江戸の日本橋から京都の三条大橋までを結ぶ東海道。53あった宿場町の多くが史跡で名前を留めるのみだが、三重県内にある47番目の宿場町「関宿(せきじゅく)」は近世の街並みの様子を今に残している。そして旅人にとってはうれしいことに、関宿は駅から徒歩5分程度で到着するので交通の便が良い。今回はそんな関宿を紹介する。
- ローカル線の醍醐味を味わいながら【関駅】へ
- 駅からほど近くに広がる江戸時代【関宿】
- 慣用句「関の山」の語源?豪華絢爛な山車が見られる【関の山車会館】
- 江戸時代の“税金対策”が見られる!【関まちなみ資料館】
- 街道を遠くまで見渡せる【百六里庭】
- 関宿随一の大旅籠を再現【関宿旅籠玉屋歴史資料館】
- 関宿のほぼ中央、家康の【茶屋御殿跡】と【高札場跡】
- 忍びの隠れ蓑、寛永年間創業の和菓子店【深川屋】
- 屋根の境目には深い意味が、重要文化財3つがそろう【関地蔵院】
- 旅の疲れを癒やしてくれる足湯【小萬の湯】
- 名産がそろう土産店【関見世 吉右衛門】
- たくさんの具材から選ぶ幸せ【おにぎり専門店 神の介】
- 伊勢神宮から鳥居が移される【東追分】
- 《番外編》関西本線で伊賀上野へ
ローカル線の醍醐味を味わいながら【関駅】へ
関宿の最寄り駅は、JR西日本 関西本線の「関駅」。名古屋駅で関西本線快速「亀山行き」に乗車し、終点の亀山駅で関西本線「加茂行き」に乗り換えて一駅進むと関駅に到着する。名古屋からの所要時間は1時間15分ほど。ローカル線の醍醐味である車窓から望むのどかな景色を楽しんでいると、あっという間に関駅だ。
取材にうかがった2月22日は名古屋駅から乗り換えなしで関駅、伊賀上野駅まで走る臨時列車が運行されていた。


駅からほど近くに広がる江戸時代【関宿】
関駅の目の前を通る国道1号線を横切って5分程度歩くと、関宿に着く。目の前に広がるのは、江戸時代にタイムスリップしたかのような世界。ついさっきまで、どこにでもある国道と住宅街を見ていたのに、突然の変化に驚きを隠せない。駅のすぐ近くに、こんなに貴重な場所があったとは!
今回のように駅から最短距離で関宿を目指すと、全長1.8kmの街道の真ん中より少々江戸よりに到着する。


今回は、ガイドの服部吉右衛門亜樹さんに関宿の主要箇所を案内していただいた。服部半蔵で知られる伊賀の忍び「服部一族」の末裔にあたるそう。後ほど、忍びの隠れ蓑として始まった服部家の和菓子店も紹介するが、まずは資料館めぐりから始めよう。


慣用句「関の山」の語源?豪華絢爛な山車が見られる【関の山車会館】
江戸方面に少し戻って「関の山車会館」へ。ここでは、関宿祗園夏まつりの名物である「関の山車」を見ることができる。関の「だし」と読みたくなるところだが、実は関の「やま」。
「この地域では昔から、山車のことをはなく“やま”と呼んでいます。慣用句の“関の山”の由来でもあると言われています。狭い街道の左右の家並みすれすれを大きい山車が通る様子から、限度いっぱいであることを“関の山”というようになったそうです」(服部さん)

江戸時代には16基あった山車だが、多くが消失し、現在残っているのは4基のみ。中町三番町、中町四番町、木崎、大裏の4つの自治会が一基ずつ所有している。そのうち、中町四番町と木崎の山車がこの会館で保管展示されている。どちらの山車も豪華絢爛。特に、山車の背部に垂らす「見送り幕」は各自治体が力を入れているという。


関の山車は上部をくるくると高速回転させる「舞台回し」が名物だが、これは見送り幕に関係している。
「見送り幕は必ず山車の背部にないといけませんが、街道は狭いので、往復するときに山車をUターンする場所がありません。では、車体はそのままで進む向きだけ変えればいいと思われるかもしれませんが、そうすると見送り幕が前になってしまいます。そこで土台はそのままで、上部だけを180度回して方向転換する仕掛けが作られたのです」(服部さん)
いつしか、その仕掛けを使った舞台回しも披露されるようになったのだ。提灯の灯りが弧を描いて回る姿はとても美しい。毎年7月に開催される「関宿祇園夏まつり」で見ることができる。

