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【シンポジウムレポート】食が未来を創る!医食同源とはー 前未病、腸内細菌、玄米、麹…。超健康のために!

2024年5月18日、「食から未来を創造〜医食同源から超健康を考える〜」と題されたシンポジウムが開催された。近年話題になっている、免疫機能の調整や老化の予防、さらには生活習慣病や認知症などの社会問題を「食」の面から捉え、多角的に解決していこうというもの。そこで発表された講演内容をレポートしていこう。


産・官・学・消が一体で考える食と健康

医食同源」という言葉がある。病気の治療も普段の食事も、ともに人の生命を養い健康を維持するためのもので、その本質は同じであるという考え方だ。古代中国から伝わる中医学の「薬食同源」が元になっている。

医食同源の考え方のもと、食から健康を目指すために活動する「超健康コンソーシアム」と「医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアム」が連携し、5月18日に東京医科歯科大学・鈴木章夫記念講堂(東京都)で市民公開シンポジウム「食から未来を創造〜医食同源から超健康を考える〜」が開催された。

どちらのコンソーシアムも、目指すところは「医食同源による持続可能な健康社会の実現」。シンポジウムでは、有識者6人が登壇し、「産(コメの生産者・流通業者等)」「官(行政)」「学(学識経験者)」「消(個人や法人による消費者)」が一体となって取り組む、食と健康に関する興味深い研究結果が発表された。また、講演後は登壇者らが参加して意見交換や討論、質疑応答なども行われた。

健康寿命の延伸を目指す超健康コンソーシアム

まずは両コンソーシアムの活動内容を紹介しよう。

「超健康コンソーシアム」は〝健康寿命の5年延長、格差のない健康〞を目指し、東京医科歯科大学難治疾患研究所准教授の安達貴弘氏を中心にした研究者5名で、2022年10月に設立された。掲げるのは、〝農業から医療まで、持続可能な健康長寿社会の実現〞。病気が発症する前段階のささいな異常を「前未病・超早期未病状態」と位置付け、この段階では食品で予防・治療が可能とし、個人の特性に適した機能を持つ食品の摂取で生活の質の向上を実現させるための研究を行っている。

そのために国産農水産物の免疫機能を評価し、かつ普段の生活に活用することで健康寿命を延伸すること、環境と共生しつつ農業と食品産業を活性化し、将来の人材や食・農地の確保、産業の創生を目標にした産、学、官の連携、さらに市民の参画も仰いで取り組んでいる。

これは「Food Aid Project」と名付けられ、品種によって機能が異なるコメに着目した「Rice Aid Project」も含まれる。

〝医食同源米〞によって6つの国難解決を目指す

Rice Aid Projectと連携した活動を行っているのが「医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアム」だ。次の6つの目標を掲げて活動している。

1. 国の財政を圧迫している医療費を大幅に減らすこと
2. 次世代を担う子供や、出来れば妊婦の健康度を高めると共に、少子化を防ぐこと
3. 認知症患者を減らすと共に、健康寿命を延長させ、介護費を減らすこと
4. コメ消費量を増やし、食料自給率の向上を図ること
5. 休耕地を無くすと共に、コメ輸出によって海外の人々の健康長寿にも貢献すること
6. コメの価値を高め、生産農家の意欲向上を図ること

同コンソーシアムが定義する医食同源米は、亜糊粉層(あこふんそう)を残した白米や分搗(ぶづ)き米、発芽玄米、表皮の蝋層(ろうそう)を除いた玄米などを指し、さらに人と環境に優しい無洗米に加工されたコメの総称だ。コメが本来持っている健康成分を残しながら美味しく食べ続けることで多くの国難を解決できることを伝え、それぞれの立場で実践している。

食を起点として前未病や超早期未病は予防できる

講演する安達氏

超健康コンソーシアムの中心メンバーである安達氏は、『食を起点とした前未病・超早期未病の予防・治療』をテーマに講演した。

未病とは、自覚症状はないが検査では異常がある状態、自覚症状はあるが検査では異常がない状態などと定義され、近年、行政を中心に、未病段階で病気を防ぐことが提唱されている。

