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【保護犬】柴犬専門の団体代表がかたる保護柴との幸せな関係|「かわいそう」よりも「幸せになろう」。保護犬のお話。

人も犬も幸せになるために

「保護犬って、かわいそう」というのは、やさしさからの言葉かもしれません。でも、いつまで保護犬なの? いいやん、もういま幸せなんやからって、思ったりね。

 その子の中には、たしかにトラウマになりうる過去があったかもしれないけど、人間の方がそこに留まっているだけかもしれないですよね。一緒に暮らし始めたんだからもう切り替えて、いままでよく頑張ったね、これからたくさん幸せになろう…で、いいのになと思います。
 
 海外で見かけて素敵だなと思うのは、10代の子たちが普通に友だちと話しながら犬を連れていたりするのを目にすることです。いつも一緒だから、遊びに出かけるときも連れている。きっと自然なことなんでしょう。こんな風景が日本でも見られたらいいですよね。
 最近は日本でも一部の小学校ではカリキュラムに入っていたりしますが、子どもの頃からの命の大切さに触れる教育がやっぱり必要だと感じます。もしかしたら殺処分のない世の中って、こんなところから醸成されていくのかなと思ったりもします。

 よく比較の対象に上がりますが、欧米だって虐待や殺処分がゼロなわけじゃないし、犬を飼うことにすべての人が完璧なわけではないんです。むしろ「介護して、看取る」という概念は、日本らしいものかもしれません。日本は日本式、でもいいところは外からも取り入れたいですよね。犬と暮らしたいと思えば、保護施設に行くことが特別じゃないところは見習うべきだと思います。

 この前たまたま、知人の若者がうちの子たちの散歩をしたいって言ってくれたんです。うれしかったですね。もちろんその犬にもよりますが、散歩の手順や注意事項を理解してもらって、こんなふうにお手伝いしていただけることもあるんです。
 施設は、常に人手が足りないので片付けや荷物運びもとても助かります。実は気楽にできることってたくさんあります。気軽にご連絡をいただけたらと思います。

かわいそうなんて思わなくていい

 以前、『ポーちゃん』という女の子がうちにいました。元繁殖犬で、少し仲良くなれたかなと思っても翌日には元通り……心の距離がなかなか縮まらないような印象の子でした。
 ある日ポーちゃんに会いたいと言って譲渡会に来てくださったご夫婦がいたんです。アウトドアが大好きで、とってもいいご夫婦。うーん、でも、ポーちゃんにはアウトドアライフは無理だろうし、もしかしたら懐くことすら難しいかもしれないと、正直にお伝えしました。

 そのご夫婦はそれでもポーちゃんを幸せにしたいと言ってくれました。ありがたかったんですけど、同時に「ポーちゃんじゃないのかもしれないな」とも思いました。
 その子のためにライフスタイルを変えます、というのは後々やっぱり無理が生じます。犬のためにも里親さんのためにもよくないと私は思っています。

 それで、「ほかの子もいますし、一度DSOにぜひいらしてください」とお誘いしました。ご夫婦がいらした日、駐車場まで迎えに行くときに、たまたま私が連れて行ったのが『おうすけ』でした。繁殖所から引き取った男の子で、寡黙な武士のような風情、甘えん坊ではないけれど静かに寄り添ってくれる感じの子です。
 「こんなに毛が抜けるとは思わなかった」という理由で、ちょうど1度目のトライアルが中断になり、帰って来ていたところでした。そう、トライアルの中断は残念。だけどそのためのトライアルですから、むしろこの時点でわかってよかったんです。それからというもの、私も学んで、柴犬と暮らしたことのない方には柴犬の抜け毛の多さについて、特に念を推すようにしています。

 話を戻しますね、おうすけを駐車場で見た旦那さんがひと目で「かわいいーっ」と絶叫したんです。それを見ててお互いにビビビっときたかな? と私は感じました。その出会いがあって当時7~8歳だったおうすけはトライアルを経て、そのご夫婦に譲渡が決まりました。いまでも一緒に山や川でアクティブに楽しんでいて、本当に幸せそうです。
 そして、ポーちゃんも、幸せになりましたよ。心やさしいご夫婦にご縁があり、猫ちゃんたちと一緒に静かでのんびりとした場所でポーちゃんらしく暮らしています。里親さんが月に一度、写真つきの葉書で最近の様子を知らせてくれるんです。うれしいですね。これぞ、最高のマッチングだったと思います。

