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 目黒区の「蟠龍寺(ばんりゅうじ)」の境内にはおしろい地蔵さまが安置されている。こちらは大正12年(1923)の関東大震災で被災し、浅草から「蟠龍寺」に移ってこられた。江戸時代にはおしろいの鉛毒(昔のおしろいには鉛が含まれていた)に悩んだ歌舞伎役者が平癒を祈っておしろいを塗ったとされ、あばたで悩んだ娘さんが願掛けをしてきれいな顔になったともいう。

 一説によると、おしろいを塗って祈願すると美人になれるという。なお、お地蔵さまの横に立てられた説明板には、こうも書かれている。

「いつの世も美しくありたいという願いは変わらないようですが、一番大切なことは、心を常に美しく養い保つことで、美しい心が美人をつくるということ、つまり心美人であるということではないでしょうか」

「高野山奥之院」のお化粧地蔵(実は弘法大師像)

 真言宗の総本山たる高野山の「奥之院」にもお化粧地蔵さまはおられる。
 美しくなることを願って像を化粧する人が絶えないらしく、そのお顔は濃いめのメイクの時もあればナチュラルメイクの時もあり、千変万化している。

 実はこの像、お地蔵さまではない。真言宗の開祖で高野山を開いた弘法大師空海さまの像だ。
 お大師さまに化粧の趣味はなかったと思うが、慈悲深いお大師さまのことだから、苦笑しつつも女性たちの願いに耳を傾けておられることだろう。

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渋谷 申博

しぶや・のぶひろ 1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。
 神道・仏教など日本の宗教史に関わる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地・聖地鉄道などのフィールドワークを続けている。
著書は『図解 はじめての神道と仏教』(ワン・パブリッシング )、『一生に一度は参拝したい全国のお寺めぐり』、『聖地鉄道めぐり』、『秘境神社めぐり』、『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』、『一生に一度は参拝したい全国の神社』、『全国 天皇家ゆかりの神社・お寺めぐり』(G.B.)、『神社に秘められた日本書紀の謎』(宝島社)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 仏教』(日本文芸社)など多数。

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