いくらお金があっても健康がなければ、というお方も多いであろう。そこで今回はさまざまな健康の願いに応じてくれる寺社をご紹介したい。
まずはどのような病気・ケガにも対応してくれる、総合病院のような寺社からご説明しよう。
和漢の医薬神を祀る総合病院的神社
まずは、「日本医薬総鎮守 病気平癒・健康成就の社」と呼ばれる少彦名神社(すくなひこなじんじゃ)である。
この神社のご祭神・少彦名命(すくなひこなのみこと)は大国主神の国造りを助けながら人々に医薬を広めた神とされる。さらに、ここには百種の植物を自らなめて効能を確かめたという中国医薬の祖神・神農炎帝(しんのうえんてい)も祀られている。つまり、少彦名神社は和漢の医薬神を祀る神社なのである。
少彦名神社が鎮座する大阪市中央区の道修町(どしょうまち)は、秀吉の頃から江戸時代にかけて薬を扱う商店・問屋が軒を並べていたところ。薬種業者の守り神として少彦名神社は安永9年(1780)に創建された。すなわち、医薬のプロが崇めた医薬の神様というわけだ。
病魔・疫病を払い去ってくれる神社
少彦名神社が医薬の力で病気やケガを治してくれる神社であるのに対し、奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)摂社の狭井神社は病魔を払い去ってくれる神社である。
毎年4月18日に行われる鎮花祭(はなしずめのまつり)は疫病をまきちらす疫神を鎮める祭で、8世紀以前から続くものだ。多くの医療関係者が参列し、医薬品が奉納されることから「薬まつり」とも呼ばれる。また、境内の井戸から湧く水は昔から「薬水」といわれ、諸病に効くと伝えられる。
仏教では薬師如来が諸病を癒やしてくれるという。体の病だけではなく、心の病(悪いことを思う心の病も含め)治してくれるので心強い。各地の薬師寺のほか、京都や東京には蛸薬師というイボやアザに霊験があるとされる寺院もある。
心の病も神仏が助けてくれる
癒やされたいのは体だけではない。生きていれば心にも傷や病んだところもできる。そうした心の悩みを癒やしてくれる寺社もある。
寺社の境内を散策し、神仏の前で手を合わせるだけでも心は癒やされるものだが、それでは十分ではないという方には、心に刺さったトゲや釘を抜いてくださるお地蔵さまがいらっしゃる。
東京ではお年寄りの原宿として有名になった豊島区巣鴨におられる。とげ抜き地蔵高岩寺である。
誤って針を飲み込んでしまった女中が高岩寺の御影(ご本尊の姿を刷ったお札)を飲んだところ、針はその御影に刺さって出てきたことから「とげ抜き」と呼ばれるようになったとされるが、針を飲み込む人はそうそういないと思うので、これは心に刺さったトゲの比喩と受け取ってよいだろう。実際、そうした悩みを抱えてお参りする人も多いという。
なお、境内には、患部と同じ場所をタワシで洗うとよくなるとされる洗い観音もあるので、高岩寺では心身の健康が一度に祈願できる。
いっぽう京都はトゲどころか釘まで抜いてしまうお地蔵さまがいる。釘抜き地蔵石像寺(しゃくぞうじ、京都市上京区)である。
石像寺のお堂は釘抜きと八寸釘がつけられた絵馬(額)が多く並び、たくさんの人々がその周りをめぐって祈願をしている。規模は大きくないが、多くの人々に広く信仰されていることがうかがえる。
「釘抜き」の名は、前世で呪いの人形に釘を打ち込んだために不治の痛みで悩んでいた者を救ったことからつけられたとされるが、釘抜きとは「苦抜き」の意味であり、心身の悩みに応えてくれる頼もしい仏さまなのである。
