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高知東生『ありのまま生きる』WEB版【第2回】僕の敵は僕自身?~自助グループが変えてくれた生き方~

著:高知東生 撮影:増本雅人

講演、出版、SNSで依存症への理解を広める発信が話題を呼び、今や俳優業に留まらず、作詞に小説執筆とマルチに活躍する高知東生さん。芸能界の第一線から一度は地の底に落ちた男がいま、ありのままの自分を語る。雑誌『一個人』の大好評連載のWEB増量版第2回!


 僕が「ありのまま生きる」という選択ができたのは自助グループのおかげとしか言いようがありません。

 自助グループには2つの効果があると思っています。1つは「ありのままの自分を受け入れてくれる居場所ができる」ことです。ミーティングでの発言は、どんなにみっともなく、情けなかろうが、また嫉妬深かろうが、誰に意見されることも否定されることもなく黙って聞いて貰えます。最初は感情を分かち合うことを「負け犬の傷のなめ合い」のように感じていたんです。ところが回を重ねていくうちに「弱味をさらけ出せる、正直な分かち合いができる人ほど本当の強さを持っている」ということに気づきました。

 依存症者に限らず、誰だって自分のドロドロとした感情は隠したいものですが、ミーティングでは正直に話すことを促されます。例えば「ライバルが大抜擢された」「好きな人が他の人と付き合った」「同級生の中でも給料が低い」なんてことに本心では悔しい気持ちを持っていたとしても、それを何でもない振りをしてしまう人が多いのではないでしょうか。ところが、自助グループの仲間には何でもない振りをしていてもすぐ気づかれてしまいます。「自分の能力のなさがバレるのではないかと怖くなる」「自分は認められていない気がする」「自分は誰にも愛されないのではないかと不安になる」こんなことを打ち明けることは非常に勇気がいります。

 例えば僕の場合だったら「もう地上波には出られないと思う」とか「俳優友達が応援する気を持ってくれていても、スポンサーや事務所がNGでどうせ出番がない」なんて口にするのはとても惨めな気がして勇気がいりました。ところが、頭の中でモヤモヤしていた感情も、言葉にするとなぜか小さくなっていき「うじうじ言っていても仕方ない、できることをコツコツとやっていこう」という気持ちになるのです。確かに、他人に図星を指されると場合によっては反発に繋がります。しかし、自分で自分の本心に気付き、解決していくことで何より自分が楽になります。自助グループの醍醐味の一つです。不思議なことに、僕自身こうして自暴自棄になりそうな囚われから解放されていくにつれて道が開けてきて、ネットコンテンツのドラマで共演してくれる方々が現われたり、NHKの対談番組に出演させて頂いたり、さらには映画出演も実現しました。焦点を過去や未来ではなく「今」にあてる。「今」応援してくれる人、「今」同じ方向を向いている人と、できることを積み重ねていく。まさしく、自助グループにつながれたからこそ、今の僕があります。

 もう一つは「自分をアップデートできる」ことです。自助グループで用いられる「12ステッププログラム」は依存症からの回復プログラムの一つで、僕なりの解釈でかみ砕いて言えば、「自分の問題点を認め、過去を振り返って認知のゆがみを正し、傷つけた人に埋め合わせをし、新しい仲間にこのやり方を伝えていく」というものです。

 例えば、僕はプログラムを一緒にやっている仲間に「高知さんは、自分のことばかりでなく、もっと他人のために尽くした方が良い」と言われました。その時「俺だって不始末をした後輩のために、頭丸めて一緒に謝ってやったりしたよ」と言い返しました。すると仲間は心底呆れたように「それこそ気持ちよくなったのは高知さんだけですよね」と言われたのです。当時の僕には意味が分かりませんでした。後日、この話が取材に来た記者さん達との間で蒸し返されました。すると全員が微妙な顔をしたんです。「そんな大袈裟なコトされたら、被害を受けた人は怒るに怒れないし、やった方も償いを自分で示せない。『俺の顔に免じて』とやった高知さんだけが役得ですよね」とハッキリ言われ「あぁ、こういうことか」とやっと腑に落ちたのです。自分がカッコいいと思っていた「男の生き様」に囚われ、周囲の人や自分すら息苦しく閉じ込めていたのだと気付かされました。

 もしこれが12ステップをやっていない頃の出来事なら、大喧嘩になっておしまいです。けれども、この頃にはまだ始めたばかりとはいえ「自分がすべて正しいわけでもない。自分の常識は他人の非常識」ということに気づき始めていました。だからこそ、自分の痛いところを突かれても、もがきながらなんとか受け入れることができたのだと思います。俺は良いことをしようとしている時さえ、カッコつけて自分で作り上げた「高知東生像」を演じ、一人酔っていた。今思うと本当に恥ずかしいことばかりしてきました。でも、それもまた僕自身です。過去は過去で精一杯生きてきたのだと受け入れることもできています。

 このように自助グループには「自分の居場所として支えになってくれること」と、「自分を見つめ直し、生き方を変えてくれること」という2つの効果があります。どちらか一つが欠けても僕は生き方を変えていかれなかったと思います。そして今の生活を幸せだとも思えなかったでしょう。

 よく「依存症には回復はあっても完治はない」と言われ、一生自助グループに通う必要があると話すと、「そんなに大変なのか」と驚かれますが、実際は逆です。自助グループに繋がっていた方が楽しいから続けられるのです。そして、今度は自分が助ける側に回っていきます。他者貢献は自尊心も上がるし、自分自身の幸福に繋がりますよね。僕は、誤解や偏見があって自助グループに繋がりきれない人に言いたいんです。「俺には、絶対に裏切られない、心の深いところまで話せる仲間がいるぞ。君にはいるか?」って。あっ、これもカッコつけてる言い方かな?

 でも本当に、依存症との孤独な闘いを続けていないで繋がってきて欲しいです。僕自身、自助グループの魅力をこれからも、自分の役割として、発信していきたいと思っています。「アディクション(依存症)の反対語はコネクション(繋がり)」だと言われています。僕の大好きなフレーズです。

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