってわかってきた。様々なメディアから発信される情報の波に流されず、正しい情報や知識をしっかりと掴んでいただきたい。
■運動習慣継続による医療費抑制・削減効果
参加群と性、生年および総医療費を合わせ3倍の人数を抽出
<出典:筑波大学久野研究室>

『寝たきり本線』に 乗らないために

 しかし、運動習慣による効果を理解しても、なかなか実行・継続できないのが人間の性である。久野先生によれば、残念ながら、運動を含めた健康無関心層は全体の7割もいるという。また、一人で黙々と運動ができる人の割合に至っては僅か15%ほどなのだとか。

「残念ながら、私たちがどんなにエビデンスを伴った運動による健康効果を提供しても、それだけで誰かを運動させることはできません。こればかりは、みなさんに『意欲』を持ってもらわないことにはどうしようもないのです。私は『寝たきり本線』と『生きがい本線』と呼んでいますが…健康無関心層の方たちは自然と『寝たきり本線』に乗ってしまいます。しかし、これはコロナ禍によって快速急行になってしまったのが現状です」(久野先生)

 久野先生によれば、この選択においては70歳くらいが分岐点となる場合が多いそうだ。もちろん、どちらに乗るかは自分で決められる。そして、もしも『寝たきり本線』に乗ってしまっても、安心してほしい。意欲を持って運動の習慣化に取り組むことができれば、いくつになっても『生きがい本線』への乗り換えが可能なのだ。

「運動による効果を得るには適度な負荷と強度、そして一定以上の時間が必要です。ですから、まずは3週間やってみていただきたい。私たちの研究では、概ね3週間ほどで運動による健康効果を体感できるからです」(久野先生)

 3週間で効果を感じることができれば、継続するモチベーションが維持できるのではないだろうか。もしも効果がなかった場合は運動の内容や量に問題があるということになるので、見直すと良いだろう。

100歳になっても自分の足で海外旅行へ

 2025年以降、後期高齢者人口の比率が最も高くなる状況が2040年まで続くことが予想されている。
 そんな中、久野先生を中心に、自治体の政策担当者やNPO等が80歳代や90歳代でも、自分の足で生きがいに通じるコミュニティに参加できる心身の健康づくり、および、自然とそうしたくなるような「まち」づくりに
向けた動きを活発化してくれている。

 しかし、私たちがそこに元気に参加できるようになるためには、それなりの努力が必要となる。
 昨今、「健康リテラシーや情報選択リテラシーが求められる」といった話を聞くことが増えた。一般的にリテラシーは「知識」のように訳されることが多いが、今後はそこに「意欲」のような意味も含めた上で高めていくべきだろう。
 デルタ株などの出現によって、コロナウイルスへの感染リスクが昨年以上に高まっている一方で、これまで本稿で述べてきたように、昨年以上に、わかってきたことややるべきことも増えてきているのである。そうした状況を「自分ごと」として認識した上で、正しい情報に基づいた正しいアプローチによって明るい未来を拓いていってほしい。

「私の祖母は98歳の時に台湾に旅行へ行きました。だから、私は99歳で海外旅行に行こうと思っているんですよ」

 取材の最後に、そう話してくれた久野先生。
 それを楽しみに人生を過ごすのか、または「そんなことは無理だ」と諦めて過ごすのか…もちろん、決めるのは自分自身なのである。長引くwithコロナ時代、そして収束後のアフターコロナ時代をどのように過ごしたいのか、今一度、真剣に、できればポジティブに考えてもらいたい。
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WRITTEN BY

久野 譜也

くの・しんや
筑波大学人間総合科学学術院 教授
1962年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業。同博士課程医学研究科修了。
2009年、全国の先進的な取り組みを行う自治体の首長に呼びかけ「健幸」をまちづくりの基本に据え、総合的な健康政策を推進・実行する「Smart WellnessCity首長研究会」を設立。
これからの地域における持続可能な健幸都市モデルの構築を目指す。

くの・しんや
筑波大学人間総合科学学術院 教授
1962年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業。同博士課程医学研究科修了。
2009年、全国の先進的な取り組みを行う自治体の首長に呼びかけ「健幸」をまちづくりの基本に据え、総合的な健康政策を推進・実行する「Smart WellnessCity首長研究会」を設立。
これからの地域における持続可能な健幸都市モデルの構築を目指す。

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