ところが、未病とは言葉を変えれば、〝すでに病気になっている早期の状態〞とも言える。安達氏は、未病よりさらに前の段階に着目した。

参考:安達貴弘氏発表資料

「自覚症状がなく、これまでの検査では検出もできない微細な異常を、我々は『前未病』と定義しました。前未病や超早期未病を標的とすれば、〝食〞で病気を予防・治療できると考えています」

発症する前の微細な異常であれば、食品やサプリメントで難易度の低い予防・治療ができるという発想だ。安達氏の研究チームは、マウスを使ってさまざまな食べ物に対して、小腸内の細胞がどのように反応するかをリアルタイムで調べた。

「病気は、加齢に伴い免疫バランスの乱れが生じることで発症します。我々は、個人の健康状態やライフステージに合わせて何を食べたらいいかを見極めることが必要だと結論付けました」

現在の日本人の食生活は1950年に比べ、炭水化物が約22%減り、脂質は約21%増えている。

「高脂質食が続くとアレルギーがひどくなったり、自己免疫が低下したり、老化を抑制する抗体が減ったりするのです」

では何を食べると良いのか。安達氏によると味噌や醤油由来の乳酸菌を摂ることで、免疫対応能力の向上、皮膚・腸管バリア機能の向上、がん抑制遺伝子発現の誘導、自己免疫抑制の増強などが実証されているという。

「そして、コメもです。品種や産地によって違いはあるものの、歴史的にも日常的に摂取しているので、作用が弱くても免疫機能向上効果が期待できます」

簡便かつ安価に前未病の予防・治療ができ、高い健康効果が期待できるのだと続けた。

腸内環境に合わせたヘルスケアも必要

講演する水口氏

例えば100人が同じ食事をしたとき、全員が同じ栄養素や体に良い物質が吸収されるのかを考えたことはないだろうか。

「結論から言ってしまえば、その効果は個人によって違います」と話したのは、腸内環境研究開発と事業開発を行う株式会社メタジェン取締役CFOの水口佳紀氏。水口氏もやはり、一人ひとりに合った食生活が健康に不可欠だと訴えた。そこには、腸内環境が関わっているという。

「これまで、同じ食事をしても効果が異なるのは個人差という言葉で片付けられていました。しかし最新の研究では、そのメカニズムの一端は、腸内環境にあることが分かってきています」

腸内には数百種類、百兆個の腸内細菌が住んでいる。腸内フローラ(腸内細菌叢)の状態によって食品機能の効果に個人差が生じるのだ。

腸内細菌は腸内に到達した食品を発酵させ、有益な物質を生成している。近年の研究では、有益な物質の一つである短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)が、体質の改善やアレルギーの抑制など様々な健康効果につながることがわかり、注目されているという。

参考:水口佳紀氏発表資料

「腸内環境を知って、それに合わせた食事をすることで、短鎖脂肪酸などを作り出し、より健康効果を高めることができます。つまり、腸内環境をコントロールできれば、病気の予防や治療にも役立てられるのです」

そのため、メタジェンでは、数多くの企業と連携し、腸内環境を知り、腸から全身の健康を向上させるプロジェクトを共創している。機会があれば、自分の腸内環境を調べてみると、本当に必要な食物を知るきっかけになるだろう。

日本の主食であるコメが国難を呼んでいる?

