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食べたい知りたい語りたい…魚の基本と雑学|専門家に聞いた「魚にまつわる20の質問」

2048年には、海から食用魚がいなくなる!?

「日本では魚の消費量が減っているのに対し、世界規模では増加の一途をたどっています」と語るのは、国立科学博物館名誉研究員の松浦啓一さん。また2006年には、著名な学術誌『サイエンス』に〝2048年には海から食用魚がいなくなる〞という論文も発表されている。

「需要が増えれば、当然、漁獲量を増やそうと、成長前の小型の魚まで根こそぎ獲るようになってしまう。それで個体数がどんどん減ってしまうんです」。

 魚類は適正量を獲っていれば、残った個体が卵を産んで成長する再生可能な資源だ。しかし、その成長サイクルに至る前に捕獲して消費するので、閾値(いきち)が減ってしまうのだ。

「日本人はイワシやアジの消費量が減り、高級魚ばかり食べるようになってきています。この傾向は世界的に広まって、高級魚の資源は急激に減ってきています。歯止めをかけるには、乱獲を止めるしかありません」。

 魚の生態はわからないことも多い。しかし、これからもおいしい魚を食べるためには、次世代のために必要数を残すことも考えなければならないのである。

魚にまつわる20の質問

Q1.そもそも、魚の種類はどのくらいあるの?
現在知られている魚の種類は、約3万2000種です。比率は、海水魚が52%で淡水魚が48%になります。脊椎動物の全種類が約6万種ですから、魚類は脊椎動物の半数以上を占めているのです。ですから魚類は、脊椎動物の中で最も多様性な生物ということができます。これからも新種が見つかる可能性は大いにあります。

Q2.日本で食べられている魚の種類は? また、世界との比較では?
日本で見ることのできる魚は、およそ4200種ほどで、そのうち食用となるのは、季節やローカルな魚も入れて200種程度。また、その中でスーパーや魚屋の店先に常に並ぶのは30~40種ほど。世界的に見ると多い方ですが、食用とされているのは全体の5%程度です。

Q3.天然魚と養殖魚の違いは?
一番大きな違いは、体表の色に出ます。例えばマダイであれば、養殖されていると赤い色が出にくいのです。今はエビやカニを餌にすると発色が良くなることが分かったので、ずいぶん改善されました。味については、並べて食べ比べてみても分からないくらい、天然と養殖の味の差はなくなってきています。

Q4.日本人に人気の魚で養殖に頼っている魚は?
生け簀の中で育てられているものとしてはブリなどが挙げられます。しかし生け簀の中で飼うことだけが養殖ではありません。人工ふ化した種しゅ苗びょうを放流するのも養殖なので、マダイやヒラメもかなりの割合を占めています。アワビやホタテ、ハマグリなども種苗を放って育てることが多いです。

Q5.赤身魚、白身魚、青魚の違いは?
赤身魚の代表はマグロやカツオです。長く泳ぎ続け、運動能力に長けているので、血合い筋が多くて身が赤く見えるのです。白身魚はタイやタラ、ヒラメなどで、沿岸をゆっくり泳ぎ、天敵に襲われたり、捕食したりする瞬間に速く泳ぎます。また、青魚は体表の色で区別されるもので、サバやアジ、ブリなどです。

Q6.「脂が乗る」というのはどういうことか?
魚の場合、産卵前に餌をたくさん食べて体に栄養を溜め込んでいる時が、いわゆる脂が乗ると言われる状態です。栄養分が多くなっているので、味も良くなるのだと考えられます。牛や豚の肉でいう脂肪分のこととは違います。逆に、産卵後はサケならば、“ほっちゃれ”という状態で、食べてもおいしくありません。

Q7.「白身から」寿司の食べ方の順番の理由は?
私自身は魚を食べるのも好きですから、好きなネタから食べていいと思います(笑)。ただ、カツオなど味に癖があったり、マグロの大トロのように脂分が多かったりするネタは、舌がそれに慣れてしまいます。そして次に、ヒラメやタイといった白身を食べると、淡白な味が分かり難くなるからだと思います。

Q8.昔は安かったのに、今や高級魚となってしまった魚はナニ?
ホッケなどがその代表格でしょう。昔は“ネコマタギ”、つまり猫もまたいで通るくらい食べないと言われていましたが、今や重用されています。また、乱獲で漁獲高が減ってしまい、貴重な魚になっているのはハタハタやニシンなどですね。

Q9.アジとカツオ、同じ「たたき」でも調理法が違うのはなぜ?
たたきという調理法は、魚の生臭さを抑えるためのものです。アジのたたきで、薬味や味噌などと混ぜて食べるのがその典型です。カツオの場合は刺身だと身が硬く、意外と鉄分の匂いが強いのです。藁火で炙ると、熱で身が柔らかくなり匂いも抑えられます。