関の山車会館
営業時間:9時~16時30分
休業日:月曜日(祝日または振替休日の場合はその翌日)、12月29日~1月3日
入館料:大人300円、学生・生徒・児童200円
※関宿内の3館共通入館料(関宿旅籠玉屋歴史資料館・関まちなみ資料館・関の山車会館)は大人500円、学生・生徒・児童 300円
電話番号:0595-96-1103
HP:https://www.city.kameyama.mie.jp/docs/2014112311877/
江戸時代の“税金対策”が見られる!【関まちなみ資料館】
続いて、京都方面へ進んで「関まちなみ資料館」へ。ここは江戸時代末期に建てられた貴重な町屋が、そのまま資料館になっている。

「江戸時代、家の間口の広さに応じて間口税という税金が課されていました。もちろん、町民たちは少しでも税金を抑えたい。そこで考えられたのが、普通は左右に設置する戸袋を上部に折りたたんで設置して、戸袋分の間口を狭めるというやり方です」(服部さん)
江戸時代の町人が考えた、“税金対策”とも言える設計。こうした戸袋は「蔀戸(しとみど)」と言われる。関まちなみ資料館は、蔀戸が残る数少ない場所だ。

徳川家康は東海道の整備にあたって、宿場町になる場所に「駒の朱印状」を送った。その写しが、関まちなみ資料館に展示されている。
「この朱印状から、“関宿”としての歴史が始まりました。東海道は野宿禁止ですが、宿場町として定められた場所以外は宿を作ってはいけません。朱印状のおかげで、この地は栄えることができたんです」(服部さん)

関まちなみ資料館
営業時間:9時~16時30分
休業日:月曜日(祝日または振替休日の場合はその翌日)、12月29日~1月3日
入館料:大人300円、学生・生徒・児童200円
※関宿内の3館共通入館料(関宿旅籠玉屋歴史資料館・関まちなみ資料館・関の山車会館)は大人500円、学生・生徒・児童 300円
電話番号:0595-96-1218(亀山市市民文化局)
HP:https://www.city.kameyama.mie.jp/docs/2014112311877/

街道を遠くまで見渡せる【百六里庭】
関まちなみ資料館の数軒先にある「百六里庭(ひゃくろくりてい)」の眺関亭(ちょうかんてい)からは、関宿の街並みを見渡すことができる。
「百六里という名前は、関宿が江戸から百六里余りであることが由来です。ここが最も関宿をよく見渡せるポイントです」(服部さん)

百六里亭
営業時間:8時~17時0分
休業日:なし
入館料:無料
HP:https://www.kankomie.or.jp/spot/8390

関宿随一の大旅籠を再現【関宿旅籠玉屋歴史資料館】
少し進むと、関宿を代表する大旅籠だった「玉屋」の建物を使った「関宿旅籠玉屋歴史資料館」がある。関宿に3つある資料館のうち、今回訪れた順番では最後の施設だ。
「2階の壁の中央にある紋様は“火焔宝珠(かえんほうじゅ)”です。万人の願いを叶えるという意味があり、玉屋のシンボルでした。窓は虫籠窓(むしこまど)といって左右非対称。これが江戸時代のスタンダードでした。ところが、隣の建物(下の写真の奥)の窓は明治時代に建てられたもので、西洋の文化が反映されて左右対称です。窓だけで、建物の築造年代がわかるのです」(服部さん)

2階の座敷には、江戸時代の様子が当時の道具類を使って再現されている。離れにある座敷は、風が通って気持ちがいい。
「離れ座敷は金額が決まっていませんでした。お客はサービスが良ければ大金を払ったし、粗相があったと感じれば一銭も払わずに帰っていたそうです。あえて大金を払って見栄を張るということもあったでしょう」(服部さん)