古代から日本人の食生活を支えてきたコメ。医食同源にも欠かせないことがわかったが、消費量や販売量は年々減っている。

「それに反比例するように、生活習慣病や認知症になる人が増え、医療費や介護費が国の財政を圧迫しています」と、医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアムの発起人でもある、東京農業大学客員教授の雜賀慶二氏は話す。

参考:雜賀慶二氏発表資料

「少子化が進み、コメの生産農家が減って食料自給率が低下、休耕田が増えて国土や環境までもが荒れるという結果をもたらしています」と現状を訴えた。

「生産者の意欲も下がり、稲作を諦める人が増えてさらに悪循環に陥っていきます。しかし、この状況に対する解決策を誰も提示していないのです」

では、どうしたらこの国難を解消できるのだろうか。

「皆さんが今食べているコメを『本物のコメ』、つまり医食同源米に変更すればいいのです」

雜賀氏は日本の現状について、こう続ける。

「厚生労働省のデータを見ると、1995(昭和30)年頃から医療費の増加が始まっています。新しい精米機が開発され、真っ白なコメが出回り始めた時期です。江戸時代から明治初期にかけては、白米食が原因でビタミンB1が欠乏する『脚気(かっけ)』が蔓延しました。いわゆる『江戸患い』です。これを第一の白米病とすると、現代は第二の白米病に直面していると言えます」

医食同源米が国難を救う低費用で効果的な方法

講演する雜賀氏

ふっくらと炊きあがる白米は確かに美味しい。しかしそれは、コメ本来の旨みと滋養強壮成分が含まれる亜糊粉層と糠(ぬか)を取り除いた、単なる炭水化物になった食物だ。

「糠や亜糊粉層、胚芽には人を健康にする成分が含まれていますが、食味があまり良くありません。そこで私は、それらが残っていても美味しいコメを作れないかと考えました。試行錯誤の上、亜糊粉層残存米と玄米の蝋層を取り除いた加工が施された脱蝋玄米を開発することができました」

雜賀氏自身もかつては病弱で糖尿病などを罹患し、「病気のデパート」と呼ばれるほどだったが、医食同源米を日常的に食べ続けたところ、すべての数値が改善したという。また、協力企業3社に医食同源米を提供して1年間食べてもらったところ、公的医療費が約4割削減されたというデータもある。

コメを替えるだけで、費用をかけることなく国難を解消できる。医食同源米を子どもや妊婦に提供する自治体が増えており、シンポジウムの時点では、全国12自治体が取り組んでいる。例えば、和歌山県西牟婁郡すさみ町では学校給食で提供。大阪府泉大津市では妊婦に提供している。今後も、すでに5自治体での導入が決まっているそうだ。

パネルディスカッション「それぞれが思う食の未来」

新潟食料農業大学名誉学長
元農林水産事務次官

渡辺好明氏

コメを世界中の人に食べさせてあげたい。地球を救ってくれるはずです。それから、食事の前に子どもを怒ってはいけません。美味しく食べることがコメにとっても良いことです。

農林水産省 農産局穀物課
米麦流通加工対策室長
葛原祐介氏

日本人はコメと2000年以上付き合っているので当たり前にあるものだと思っていますが、一度失ったらコメは二度と戻りません。コメの消費量を増やすために、エンターテインメントが必要です。

公益財団法人流通経済研究所
主席研究員
折笠俊輔氏

未来は今から作るもの。50年後、自分や子ども、孫が健康でいるために何を食べたいか。外国産の安いコメを食べたていたいのか、国産のおいしいコメを食べていたいのか考えるべきです。

東京農業大学
客員教授雜賀慶二氏

コメには「本物のコメ」と「偽物のコメ」の2種類があります。元禄時代以前の日本人が食べていた本物のコメ、つまり医食同源米をみなさんが日常的に食べるようになることが理想です。

株式会社メタジェン
取締役CFO 水口佳紀氏

日常的に食べているコメに非常に興味があります。今あえてコメの研究をすることで、コメがどういうメカニズムで腸内環境にどう作用しているのか、調べてみたいと思っています。

株式会社ビオック
代表取締役社長
村井裕一郎氏

食事はおいしくて楽しいもので、作ってくれた人がいて、大切な人と一緒に食べるもの。わたしたちは幸せになるために食べています。美味しいと楽しいが一番大切なことだと思います。


取材・文◉松尾直俊 写真◉増本雅人




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