欧米ではクリスマス休暇に怪異が起こると語られることが多い。
ブラック・サンタクロースの伝承もあるが、これは幽霊や悪魔のたぐいではない。聖ニコラウス(サンタクロース)の同伴者で、よい子にはお菓子をあげるが悪い子には罰を与えるとされる精霊で、日本のナマハゲみたいなものだ。
しかし、クリスマス休暇の怪異として広く知られた「ルームメイトの死」はもっと即物的で血生臭い。なお、この話は1965年頃にアメリカの西部で語られていたものだ。
舞台はある大学の女子寮。
クリスマス休暇中のある雪の日、寮に残っているのは同じ部屋に住むエマとナタリーの2人だけだった。ナタリーはその夜デートの予定があり、彼氏が迎えに来るのを待っていた。
夜、寮の玄関のドアが開く音が聞こえると、ナタリーは浮かれた様子で出かけていった。しかし、しばらくすると、再びドアが開く音がした。
エマは、ナタリーが忘れ物でもしたのかと思ったが、少し様子がおかしい。なにか重いものを引きずるような音や、ぜいぜい呻るような声がするのだ。
その時になってはじめてエマは、最近、付近で通り魔が出没していることを思い出した。夜になると刃物を持った男がうろつきまわるとかいう話で、寮の子も何人かが追いかけられたという。
恐くなってきたエマは部屋のドアに鍵をかけ、明かりを消してじっと息をひそませていた。
やがて、引きずるような足音やあえぎ声はしだいに近づいてきて、ついにエマの部屋の前にたどり着いた。
そして、そのドアを「がり、がり、がり…」と引っ掻き始めた。
彼女は叫びたくなるのをじっとこらえて、部屋の隅で小さくなり、朝がくるのを待ち続けたが、引っ掻く音はいつまでも響き続けていた。
永遠に思われるほど長く感じられたその夜もやがて明け、ドアを引っ掻く音もいつの間にか聞こえなくなっていた。
「もう大丈夫かしら…」
エマは部屋のドアをそっと開けてみた。すると…
そこには喉をかき切られたナタリーが倒れていた。
彼女は助けを求めて部屋まで這ってきて必死にドアを引っ掻いていたのだが、ついに力尽きてしまったらしい。
今のようにケータイがあれば、互いに連絡をすることもできたかもしれないし、警察に通報することもできただろう。
しかし、そんなものがない時代、首を切られたナタリーは、エマがいるはずの部屋のドアを力のかぎり引っ掻くことしか道はなかったのだ。
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