先祖探しのキーワードは、「上から」と「下から」
「先祖のことを知りたい」という人が、近年増えている。10年ほど前から、家系図作成や先祖探しを専門としている行政書士の丸山学さんのところには、いまや年間80~100件もの依頼があるそうだ。
「皆さん、親が亡くなった後などに、『ご先祖について聞きそびれてしまった、この機会にちゃんと知っておきたい』と思われることが多いようです」。
年を取って、自分のルーツが知りたくなる気持ちはわかるが、意外と30代、40代からの依頼も多いという。親がまだ健在なら、ぜひ今のうちにいろいろ聞いておきたいものだ。
「明治時代までは、戸籍をたどることができます。それより古い先祖の歴史をひもとくことも可能です。時間も手間もかかりますが、その気になればご自身で楽しみながらできますよ」。
丸山さんは、自身のホームページや著書で、具体的な先祖探しの手法を惜しげもなく公開している。自身の先祖も調査して、祖母方については900年前からの家系図を作り上げた。
「先祖探しの最終ゴールは、1000年前である平安期の姓までたどりつくことです。『上から』と『下から』を意識して進めると、どこかで両者が合致する瞬間があります。古い時代から調査するのが、『上から』。名字と家紋を手がかりに『うちは宇多源氏の末裔では』とか、『先祖は藤原鎌足にちがいない』などの仮説を立てる。ロマンがあり、想像力がかき立てられます」。
自身の名字がどのような出自を持つのかを調べておきたい。そのために、数多く出版されている名字辞典を利用する。そこから推理して、自家の謎を解き明かしていくのだ。
一方、「下から」先祖をさかのぼるには、戸籍の取得が欠かせない。現行の戸籍制度ができたのは、明治5年。ただし、その当時の戸籍は現在、申請をしても取得できない。その後に様式が変更された明治19年式の戸籍が、取得できる最も古い戸籍になる。
「役所によっては戦災等で焼失したり、破棄してしまっているケースもありますが、私の経験上、まだかなりの確率で残っています。保存期限(*注)が切れる前に、なるべく早く、できる限り古い戸籍を取得しておきましょう」。
(*注) 現在の法律では、戸籍内の全員が死亡や婚姻でいなくなり、除籍簿に綴られてから150年が経過すると、戸籍を廃棄してもよい規定になっている。
先祖探しはまるで上質のミステリー
明治時代の戸籍が手に入ったら、その先は好奇心と行動力をフルに働かせよう。それ以前の転籍情報が記載されていなければ、江戸時代から同じ本籍地に住んでいた可能性も高い。旧本籍地について調べ、できれば現地に足を運ぶといろいろなことがわかってくる。
「よくこんな古い資料が残っていたと、驚くことも多いですよ。古文書や郷土史を調べたり、同族の人や先祖のお墓を探したり、思いつくことを片っ端からやりましょう。礼を尽くしてお願いすれば、皆さん思っていた以上に協力的です。依頼者のなかには、遠い親戚と出逢って交流している方もいます」。
定年後の趣味として、夫婦で旅行がてら、自家のルーツを解き明かしていくのもおもしろいかもしれない。
「先祖探しには、さながら上質のミステリーを読み進めるようなワクワク感があります。何しろ自分が主人公なのだから、それ以上の楽しみでしょう。ただし、先祖が立派な家系だったとは限らないし、思っていたより貧しい暮らしであったかもしれません。でも、『こんなに苦労して、命をつないでくれたんだ』と知ることで、感謝の気持ちや生きる意欲もわいてきます」。
時代や地域によっては、先祖が歴史上の大事件に遭遇していた可能性もある。そう考えるとドラマチックではないか。今の時代は大変だといっても、先祖が生きていた時代に比べたら、どんなに平和で豊かな世の中だろうか。
「もし期待していたほどの成果がなかったとしても、それぞれが心の中で何かを感じることができたら、先祖探しの意味があるのではないでしょうか」。
先祖探しの3Step
【Step1】自家の戸籍をさかのぼる
明治時代から連綿と続いている戸籍は、公文書という最も信頼できる書類であり、誰でも確実にルーツをたどれるものだ。最新の戸籍から、可能な限り古い年代までさかのぼって自家の戸籍を取得しよう。
【Step2】旧本籍地にアプローチする
取得できた自家の最も古い戸籍の本籍地は、先祖探しの鍵を握る。地名辞典で本籍地の自治体の変遷を確認し、その自治体が製作した郷土史を探し出せば、先祖の暮らしぶりに触れることができる。
【Step3】史料をたどる
重要な史料は、市区町村の図書館、歴史館、文書館、教育委員会などの行政機関が保管している。ときには、当時の庄屋や名主だった家が、現在でも個人所蔵している場合もある。諦めずに探そう。