好評発売中の一個人秋号の記事をちょい出し!
訪れた温泉その数8750湯! 温泉チャンピオン・郡司勇さんが至福の温泉について語る。本誌では温泉ベスト30から、「温泉オタク会社員」永井千晴さんの関東・関西の推し湯ベスト5など。今、行きたくなる温泉にきっと出会える。
至福に至るほんものの名湯とは何か
名湯とは何か。のべ2万1千か所以上の温泉をめぐった私の経験から導き出されるのは、名湯とはずばり〝きわめて新鮮なまま源泉を掛け流している温泉〞である。それをふまえて5つの条件をあげたい。
その一、まず、新鮮ということだ。足元湧出(あしもとゆうしゅつ)温泉という今では普通に使われるようになった言葉があるが、岩肌の底から湧わいている、これがいい。新鮮この上ない。匂いも色も天然のままだ。
その二、野の湯ゆといわれる自然に湧き出す温泉、沢や川沿い、または山の上で自然に湧出していて誰も管理していない源泉。行くまでは時間がかかるが、代えがたい達成感がある。
その三、湯量が豊富な温泉。川のように出ていて、毎分何千リッターで出ているような温泉はそれだけで感動する。どばどば出ている湯に浸かるのは格別だ。
その四、温泉の力というのは、共同湯の数で表せる。日本一なのは別府温泉、160か所から180か所と言われている。次は草津温泉の18か所、長野県の野沢温泉が13か所。地元に根差した共同湯は、温泉地の底力を感じる。
その五、最後に泉質とは関係はないが、私は建築家が仕事で設計をしているので木造三階建ての旅館など、その建築文化も名湯の条件に入ってくる。昔ながらの彫刻などの意匠は素晴らしく文化遺産だ。
私はこの五つの条件が名湯と呼ぶにふさわしい温泉地であると考える。
『一個人』編集部の4つの温泉旅、そこにどんな意義があるのか
今回の一個人編集部は4つの温泉旅を企画した。いくつか取り上げてみると、大分の湯平温泉は点在する共同浴場がじつにいいところだ。自然災害などで今は「銀の湯」だけだが、共同湯情緒を残すために頑張ってもらいたい。武雄温泉は殿様湯、ここは本当に殿様気分になれる。東京駅を設計した辰野金吾による木造建築がすばらしい。嬉野温泉はツルツルぬるぬる温泉の代表格、雲仙温泉は白濁湯で存在感がある。
青森の湯治場旅は酸すヶか湯ゆ、谷や地ち、蔦つた温泉すべてが足元湧出温泉、蔦温泉はいつも浴槽から湯が溢れていて、幸せになれる。今号は足元湧出温泉へよく行っている。南阿蘇の地獄温泉の「すずめの湯」も足元湧出だ。大分の九重温泉郷の秘湯、壁湯温泉もそう。この壁湯温泉は、渓流沿いの洞窟が風呂になっていて、38 ℃くらいでちょうどいいから湯治客はみな一時間くらい入っている。長湯ができる最高の秘湯だ。名湯を語るに尽きないが、読者の皆さんにはぜひ今号を参考に、自分なりの名湯をたずねる旅に出てもらいたい。
文/温泉チャンピオン 郡司勇(ぐんじいさむ)