フィリップモリスジャパン(PMJ)は「煙のない社会」を目指し、喫煙の意思を持ち続ける20歳以上の成人喫煙者へ紙巻たばこのより良い代替品としての加熱式たばこデバイス「IQOS(アイコス)」を中核として2014年より取組んできた。この10年間の「煙のない社会」を目指すPMJの理念と改めて向き合い、たばこを多様性の観点から捉え、新しい時代の「煙の出ない」加熱式たばこの可能性を探る。
取材・文◉一個人編集部/写真◉平山訓生
「煙のない社会」を目指した10年
PMJは加熱式たばこデバイスIQOSを名古屋で発売してから10周年を迎えた。それに伴い、本年5月22日より展開した「IQOS Together X」は10月19日にフィナーレを迎え、「IQOS Together X Sensorium Tokyo」が豊洲で開催された。会場には1600人ものキャンペーン参加者が集った。
顧客・投資家・従業員・地域社会などステイクホルダーに対して責任ある行動をとると共に、社会的公正、環境に配慮したCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の観点からPMJのビジョンは明確であった。それは、火を使わず、煙が出ない、有害性成分の少ないたばこによる「煙のない社会」を目指すことであり、同イベントでもそのビジョンから導かれた10年間の歩みを説明した。「たばこをつくる会社が、煙のない社会をつくれるのか」という問いから、「煙のない社会」を実現するために社会を動かしてきた成果でもあった。PMJは1985年に日本市場でたばこビジネスを始めて以来、時代の変容を受け、紙巻たばこから煙を出さない「加熱式たばこ」を開発することを社会的責任として担ったことを実績として発表した。現在、日本国内のたばこ市場の約4割が加熱式たばこ(日本たばこ協会調べ)であり、同カテゴリーの約7割がPMJ製品(ユーロモニター調べ)となっている。
イベントで登壇したフィリップ モリス インターナショナル(PMI)のスモークフリープロダクツカテゴリープレジデント 兼 CCOのステファノ・ヴォルペッティ氏は、全世界で3000万人以上がIQOSを利用した現在、紙巻たばこから加熱式たばこへの切り替えたユーザーへ感謝を表明し、また、国内850万人以上ものIQOSユーザーをとりまく日本市場に対してフィリップ モリス ジャパン合同会社 社長のシェリー・ゴー氏は「日本は世界で初めてIQOSが展開され、煙のない社会の実現を牽引している存在だ」とその先進性を賞賛した。
実際、PMIが発表した2024年9月時点での日本たばこ市場における加熱式たばこ全体のシェアでは、仙台・埼玉・東京・千葉・川崎・横浜・福岡・熊本で50%を超え、名古屋・札幌がそれに続き全国的な普及が着実に進んでいる。この10年間の歩みは、絶え間ない社会との対話と社会全体の害を低減させる「ハーム・リダクション(害を及ぼす行為そのものの阻止ではなく、引き起こされる害の低減を目的とした考え方)」を公衆衛生政策の重要な要素と捉え、紙巻たばこを喫煙し続けることより、科学的根拠に基づき、より良い選択肢=加熱式たばこへの切替えを促すことでユーザーの共感を得たともいえるのではないだろうか。
フィリップ モリス ジャパン合同会社 社長のシェリー・ゴー氏
改正健康増進法施行の現在
PMJは、たばこ製品を取り巻くルールについてどのようなビジョンをもっているのだろうか。公衆衛生の観点から「たばこ製品に対して、厳格でバランスの取れたルールや規制が適用されるべき」と考えている。
では、そのルールと規制は現在、どうなっているのか。簡単におさらいをしよう。2020(令和2)年4月1日、「望まない受動喫煙の防止」を図るため「健康増進法の一部を改正する法律(2018年7月成立、以下「増進法」)」が施行された。増進法施行により受動喫煙を防ぐための取り組みが「マナー」から「ルール」へと変わったのである。具体的には、原則的に多くの人がいる施設や鉄道、飲食店などの施設は、原則屋内禁煙となった。
