なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第2弾!
※時刻表は記事最後に掲載
南北に長い長野県。その県庁所在地、長野市は人口およそ37万人。県北部最大の街で、市の北部は日本海に面する新潟県に接している。そして飯田市は人口およそ9万8000人。県南部最大の街で市の南部は太平洋に面する静岡県に接している。今回時刻表で見つけたのは、この2つの街を結ぶ電車だ。
長野駅を早朝6時31分に出発する飯田行は、信越本線(長野→篠ノ井)、篠ノ井線(篠ノ井→塩尻)、中央本線(塩尻→岡谷→辰野)、飯田線(辰野→飯田)を通る普通列車。途中松本市、塩尻市、岡谷市、伊那市、駒ヶ根市と県内の大きな街を通って飯田市へと向かう。
スイッチバックがあり長野盆地の風景が素晴らしい姨捨で5分、進行方向が切り替わる岡谷で21分、飯田線内の駒ヶ根で8分停車する以外は5分以上停車する駅はなく、普通電車としては比較的スムーズに飯田へと向かうのだが、飯田に到着する時刻は11時14分。4時間43分もかかる。新幹線「のぞみ64号」の博多→東京の所要時間が4時間46分。この電車はほぼ同じ時間走るのに、長野県から一歩も出ない。
長野→飯田を乗り換えなしで行くことができる列車はこの1本だけ。逆方向は飯田5時45分発、長野9時58分着の1本のみと、1日1往復しかない。県内の主要な街を結ぶ列車が少ないのは、並行して高速道路が通っているためで、高速バスは1日8往復(うち4往復が現在運休中)、所要時間は長野駅から飯田駅前まで3時間12分と、この列車よりも1時間30分ほど早い。
この列車の走行距離は163.6キロ。4時間43分でこの距離を走るので平均速度は時速34.6キロ。岡谷と駒ヶ根の停車時間が仮に1分だったとしても時速38.5キロ。ディーゼルカーよりも加速力がある電車を使用しているのにこれだけスピードが遅いのは、飯田線を走るからだ。飯田線は駅の数が多い。その上、この電車が走る辰野→飯田の区間は単線となっている。電車は駅に停車するたびにスピードを落とさなければならないので、停まる駅の数が多いほど平均スピードは下がる。また、単線ということは列車の行き違いのために2、3分停車することもある。そのため、駅の数が多くて単線区間の飯田線を走る電車は、この列車を含め、すべての列車のスピードが遅い。この列車の飯田線区間(辰野→飯田)と、それ以外の区間(長野→辰野)を比較してみると、長野→辰野の距離は97.2キロで間にある駅が20駅に対し、辰野→飯田の距離は66.4キロ、間にある駅が33駅と極端に多い。また、長野→辰野の平均時速が40.8キロに対し、飯田線区間の辰野→飯田の平均時速は28.9キロと極端に下がっている。さらに地図をみると、飯田線は天竜川右岸の集落をグネグネと走っている。特に伊那福岡〜伊那大島の区間は蛇行と呼ぶにふさわしい曲がりくねりぶりだ。
なぜこのように駅が多く、曲がりくねった路線になったのか。それは伊那電気鉄道という民間会社が明治末期から大正時代にかけてこの区間の路線を作ったからだ。鉄道を建設するにはお金がかかる。国が作る路線ならある程度お金が使えるが、地元の人たちが出資して作る路線の場合はできるだけ経費を抑えたい。となると渡す距離が長いほど建設費のかかる鉄橋はなるべく短いものにしたい。そこで天竜川支流の川にぶつかり橋を渡さなければならない場合、長い距離の橋を架けるのではなく、一度上流まで行き、川幅が短くなったところに橋を架け、再び下流へ向かうという大回りをすることで建設費を節約したのだ。さらに、なるべく多くの人に列車を利用してもらうためには駅を多く設置しなければならないことから多数の駅を設置。駅もカーブも多い路線となったのだろう。飯田線の建設事情や長野県の広さがたっぷり味わえる残念で面白い列車だ。