「楽しい」が出会いのきっかけでもいいじゃない

 裾野を広げると言うことは、いつも意識しています。私自身がかつてイベント関連の仕事についていたこともあるのかもしれないけど、「保護犬を知ってもらうきっかけが楽しいものでもいいじゃない?」って、思うんです。「保護犬=かわいそう」で終わってしまうパターンを変えたいって、いつも考えていますね。

 過去にやったワインバーでのイベントのお客様は、もともと保護犬活動に関心の高い方はもちろん、いい活動してるね、ワインで応援できるなら!って言ってくださる方々もいます。「食べて飲んで楽しかったね、お釣りを寄付しようかな」という気負いのない方々が多かったのはうれしかったですね。
 コロナ禍を踏まえつつも、楽しみながら関われることを、これからも企画していきたいなと思っています。保護活動をもっと普通に日常に組み込めたらいいですよね。
 SNSも、里親募集中の子は個性が伝わるように、大阪的なおもしろかわいいスタイルで、と心がけています。

 紹介文では、性質やクセ、病気のことなどきちんと事実をお伝えするよう努めています。もちろん早く家族が決まって欲しいけど、決まったら終わりじゃなくてそこからがその子のスタートで、その子をまるごとそのまま受け止めて、一生一緒に過ごせる家族と出会うことがいちばん大事ですから。
 トライアル期間中に特に注意したいのは、脱走です。これは人間の責任、絶対に避けなくてはなりません。熱中症、交通事故など命に関わることもあります。脱走ということが何を意味するか、ダブルリードの励行など、防止策と注意事項ははじめにしっかりと説明しています。


家庭犬として一緒に暮らす

 DSOでは保護犬を家庭犬として、一緒に生活するようにしています。早期にその子の性格やクセを把握することが大事です。犬同士のけんかはつきものだし、人の(関心の)取り合い、食べものの取り合いなど犬同士が慣れるまでは、神経を使います。けれどもそのうちに、どの子もそれなりに家庭犬らしくなります。 
 いちばん気になるのは「いざトライアル」という時。不安気にこちらを見ている子もいますけど「この里親さんなら大丈夫だからね」って言って、送り出すんです。帰り道、玄関で固まってないかなと心配になったり、そんなことを考えてちょっと涙してしまったり(笑)。でも、しんみりするのはこの時だけです。

 トライアル期間が無事終了して、正式譲渡になる頃には、私のことなど忘れてしまったかのように、どの犬たちも里親さんの子になっています。それでいいんです、それがうれしいです。
 記念の家族写真を撮って皆さんに報告するわけですが、この時ほど清々しい気持ちになることはないです。

 この活動をやっていて、周りに「偉いね」と言われると「好きだからね」と答えます。誰かに認めてもらいたいわけじゃなくて、本当に好きだからやっているんですよね。
 大変なこともありますが、犬たちからもらった幸せを恩返ししたいんです。
 DSOはドッグシェルター東京の大阪支部として活動を開始したわけですけど、活動の範囲に関しては自分のキャパシティーを知る、それが責任を持つということなんだろうなと思って活動しています。

 皆さんにお伝えしたいことは、まずはご自身のわんちゃんを大事にして、愛してあげてくださいということです。そして、ほかのわんちゃんの幸せについても、少しだけ想像を巡らせてくれたらと思います。こういうことは強いられるものではなくて、何かを感じることからしか行動は生まれない、と考えています。
 残念ながら柴犬は保護犬が多いので、地元の保護団体やセンターなどで、里親さん募集をしていることが少なくありません。保護柴を迎えたいとお考えの方は、ぜひお近くで問い合わせしていただけたらと思います。

■DSO(ドッグシェルター大阪)
関西に拠点を置く、柴犬専門の保護団体。動物愛護相談センターに収容され、命の期限が迫る犬たちや繁殖リタイア犬など行き場を失った犬たちを引き取り、必要な医療ケアをしトレーニングをしながら家庭犬として飼育し、新しい家族の元に送り出すための活動をしている。代表の奥谷友紀さんによるFacebookの保護柴ちゃんについての記録、Dog Shelter Osaka(柴姉さんの保護犬日記)も大好評!里親募集中の柴犬情報は、ドッグシェルター東京のHPからも確認ができる。また、医療、食、日用品購入などに資金は不可欠だ。寄付金のご協力はこちらまで。

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