関宿旅籠玉屋歴史資料館
営業時間:9時~16時30分
休業日:月曜日(祝日または振替休日の場合はその翌日)、12月29日~1月3日
入館料:大人300円、学生・生徒・児童200円
※関宿内の3館共通入館料(関宿旅籠玉屋歴史資料館・関まちなみ資料館・関の山車会館)は大人500円、学生・生徒・児童 300円
電話番号:0595-96-1218(亀山市市民文化局)
HP:https://www.city.kameyama.mie.jp/docs/2014112311877/

関宿のほぼ中央、家康の【茶屋御殿跡】と【高札場跡】
玉屋の隣には、家康が休息した茶屋御殿があった。ここは、関宿のほぼ中央にあたる。そしてその前は高札場で、幕府の法度や掟書、宿場町の決まりごとなどが掲示されていた。
「数年前に高札場の設計図が見つかって、そこに文言まで細かく記されていました。その通りに再現しています。次の宿場町までの運賃も書かれていますね。また高い場所に掲げられていることから、幕府のお触れ書きは見上げて読むものだったということもわかります」(服部さん)


忍びの隠れ蓑、寛永年間創業の和菓子店【深川屋】
高札場の目の前にあるのは、創業約380年の和菓子店「深川屋」。ここが、冒頭で紹介した忍びの“隠れ蓑”として始まった和菓子店だ。現在は、ガイドの服部さんが14代目の店主を務めている。銘菓「関の戸」は寛永年間に服部伊予保重によって考案されたものだ。赤小豆のこし餡をぎゅうひ餅で包み、阿波特産の「和三盆」をまぶした一口大の餅菓子で、ホッとする甘さ。濃い緑茶と一緒にいただきたくなる。
「現在も江戸時代と変わらない分量で作っています。今みなさんに食べていただいている関の戸と同じものを、徳川家も食べていたのかもしれません」(服部さん)


深川屋でもう一つ注目したいのは、看板だ。京へ向かう人が見る側は平仮名で、江戸へ向かう人が見る側は漢字で書かれている。
「江戸時代、“ひらがなを見て歩けば京、漢字を見て歩けば江戸に着く”として旅人の目印になっていました。旅人に優しい東海道だったわけです。庵看板(いおりかんばん)と言いますが、関宿ではうちにしか残っていません。ですが関宿の公共施設に新しい看板を作るとき、行政が庵看板の方式を取り入れています」(服部さん)
庵看板の方法を取り入れた看板を探しながら歩くのも、関宿らしい楽しみ方なのだ。


深川屋
営業時間:9:30~18:00(出来上がりから売り切れまで)
休業日:木曜日 ※祝日の場合は営業
電話番号:0595-96-0008
HP:https://www.sekinoto.com/
屋根の境目には深い意味が、重要文化財3つがそろう【関地蔵院】
関宿にはたくさんの寺院があるが、今回は本堂・愛染堂・鐘楼が国指定重要文化財になっている天平13(741)年開創の「関地蔵院」に立ち寄った。家康によって宿場町になる前は、この地域は関地蔵院を中心とした門前町だったそうだ。現在の本堂は元禄時代に建て替えられたもの。気になるのが、真ん中に切れ目のある変わった形状の屋根だ。
「蔀戸のように、ここにも悪しき年貢制度が関係しています。江戸時代、5間以上の梁(はり)を使うと贅沢品と見なされ、年貢が多く課されていました。そこで、あえて真ん中に境目を入れて、ここより上が屋根、下はあくまで庇(ひさし)であるとしたわけです。こうした作りを錣(しころ)屋根といいます」(服部さん)



関地蔵院
営業時間:9:00~16:00
電話番号:0595-96-0018
HP:http://www.seki-jizoin.or.jp/

旅の疲れを癒やしてくれる足湯【小萬の湯】
服部さんと巡ったのは関地蔵院まで。ここからは編集部のおすすめスポットを紹介する。
まずは、関地蔵院から徒歩で数分ほど離れた県道11号線沿いにある、無料の足湯施設「小萬の湯」。地下1300mから湧き出た源泉を水道水で4倍に希釈し、ボイラーでおよそ40℃に循環加温して利用している。塩分と鉄分を多く含むため、茶褐色だ。


小萬の湯
営業時間:10:00~17:00
休業日:月曜日(祝日または振替休日にあたるときは、その翌日)
電話番号:0595-84-5074(亀山市産業環境部商工観光課)
使用料:無料
HP:http://kameyama-kanko.com/genre/enjoy/%E5%B0%8F%E8%90%AC%E3%81%AE%E6%B9%AF/
名産がそろう土産店【関見世 吉右衛門】
関地蔵院の近くにある「関見世 吉右衛門」には、関宿はもちろん、三重県内の名産がそろう。お土産選びに持っていこいの場所。


