「もはや霞が関だけで政策を作れる時代は完全に終わった」(駒崎)
向山
私たちは政策起業家――個人でイニシアチブを取っていく人たちを増やそうと思って活動しています。今この政策起業家が注目され始めた背景はなんでしょう?
駒崎
一つに政治や行政の機能不全です。僕の友人にも官僚がたくさんいますが、もうバンバンやめてるんです。夜中の2時3時まで仕事させられて、なのに人員は増やせない。そんな中で官僚が勉強して現場を見て政策を作っていく時間はないんです。そんな労働環境でいい加減な政策を作ってしまう。すると、後で炎上してまた直すのに大変。そういう政治や行政の機能不全はどうしてもあると思います。
また、昔は政策を作る際にここに聞けば大体みんなの声を拾える場所――業界団体や労働組合が機能していて、意見統一が簡単だったんです。しかし、今や労働組合の加入率は低く、みんなの声を代弁する代表者とは言えません。多様性が増して意見統一ができなくなってきている。
さらにはテクノロジーの問題。10年前までスマホで動画は見ていなかったし、AIも自動運転もなかった。新しい技術がどんどん出てくるけれどもルールはそのまま。新しい技術に行政が追いつけないという状況が折り重なっています。技術や今の流れが分かり、課題が複雑化・多様化してることがわかっている民間の人材が「こうすればいいんじゃないですか?」と提案したほうが早いんです。もはや霞が関だけで政策を作れる時代は完全に終わった。民間も含めてオールジャパンで知恵を出して作っていかないともうどんどん衰退していくだけになる時代が来てしまったと思いますね。
向山
霞が関の方々はお忙しいので、みんな志は高いけれども、わざわざ現場に行って課題を確認することができない。かといって課題を誰に聞けばいいかも分からない。だからこそ、課題を整理して持ってきてくれる方がいたら、本当にそれが進んでいく流れができつつありますよね。
「身近なルールに疑問を持ってみると変わっていきますよね」(向山)
向山
政策起業についてここまで話してきましたが、最後に「こういうことからはじめればいいよ」といった事があれば教えてください。
駒崎
まず、違和感が第一歩です。生活の中でこれおかしいなと思うことがあると思います。例えば日々のゴミ出し、ペットの取り扱い、女性が受ける小さな差別とか、いろんな違和感があると思うんです。今までスルーしてきたものを、これってルールが、社会がおかしいんじゃないかなと思い直していただきたい。そして、どのルールを変えれば改善するかを考える。町内会のゴミ出しルールだったら町内会で変えれば済む。あるいは条例なのか、国の法律なのかも知れない。いずれにせよその源があるはずです。それを変えるために動いてもらえたらいいと思うんです。
例えば皆さんお住まいの自治体。市議さんなどの地方議員さんがいますよね。実は彼らが動くことで変わることって結構あるんですよ。僕の妻は地方議員なんですが、よく相談を受けています。ここのトンネルがものすごく暗いとか、ここのカーブが危ないとか。そしたら市役所の土木課に言いに行くんです、すると結構すぐ変わるんです。びっくりされるんですけど、そのために地方議員はいるんですよ。
多くの人たちが我慢してて、変わらないと思っている。でもそうじゃない。言えばちゃんと変わる。その仕組みを日本はまだまだ持っている。なので何かおかしいな、これ解決しないかなと思ったら、お住まいの近くの地方議員に紙一枚にでもまとめて説明をしに行く。これが政策起業家への第一歩です。これができれば結構変わります。変わったらきっと面白いと思いますよ。
向山
私たち日本人は、みんなルールのもとで生きることに小さな時から慣れすぎていて、そこに疑問を呈さないように育ってきていると思うんです。それこそ校則におかしなものがあるとか。身近なルールに疑問を持ってみると変わっていきますよね。
駒崎
我々ちっちゃい頃からルールは与えられたもので、そして守るものですよね。なんだけど、そうじゃないんです。ルール は我々が作るものだし、変えられるもの。人がその時の合理性で作ったんだから、合理性の前提が変われば変えられる。どんなルールでも守るのが正義だっていう風に思っちゃいがちですが、そんなことはないんです。
どんどんルールを変える練習をすればいい。校則だって、家族間のルールだって変えればいい。規則が主人じゃない、我々が主人で規則というのは主人に仕えるものなんだ。そういうメンタリティに変わっていかなきゃいけないと思います。
僕らはそれを次世代のために変えてくんだ。そして次世代は自分たちのためのルールを自由自在に作り替え、人々が最大限幸福になるような、痛みを最小限にできるような、そういった社会運営ができる。そんな社会を僕は目指していきたいなと思います。
向山
まさにそれが一個人と言えば一個人、1人1人が社会に対して何ができるのかを考えて、それが社会になっていく。
駒崎
一個人が幸せな社会が、全体が幸せな社会だと思います。