手間はかかるも自信の逸品「小鰭(コハダ)」への強い思い入れ
銀座・並木通りから入る小さな路地、細くて仄暗い通りに、江戸っ子の舌をうならせる、粋な小鰭をだす寿し屋がある。店先の小さな行燈看板には「小笹寿し」とあり、控え目に輝いている。
小鰭は江戸時代から庶民に親しまれてきたネタ。昔も今も仕込みに手間がかかることで知られる。それだけに、小鰭の仕上がりが店の看板であり、職人の力量を表わすとさえ言われる。店主・寺嶋和平さんも次のように語る。
「江戸時代から続く素材なので私の場合、思い入れは大きいですね。その思い入れが仕事に繋がってくる。職人それぞれの思いが小鰭の個性に繋がり、店の特徴になるんじゃないですかね」
小鰭は出世魚でシンコ、コハダ、ナカズミ、コノシロと大きくなっていく。小笹寿しで扱う小鰭のネタは、九州周辺から季節に応じて北上しながら日本近海の旬を追って仕入れている。
「お客さんはシンコの大きさが良いとか、ナカズミは脂が抜けて良いとか、好みが分かれます。どれもうまいけど、私が個人的に好きなのはコハダかな。大きさも良く、香りも立つんです」
〝たて塩〟と呼ばれる手間のかかる〆方でしっかりと水気を抜いた小鰭は、ふわっと柔らかく仕上がる。シャリは「うちの酢の加減と合う」と選んだ茨城産コシヒカリ。身のしっかりしたネタと、ふんわりと握られたシャリが口の中で心地良い歯ごたえを生む。さらに、この店では小鰭を供する際、2貫目は「おぼろのせ」をだす。車エビでこしらえた甘いおぼろは酸味との相性が抜群で病みつきになる常連も少なくない。美味しさの秘訣は「ひと手間を惜しまないこと」という寺島さん。
「小鰭は自分が一番好きなネタ。手間はかかるけど自信もあります。うちのネタ木札の最右翼に小鰭を掲げているのは一番のお勧めだから。ぜひ食べてもらいたいです」
また、話がSDGsのことに及ぶと他人事ではないと語る。
「お客さんのなかに海洋関係の研究者がいて、よく話題になります。海の資源を守ることにはとても関心がありますね。大切な食料を無駄にしないことなど、できることから始めています」