関見世 吉右衛門
営業時間:10:00〜16:00
休業日:木曜日
電話番号:0595-86-5780
HP:https://www.facebook.com/p/%E9%96%A2%E8%A6%8B%E4%B8%96-%E5%90%89%E5%8F%B3%E8%A1%9B%E9%96%80-100070130876579/?_rdr
たくさんの具材から選ぶ幸せ【おにぎり専門店 神の介】
長い街道を歩いていると小腹が空いてくる。そんなときにおすすめなのが、握りたてのおにぎりをいただける「神の介(しんのすけ)」だ。2024年8月にオープンしたばかりのおにぎり専門店で、店主の内田貴子さん夫妻が週末限定で営業している。旦那さんのリタイア後に夫婦でお店を始めたいと考えていたとき、おにぎり店が舞台のドラマを見て、ピンと来たという。
お米は、伊勢神宮奉納米の「結びの神」。おにぎりの具材は19種類もあり、どれも魅力で、迷う時間も楽しい。とん汁やたまご焼きなどのサイドメニューもあるので、自分好みの定食を作ることもできる。貴子さんおすすめのにゅうめんは、ツルツルの喉越し。冬は温かいお出汁、夏は冷たいお出汁でいただく。
明るい貴子さん、旦那さんとの会話も楽しいお店だ。持ち帰りもできる。



神の介
営業時間:10:00〜16:00(お米がなくなり次第終了)
休業日:平日(土日のみ営業)
電話番号:090-3380-7830
HP:https://www.instagram.com/shinnosuke_2023_0804/
伊勢神宮から鳥居が移される【東追分】
最後は、関宿の左の入口「東追分(ひがしのおいわけ)」を紹介する。東海道と伊勢別街道の分岐点でもある場所で、大鳥居は伊勢神宮を遥拝するために鳥居が立っている。明治2(1869)年から、20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮の度に、内宮にあった鳥居が代々ここに移されているのだ。その際、西追分から東追分まで鳥居を曳き歩く「お木曵行事」が盛大に行われる。次は2033年の予定だ。


東追分
電話:0595-96-1218 (亀山市まちなみ文化財室)
HP:https://www.kankomie.or.jp/spot/1888
《番外編》関西本線で伊賀上野へ
余裕があれば、関西本線に乗って伊賀まで足を伸ばしてみると旅をより楽しめる。関駅から伊賀上野駅までは5駅で、所要時間は50分ほどだ。


伊賀といえば、伊賀上野城や伊賀流忍者博物館が有名だが、のんびりとした旅を楽しみたい一個人読者には「伊賀焼伝統産業会館」を紹介したい。駅からタクシーで15分ほど離れたのどかな場所にある施設で、伊賀焼の歴史の展示鑑賞、作品購入、作陶体験と、施設内で伊賀焼に関するあらゆることを楽しめる。



陶芸体験は事前予約制。陶芸家の講師と一緒に土をこねながらオリジナルの作品を作ることができる。手ひねりコースと電動ろくろコースがあるが、今回は手ひねりに挑戦。想像していたよりひんやりとした土が気持ちよく、子どもの頃の粘土遊びのようで楽しい。



1kgコースでは、大きい皿と小さい皿、湯呑みの3点を作ることができた。焼き上がりまでは1〜2ヶ月。焼き上がりは伊賀焼の代表であるビードロ釉だが、焼いてくれる窯元によって、そもそも使った土によってもグリーンの色味が変わるそう。自宅に届くまでのお楽しみだ。


伊賀焼伝統産業会館
営業時間:9:00〜17:00
休業日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
入館料:無料
作陶体験:
手ひねりコース(粘土500g)…1,650円(焼成代・税込み)※2名から
手ひねりコース(粘土1kg)…2,750円(焼成代・税込み)
電動ろくろコース(粘土1kg)…3,960円(焼成代・税込み)
電話番号:0595-44-1701
HP(作陶体験の予約もここから):http://www.igayaki.or.jp/
取材協力◉三重県