増進法改正の趣旨は、以下3つの基本的な考え方にある。
❶「望まない受動喫煙」をなくす
❷受動喫煙による健康への影響が大きい子ども、患者などに特に配慮する
❸施設の種類や場所にあった対策を実施します(厚生労働省HP「受動喫煙対策」より)
PMJは、増進法に適った開発・研究・検証・社会的取組みを実践しており、紙巻たばこを喫煙するよりも、より良い選択肢への切替えを促すための規制・税制を支持している。社会全体の害の低減を目指す公衆衛生における官と民の協調は今後も強く求められるであろう。
喫煙には、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、CVD(心血管疾患)など重大な疾患を引き起こすリスクがある。 世界的に喫煙率は低下しているものの、依然として多くの成人が喫煙を続けていることも事実だ。こうした状況に対し、PMIは紙巻たばこよりも喫煙関連疾患を引き起こすリスクが低く、かつ成人喫煙者に満足してもらえる代替品提供を行うことは増進法時代こそ必須になるであろう。
「煙のない社会へ」たばこの歴史的変革期
2014年にPMJが加熱式たばこデバイスIQOSを日本で発売して以来、10周年を迎えたが、煙の出るたばこ——喫煙の歴史は古く、7世紀の古代マヤ文明の人々が始めたといわれている。南米を中心にたばこは喫煙文化(宗教的儀式の一部)として根づき、15世紀にコロンブスらによってアメリカ大陸が発見されてから、たばこはヨーロッパで急速に広がったそうだ。日本に伝来したのは、それから1世紀後の16世紀後半、南蛮貿易によりキリスト教や鉄砲とともに伝わったとされる。煙の出るたばこは以来、400年日本社会のなかで文化として定着し、例えば、刻み葉たばこをキセルに詰めて吸うスタイルが普及していったという。こうした喫煙方法は、歌舞伎や落語、時代劇などでも表現され、煙の出るたばこの文化を事実としてうかがうことができる。私たちが知る「紙巻たばこ」は19世紀に欧米から伝わり、日本では明治時代から普及し、150年の歴史を重ねている(専売制や税制史などのたばこの歴史は、ここでは割愛する)。
しかし、1970年代頃から、たばこが健康を害する相関性のあることが指摘され、80年代には受動喫煙を防ぐための「嫌煙権」という概念が広がり、2003年5月に健康増進法が施行されてから「分煙」が実施され、2020年4月より「原則的に多くの人がいる施設や鉄道、飲食店などの施設は、原則屋内禁煙」となった。
たばこに対する「嫌煙、分煙、禁煙」の公衆衛生上の認識の流れの中でPMJの「煙のない社会」を目指し喫煙の意思を持ち続ける20歳以上の成人喫煙者へ紙巻たばこのより良い代替品としての加熱式たばこデバイス「IQOS(アイコス)」を誕生させている。その製品化の前提として、「喫煙にはリスクがあるため、吸っていない人は吸い始めない、喫煙している人は禁煙する、それが最善の選択」であることを「たばこ製品を取り巻くルール」のなかで明確にしている。その選択は、たばこの未来と成人喫煙者、引いては社会においてますます大切な認識となるだろう。
最後に一個人、たばこ製品の一人ひとりの消費者としての関わりを「多様性(diversity)」の観点から述べるべきだろう。多様性ある社会といわれて久しいが、多様性とは一人ひとりの個性を尊重し、様々な価値観を認め合うことであり、成人喫煙者も喫煙のリスクを理解しながらルールを守り喫煙することは選択の自由である。また成人喫煙者のルールの根拠は、我が国では「幸福追求権(日本国憲法第13条)」にあり、「他者危害排除原則:他者に危害を与えない限りにおいて自己決定できる」という自由権の考え方である。改めてルールを守りながら喫煙する自由は保証されていることも歴史的変革期にこそ確認しておきたい。