なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第14弾!
※時刻表は記事最後に掲載
日本国内を走る鉄道車両の中で、贅沢な設備の一つと言えるのが個室だ。
列車内でもプライベートな空間が確保できる個室車両のある列車は、主に夜行列車や観光地へ向かう特急として走っている。クルーズトレインと呼ばれる乗車するのに数十万円の費用がかかる「ななつ星in九州」「四季島」「トワイライトエクスプレス瑞風」、寝台特急「サンライズ出雲」「サンライズ瀬戸」、伊豆へ向かう「サフィール踊り子」、伊勢へ向かう「しまかぜ」、日光へ向かう「スペーシアX」などなど。どの列車の個室も人気で、チケットを入手するのは困難だ。
今回は、そんな個室車両のある列車を紹介したい。
北陸新幹線が通る長野と、温泉で有名な湯田中を結ぶ長野電鉄には「ゆけむり」と「スノーモンキー」の2種類の特急電車が走っている。「ゆけむり」は以前小田急の「ロマンスカー」として走っていた車両、「スノーモンキー」はJR東日本の「成田エクスプレス」として走っていた車両だ。
昔の「成田エクスプレス」には、ビジネス客の利用を見込んでか、グリーン個室と呼ばれる4人用の個室が設置されていた。そのグリーン個室は「スノーモンキー」にも受け継がれている。
時刻表を見ると「スノーモンキー」は長野~湯田中を1日3往復、長野~信州中野を1日1往復走っていることがわかる。長野~湯田中の所要時間は45分程度、長野~信州中野は35分程度だ。
1時間も満たない乗車時間にもかかわらず、個室のある車両を走らせるというのは贅沢すぎる感じがする。だが、個室使用料は1200円とリーズナブル。4人で使用する場合は特急券と合わせて1600円と、1人あたり乗車券プラス400円で、1人で使用の場合もプラス1300円で個室が利用できる。新幹線の駅から温泉地まで、ちょっとした贅沢を味わいたいという利用者にとってはいい感じの価格設定と言えるだろう。
そんな個室のある「スノーモンキー」を使った残念な列車が、今回紹介する夕方の時間に信州中野を出て長野方面へ向かう列車だ。
18時58分に出発した電車は19時08分に最初の停車駅である小布施に。そして19時14分、終着駅の須坂に到着する。始発駅から終着駅までの所要時間は16分だ。
長野電鉄には長野~湯田中の全線を走り通す特急のほか、長野~信州中野、須坂~湯田中といった区間運転の特急が走るが、これらの特急でも運行時間が30分ほどある。そんな中、この電車だけが16分と極端に短い。しかも、長野電鉄は特急乗車の際、乗車券の他に特急券(100円)が必要だ。
さらに時刻表を読み込むと、終点の須坂から長野への電車の接続がないため、信州中野から長野へ向かう場合、18時58分の特急に乗っても19時12分発の普通列車に乗っても、長野に到着する時間は変わらない。
乗車には特急券が必要なのに、長野まで早く行けるわけではない。運行時間がたったの16分しかないのに個室車両がある。特急車両のポテンシャルをまったく活かせていない感じは、残念な電車と言えるだろう。
なぜこのような残念な電車が運転されているのか。それは須坂に車庫があり、この時間帯、帰宅する人の利用がある程度見込まれるからと思われる。先ほど触れたが、長野電鉄の特急料金は100円。定期券を使う人も特急券だけ買えば乗車できるので、部活帰りなどの学生の利用も期待できる。ならば回送電車として須坂まで人を乗せずに運転するより特急電車として運転した方が、特急料金分の増収が図れる上、前後の電車の混雑が緩和出来る。
こちらの憶測なので、実際どうなのかはわからないが、時刻表から地方の鉄道会社が実践する細かな増収のためのアイデアが読み取れると、嬉しく感じてしまう。
この列車で個室を16分利用する場合も、長野~湯田中の45分ほど利用する場合も料金は同額。そのためか、長野電鉄の指定席予約サイトをみると、この電車の個室はいつも空席となっている。
長野鉄道 スノーモンキー 信州中野18時58分発 須坂行き

本記事は「一個人」2025年7月号に掲載した内容の増補版です。
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