ひと口に「旬」といっても、味覚の旬と漁獲の旬のふた通りの考え方がある。おいしい時期と流通する時期は必ずしも一致するわけではない。10月~12月に旬を迎える魚を詳しく紹介する。
寒い冬に備え、魚が栄養をため込む秋
秋に旬を迎える魚は、冬に備えて体に栄養を溜め込むため、他の時期に比べて脂肪の含有量が何倍にもなる。つまり、それだけ脂が乗っておいしいというわけだ。
秋に旬を迎える魚には季節回遊魚が多い。たとえばカツオ、いわゆる「戻りガツオ」である。
春から初夏にかけて北上していたカツオが秋になって南下してくる。たっぷりエサを食べているので非常に脂が乗っていて美味しいのだ。冬から春にかけて北へ移動して、秋冬に日本近海へ戻ってくる季節回遊魚は、秋冬が旬であることが多い。カツオの他には、ブリなどもそう。
好ましい季節条件を求めるだけでなく、魚が回遊するのはエサや産卵が目的だったりもする。産卵のために、海から川へ戻ってくるサケも秋が旬。前述した、産卵前の魚は脂が乗っていておいしいという法則が当てはまるのだ。
海底に生息する鈍重な魚がおいしい冬
一方、冬になると、魚の動きが停滞してくるので、普段あまり動かずにエサを取る魚がおいしい。キンメダイやヒラメ、アンコウなど、主に海底に生息する魚が、この時期の旬だ。また、カキなどの貝類、ズワイガニなどの甲殻類も冬が旬。ズワイガニは高級ガニの代表格で、日本海の冬の風物詩。毎年11月初旬が漁の解禁ですが、初競りでの最高値が毎年話題だ。
旬の魚を味わうことは、四季を感じる一因でもある。だが、最近は温暖化の影響で季節感が感じられなくなったとの声も聞かれる。サワラは本来暖かい太平洋側に生息する魚なのだが、最近は秋冬に京都や山形、青森沿岸など日本海側でも獲れたりするという。魚に季節感がなくなっているのは、温暖化だけでなく、鮮魚流通の発達による部分も大きい。このまま温暖化が続けば、魚の旬も大きく変わってくるかもしれない。
次から紹介するのは、10月~12月に旬を迎えるお魚たち。将来、季節を問わず、おいしい魚を食べられるようになるかもしれないが、いまは美味しいお魚と季節の情緒を楽しもう。
10月から旬を迎える主なお魚
サワラ(旬の時期10~4月)
春から初夏に漁獲されるが、大型魚の旬は秋から冬。瀬戸内産は春のイメージが強いが、これは産卵期にたくさん獲れるから。寒い時期の方が脂が乗っている。
カキ(旬の時期10~4月)
10~3月まで入荷されており、晩秋から春までおいしく食べられる。天然ものはわずかで、流通するほとんどのカキは養殖されたもの。
キンメダイ(旬の時期10~4月)
関東では年間を通して入荷される。国産だけでなく、海外から冷凍輸入されたものも多い。国産ものは高級魚として知られる。
ニシン(旬の時期10~3月)
国内産のほとんどが北海道で獲れる。漁獲される時期や大きさなどによって、「春ニシン」「夏ニシン」「冬ニシン」に区別される。
ヒラメ(旬の時期10~2月)
産卵期は九州南部で1~3月、本州で2~6月、北海道では6~8月。仔魚のときは目が両側にあるが、成長に伴い右目が左側に移動する。
キンメダイ(旬の時期10~4月)
関東では年間を通して入荷される。国産だけでなく、海外から冷凍輸入されたものも多い。国産ものは高級魚として知られる。
カサゴ(旬の時期10~11月)
漁獲の旬は夏だが、味覚の旬は冬から初春。だが、年間を通じてあまり味が落ちない。白身魚だが、足が早い。
11月から旬を迎える主なお魚
アカムツ(通称ノドグロ。旬の時期11~2月)
小さくても味がいいが、晩秋から春が一番おいしく食べられる。元来、脂の乗りがいい魚なので、夏でも十分おいしい。
ヤリイカ(旬の時期11~3月)
晩夏から秋にかけて小ヤリが出始め、春になると大ヤリが出てくる。小ヤリと大ヤリとでは、味が全く違う。
ズワイガニ(旬の時期11~3月)
島根県、鳥取県、兵庫県では「松葉ガニ」、福井県では「越前ガニ」と呼ばれる。メスは極端に体が小さく、別物と考えたほうがいい。
ムツ(旬の時期11~2月)
年間を通じて漁獲されるが、最も脂の乗りがいいのは冬。幼魚のうちは磯場や浅い湾内にいるが、成長に伴い沖の深場に移る。
カジキ(旬の時期11~2月)
年間を通して流通しているが、関東では比較的多く出回るのは1月頃。秋から冬が旬で、火を通してもおいしいし、刺身も天下一品。
カマス(旬の時期11~2月)
旬が秋から初夏と長い。夏に産卵し、産卵後は体が細るが、秋にまた脂が戻り、年末頃までおいしく食べられる。
12月から旬を迎える主なお魚
マダラ(旬の時期12~2月)
秋から冬にかけて、最も漁獲される。また、この時期は白子も大きくなるので、オスの市場価格が上がる。
ブリ(旬の時期12~2月)
2~7月の産卵期を前にした冬が、最もおいしく食べられる。養殖も盛んで、年間を通じて流通がある。
トラフグ(旬の時期12~2月)
秋から冬に漁獲されるが、一番おいしいのは産卵前の冬。西日本に産地があり、消費も西日本が中心。フグの中で最も高価である。
スケトウダラ(旬の時期12~2月)
柔らかい白身で淡白。鮮度が落ちやすいので、加工品になることが多い。身もおいしいが、白子やタラコの方が珍重される。