将軍の娘の目を快癒させた薬師
専門医のように各部位の病気やケガに霊験がある寺社もある。
たとえば、眼病であれば東京都中野区の新井薬師梅照院。このお寺は天正14年(1586)に創建された真言宗の寺院で、薬師如来と如意輪観音が表裏一体になった像を本尊としている。第二代将軍・秀忠の娘の悪性の眼病を快癒させたことより「目の薬師」と呼ばれるようになった。
眼病のお守りや絵馬のほか、「めぐすりの木」のお茶も授与されているので、目の健康が気になる方は試してみてはいかがだろうか。
眼病に霊験がある寺院は京都にもある。目やみ地蔵仲源寺(京都市東山区)だ。
祇園の賑やかな商店街の中にある小寺なので見過ごしてしまいそうだが、古くから八坂神社とともに信仰を集めてきた。この仲源寺には瀬田の唐橋と同材で造られたという大黒天像も安置されており、祇園の女将さんたちが熱心に参拝している。また、重文に指定された千手観音像もあり、小さいながら見どころ・ご利益どころが多い。祇園に立ち寄った際には、ぜひとも参拝しておきたいお寺だ。
足腰健康・スポーツの神様
足腰の痛みや健康には、京都市上京区の護王神社がご利益ある。
護王神社は平安京の造営で活躍した和気清麻呂公をお祀りしている。この清麻呂公は弓削道鏡(ゆげのどうきょう)の皇位奪取に抵抗して流罪にされた。この時、足の腱を切られたが不思議にも癒えたと伝えられ、そうした由緒から護王神社を参拝する者にも足腰の守護があるとされる。
関東では子ノ権現(ねのごんげん)天龍寺(埼玉県飯能市)が有名。サッカーや陸上競技などのスポーツ選手からも信仰を集めている。
ただし、山上なので徒歩ではハイキング道を90分登らなければならない。自動車道は整備されているが、車での参詣も難しい場合は郵送での祈願も受けつけている。なお、都内には板橋区や東久留米市など数カ所に分祀があるので、そこをお参りしてもいいだろう。
このほか東京都葛飾区の亀有香取神社も足腰健康の神様・スポーツの神様として信仰されている。
咳、歯、髪etc…。主治寺社を見つけよう
もっとピンポイントのご利益の寺社もある。
たとえば、腫れ物の悩みであれば石切劔箭神社(いしきりつるぎやじんじゃ、大阪府東大阪市)、咳であれば弘福寺(東京都墨田区)の咳の爺婆尊、歯痛なら日比谷神社(東京都港区)、髪の悩みであれば王子神社(東京都北区)の関神社、下半身の病であれば明徳寺(静岡県伊豆市)など。
まだまだあるので、あなたの主治寺社を探してみたらいかがだろうか。
仏様がボケも封じてくれる
最後にボケ封じのお寺を二つご紹介しておきたい。
一つは奈良県桜井市の安倍文殊院である。
快慶作の国宝・文殊菩薩騎獅像で知られる寺院で、陰陽師の安倍晴明が天文を観測した地ともされる。「三人寄れば文殊の智慧」という言葉があるように文殊菩薩は智慧の仏さまであるから、その力でボケを防いでくれるとのだろうか。ボケ封じのお守りも人気だ。
約4キロ離れたおふさ観音観音寺もボケ封じで有名で、安倍文殊院との間の道は長寿道と呼ばれている。
もう1ヵ寺は東京都青梅市の塩船観音寺である。
塩船観音寺は7世紀に八百比丘尼(やおびくに)が千手観音を安置して創建したと伝えられる。八百比丘尼は人魚の肉を食べたために800歳の長寿を保ち、しかも晩年に至るまで若く美しかったとされる。まさに究極のボケ封じといえよう。境内にはボケ封じ薬師堂があり、ボケ封じのお守りや絵馬も授与されている。
寺社めぐりをすること自体が、一つの健康法といえる。
どうぞご自愛の上、多くのご利益寺社をめぐっていただきたい。