Q10.ウナギを刺身で食べられないのはなぜ?
血液に毒があるからです。他にもアナゴやウツボ、ハモなど、ウナギ目の魚類は、イクシオヘモトキシンというタンパク毒が含まれています。厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルによると、60℃で5分の加熱で完全に毒性を失うとされています。ですから、必ず火を通して食べた方がいいのです。

Q11.釣った魚はなぜすぐにしめた方がよい?
血抜きのためです。私たちが食べている魚の身は、すべて筋肉です。死んだ後に血液が残っていると腐敗が進みやすくなります。また、生きたままクーラーボックスに入れると、暴れて血液が流れ出て、血が身に回ると生臭くなって食べてもおいしくありません。ですからすぐにしめて、血抜きをするのです。

Q12.ニシンやイワシ、イカなどの漁獲量が減少してきているのはなぜ?
一番の原因は、乱獲です。一度個体数が減ると回復するのが難しい面があります。世界的には魚の消費量が増加しているため、魚を獲る技術と新鮮なまま輸送する手段が発達しました。その結果、様々な場所で大量に獲るようになり、減ってしまっているのです。

Q13.マダイ、キンメダイ、イボダイ…すべて本当にタイ?
日本に○○ダイと付く魚は300ほどいます。でも、日本でタイ科に属する魚は、マダイを始めクロダイ、キダイにチダイ、へダイなど10種余りです。日本人はタイが好きなので、少し似ているとすぐに○○ダイと名付けてしまうのです。

Q14.魚の寿命はどのくらいなのか?
つい最近分かった最も長生きする魚は北大西洋に生息するニシオンデンザメで、約400年だと言われています。逆に極端に短いものだと1年に満たない種もいるなど多様です。カサゴの仲間で200年を超えるものもいて、アユなどは“年魚”と言われ1年です。10~20年生きるものもざらで、深海性のものほど長生きです。

Q15.最速の魚は?
それは判明していません。マグロやカジキは海中を時速100㎞以上で泳ぐと書いてある本もありますが、水の抵抗を考えると、とても信じられません。ただし、マグロの生け簀で餌をやる時の映像を解析した研究では、餌に向かって突進する速度が時速50㎞と記録されています。かなり正確な数値ですから、魚の中では最速のスイマーの一種だと言うことができます。

Q16.フグの猛毒はどのように作られるのか?
フグ毒はテトロドトキシンと呼ばれる猛毒です。テトロドトキシンは、元をたどると海洋性細菌を作りだす能力を持っています。その菌を持った餌を食べたフグは、肝臓や雌の卵巣に毒を貯めるので、生物濃縮で濃度が高くなっていきます。ただ、なぜそういう機能を持ったのか分かっていません。

Q17.なぜイカやタコは墨を吐くのか?
両方とも捕食者から逃げるためです。ただ、少し性質が違っていて、イカ墨は粘性が高いため、紡ぼう錘すい形にまとまり、自分と似た形を作って相手がそれに気を取られているうちに逃げます。一方、タコの墨は粘性が低くてすぐに拡散しますが、相手の嗅覚を麻痺させる成分が含まれ、追跡させないようにしています。

Q18.サバやイワシなどの表層を泳ぐ魚の背はなぜ黒いのか?
背中の色は、捕食しようと上から攻撃してくる海鳥に対して、海面の色に溶け込んで体の形を分かり難くするためです。また腹側の銀色は、横や下から襲ってくる肉食魚に対して海面の反射に溶け込んで、全体的に立体感をなくすことで輪郭をぼかす役割をします。

Q19.トビウオはどのぐらい飛べるのか?
トビウオが海中から飛び出すのは、カツオやマグロから狙われた時です。胸ビレが主翼、腹ビレが水平尾翼の役割をして、追い風で条件の良い時なら400~500m滑空したという記録があります。時間と距離から計算した速度は時速60㎞にもなります。また、体を傾けて空中で方向転換することもできます。

Q20.魚の年齢はどうやって調べるのか?
基本は魚の“耳じ石せき”を取り出してスライスし、そこにできている年輪のようなものを数えて年齢を推測します。それができないような種の場合は、骨やウロコにある年輪を数えて推測して割り出します。ただ、年齢を数えるのは資源量推定に関わるからで、調査をするのはほんのわずかな種類しかありません。

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松浦 啓一

まつうら・けいいち 1948年東京都生まれ。水産学博士。 東京水産大学水産学部卒業。北海道大学大学院博士課程修了。 1979年に国立科学博物館動物研究部研究官となる。 国立科学博物館名誉研究員。海洋生物と海の環境などにも言及。

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