訪れる人に癒しを与える、日本庭園や茶室がある美術館。そこには静かな時が流れ、日常を忘れさせる。そんな空間で日本美術を鑑賞するという贅沢を味わうとともに、秋の風情に浸ってみよう。
戦後初の私立美術館 本間美術館
日本美術で復興を支えようと作られた志高い美術館
「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」と謳うたわれた江戸時代の豪商・本間家の美術館。真骨頂は庭園と、「清遠閣」と名づけられた別邸。
庭園は文化10年(1813)に4代当主・本間光道が築造したもので、本格的な池泉回遊式。鶴が舞い降りたことから「鶴舞園」と名づけられている。国指定名勝となっている。
京風木造建築の清遠閣は気品に満ちたつくり。酒田の迎賓館として使われた建物で、部屋ごとに異なる欄間彫刻や網代模様に仕上げられた階段の腰板など、細部の装飾に注目したい。近くにある本間家旧本邸もおすすめ。
歌川広重の肉筆画や版画を所蔵 那珂川町馬頭広重美術館
日光により杉の格子が多くの表情を持つ美術館
地元産の八溝杉のルーバー(格子)が美術館全体を覆い、洗練された和の雰囲気を醸かもし出す――日本を代表する建築家・隈研吾氏がデザインした当館の特色ある空間だ。ルーバーは、あたかも歌川広重の《庄野白雨》の雨の描写のように、景色を印象的なものに変えている。日経アーキテクチュア主催「平成の10大建築」で第7位に選ばれており、一見の価値あり。
展示のほうは、規模は必ずしも大きくはないが、所蔵品の広重や歌川国芳らの浮世絵を中心に年8回ほどの企画展が開かれている。和の建築と美術が融合した世界を楽しめる。
日本の美を再発見できる 富山県水墨美術館
和風建築と庭園がおりなす地域住民の憩いの場
広々とした敷地に寄よせ棟造平屋瓦葺の美術館が建ち、モダンな和の雰囲気に浸れるのが魅力。美しい庭園は手入れが行き届き、春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪景色と四季折々に楽しめる。庭園の一角には茶室もある。館名に「水墨」の二文字が入っているが、水墨画に限っておらず、竹内栖鳳、横山大観、菱田春草そうといった近代日本画を代表する画家たちの作品が常設展示されている。富山県ゆかりの画家たちの作品もある。
晴れた日には立山連峰を望むことができ、環境も含めて美的な時間をゆっくり過ごせる美術館だ。
200点超の白隠作品をコレクションする 神勝寺 禅と庭のミュージアム
寺と美術館を融合し現代美術も体感できるミュージアム
お寺とアートが出合うとこうなる、というユニークなミュージアム。最大の見どころは、彫刻家の名和晃平氏が生み出した《洸庭》という現代アートのパビリオン。入替制で、舟型の建物に入ると、暗闇のなかに海が広がる。禅の教えに従い、その核心へ近づこうとする道程で体験することを、現代美術の思考、手法で解釈し表現したそうだ。
禅庭は広大。静寂のなかに自分の足音だけが響き、おのずと心が落ち着いてくる。春夏秋冬の景色が楽しめる。長い石段が設けられているため、散策には安定した靴がおすすめ。時間に余裕を持って訪れたいところだ。
古美術の殿堂 根津美術館
改築により建物自体がアートとなった日本を代表する美術館
こちらも隈研吾氏の設計によって、2009年に建て替えられた。現代的な和の美術館として、格調高い雰囲気のなかで芸術品を味わうことができる。
展示、建築とともに人気なのが日本庭園。豊かな環境のなかに竹林や灯籠、さまざまな石造物などが点在し、都心にあることを忘れさせる。意外にアップダウンがあるので、散策には歩きやすい靴を履いていきたい。
毎年GW頃に出品されるのが恒例の尾形光琳筆国宝《燕子花図屏風》が著名だが、ほかにも見応えある作品が多数所蔵されている。