読切

2021/11/14

肉の消費期限が倍増する「真空スキンパック」でフードロス削減は加速するか

食品包装技術がもたらす持続可能な食卓

「一個人」編集部

●取材・文/松崎隆司 ●撮影/岡崎隆夫

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「赤色の牛肉=新鮮」だという誤解

 SDGsが声高に叫ばれる現代、フードロス問題は無視できない。しかし、具体的にどのようなアクションが可能なのかわからない方も少なくないだろう。そんな中、食品の包装方法によって、私たちの食卓が大きく変わる動きが出ている。その鍵を握るのが「真空スキンパック」という包装技術だ。まだ馴染みのない方のために、その仕組みやメリット、現状などについて東京食品機械株式会社の秦哲志会長に話を聞いた。
■東京食品機械株式会社の秦哲志(はた・てつし)代表取締役会長
食品会社の包装技術開発部門で真空パックの開発を担 当した後、90年より東京食品機械株式会社。食品包装 技術の探求者として、業界を牽引する。
──まずは一般消費者にはあまり馴染みのない「食品包装」について伺いたいと思います。
─最初にみなさんにお話したいのは、包装の仕方ひとつで食材の保存期間などが大きく変わるということです。私たちは包装技術によって、大きな社会問題となっているフードロスの削減にも貢献できると期待しています。

──具体的には、何がどのように変わるのでしょうか。
─例えば、「フレッシュな牛肉の色」と聞いて、みなさんは何色を連想しますか? おそらく多くの方は「鮮やかな赤色」を想像するのではないでしょうか。しかし、赤色の牛肉というのは、すでに酸化が進んでいる状態なのです。
 牛肉は本来、赤紫色のような色をしているのですが、それが酸化すると赤い色になるのです。さらに酸化が進めば茶褐色になって味も劣化していきます。

──美味しそうに見える赤色の肉は、実は酸化が進んだ肉だということですか。
─その通りです。しかし酸化を抑えられれば、肉は鮮度を維持し長期保存ができるようになります。それは何も肉だけでなく、マグロなどの魚でも同じことが言えます。
 鮮やかな赤い牛肉が「酸化している肉」ということは欧米では一般に知られていますが、日本ではまだあまり知られていないと感じます。
写真は、真空スキンパック包装を半分ほど開封し、数十分が経過した牛肉である。空気に触れた右側は酸化し、赤色に変色し始めている。鮮やかな赤色の肉が新鮮というわけではないのである。

包装技術で食肉の保存期間は4倍伸びる

──それは意外でした。その「酸化」を包装によって防ぐことができるということでしょうか。
─肉であれば、通常は冷蔵庫に入れて2~3日程度で消費期限を迎えますし、魚ならばさらに早い。しかし「真空スキンパック」という包装方法ならば、食肉の保存期間をかなり延長できることが確認されています。

──消費者にとっては嬉しい話ですね。しかし、なぜそのようなことが可能になるのでしょうか。
─いわゆる真空包装は、パック内の酸素を取り除くことで酸化を防ぎ、バクテリアの増殖を抑えます。さらに「真空スキンパック」は、フィルムが内容物の表面被膜の働きをすることにより、食品からのドリップ(食品から出る液体)も抑制することが可能となります。
──それは素晴らしい技術です。開発の経緯についてもぜひ教えていただけますでしょうか。
─真空スキンパックは60年代からハム・ソーセージの分野で使われていましたが、当時のフィルムは不完全燃焼すると有毒なダイオキシンが発生するため批判が集まり、使われなくなりました。その後、80年代末にはドイツで包装技術が開発され、欧米で再びスキンパックが普及したのです。しかし、日本では広く普及することはありませんでした。

──現在、日本での状況はどうなっていますか。
─日本ではフィルムの国産化ができておらず、輸入に頼らなければなりませんでしたが、2019年に世界的なフードロス削減の動きを受けて、フィルム原料を三井ダウ・ケミカル社、フィルム製造を住友ベークライト社、包装機器の開発を弊社が担うことで初の国産化に成功しました。

──「真空スキンパック」がもたらすメリットについて、もう一度詳しく教えてください。
─さきほどお話しましたように、食品の消費期限が大きく延長される上、ドリップも抑制されるので、ご家庭で長期間保存してもおいしく食べることが出来るようになります。
 これによって、まとめ買いなどで買い物自体の手間を減らすことができますし、結果として「フードロスの削減」にも貢献することが可能です。
■包装方法ごとの消費期限比較(国産牛サーロイン)
一般的な「トレイ包装」と比較すると、「真空スキンパック」によって延長される消費期限はおよそ4倍となる
■各種包装形態の鮮度保持評価

消費者の意識次第で日本に「包装革命」が 起こる

──供給側にとってのメリットはいかがでしょうか。
─小売業界では生鮮食品の消費期限切れによる廃棄や値引きなどが大きな損失だと言われています。「真空スキンパック」を活用すれば廃棄ロスなどを大幅に削減できますから、利益の改善につながります。

──「真空スキンパック」の実物は今回はじめて見ました。
─昨年からはダイエーが精肉と鮮魚(主に魚の切り身)で販売を開始し、本年にはイオングループの約30店舗で国産フィルムを使った生肉のテスト販売が開始されています。

──実際に購入できるようになってきているのですね。
─ええ。こうした動きはまだ始まったばかりですが、追随する店舗も増えていますし、メリットが正しく周知されていけば、精肉業界の「革命」につながるのではないかと大きな期待を寄せています。
まだ一部ではあるものの、大手スーパーなどでも「真空スキンパック包装」でパックされた精肉が購入できるようになってきている。これに追随する動きも見られ、消費者の反応次第では、さらに売り場は拡大していく可能性がある。
(容器メーカー:中央化学株式会社)
──「真空スキンパック」された食肉を選択することで消費者はフードロス削減に貢献できる。
─その通りです。しかし、こうした動きを広めるためには消費者の意識改革が不可欠です。そのためには、「赤い肉が新鮮」だという認識を変えていただく必要があると思います。

──食卓からはじまるSDGs …それを可能にするきっかけが「真空スキンパック」と言えそうですね。
─人口増加と経済発展により、世界の肉消費量は50年間で5倍にも膨れ上がり、環境に対する負荷がますます大きくなっています。畜産業に必要な水不足も大きな問題となっています。
 こうした問題を解決する為にもフードロス削減は大きな課題だと考えていますし、真空スキンパックを普及させていくことが有効な手段だと信じています。


 赤い肉は酸化が進んだ状態である…そんな、目からウロコとも言える事実から真空スキンパックによる具体的なメリット、そして「食」に関する種々の問題についてまで話を伺った。
 これから徐々に増えていくであろう「真空スキンパック」された食肉を目にする機会があれば、ぜひ今回の話を思い出してほしい。私たちの選択、それ自体が持続可能な食卓の未来を拓いていくことにつながっていくのだ。
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雑誌「一個人」編集部
本誌「一個人」のほか、健康や教養などを中心に、多層的なテーマを扱った増刊を編集制作しながらこのサイトを運営しています。

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