島根県は唯一、「神在月(かみありづき)」と呼ばれる聖地。旧暦の10月10日、全国から八百万の神々がこの地に集まってくる。縁結びで知られる出雲大社(いづもおおやしろ)の神聖な空気、宍道湖(しんじこ)の幻想的な風景、国引き神話を伝える稲佐の浜、海と山の恵みの数々…。五感を刺激する素敵な出会いがあって、そこからご縁をつなぎ、幸多き運を拓いていく。さあ、ご縁の国、島根を旅して、幸運への扉を開いてみよう。
出雲大社
●出雲市大社町杵築東195 TEL:0853-53-3100 参拝時間:6:00~19:00
清冽(せいれつ)な「気」に包まれて出雲大社で開運祈願
参道に足を踏み入れた途端、清らかな、それでいて濃密な空気に包まれる。ここ出雲大社は、やはり聖地だと思う。下り参道から祓橋(はらえのはし)を渡り、緑鮮やかな松の参道を歩き、荒垣に囲まれた本殿に近づくにつれて、澄んだ「気」が周囲に満ちて、心身に染み込んでくるようだ。
出雲大社の主祭神である大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)は、さまざまな艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて国造りを行ったが、その国土を天照大御神(あまてらすおおみかみ)に譲ったという、国譲り神話でよく知られている。大国主大神には、ほかの神名の一つに「所造天下大神(あめのしたつくらししおおかみ)」があるが、神代の昔に国土を開拓したことに由来している。
その国造りの最中に、大国主大神は人々に農耕や漁業、医薬の道に至るまで、さまざまな知恵を授けたという。今では〝縁結び〟の神として、知られているが、この〝縁〟は本来、男女のものだけではなく、生きとし生けるものが、手を携えて、豊かに栄えていくための結びつき=ご縁を指す。清らかな出雲大社は、国譲りの代償として大国主大神が望み、造営されたと伝わる。
境内には、大国主大神とスセリヒメ神の二柱が鎮まったとされる由緒を伝える「縁結びの碑」があり、愛をまっとうした、二柱の神様への人々の信仰も篤い。
広大な境内を歩き、本殿と周りの摂社へのお参りを済ませると、気持ちが穏やかにととのう。
すっきりとした気持ちで、参道から神門(しんもん)通りへと出る。道の両側に開運グッズやスイーツなどのお土産や、出雲そばの暖簾がかかる食事処、おしゃれなカフェや雑貨店など、楽しげな店が軒を連ねて、心がワクワクと弾んでくる。好みの店を覗いて、ここでも、さまざまな〝出会い〟を楽しみたい。自分だけのお気に入りの開運グッズを見つければ、パワーを得ることができそうだ。
出雲 恋するもなか
●出雲市大社町杵築南833-3 TEL:0853-25-7663 営業時間:10:00~17:00 定休日:不定休
LOCAL-IZM
⚫︎出雲市大社町杵築南1346-5 出雲大社前駅 駅ナカ TEL:0853-31-4525 営業時間:10:00〜17:00 定休日:不定休
足立美術館で出会う美の賜物
〝縁結び〟とは、男女の縁だけでなく、私たちを取り巻くさまざまなよき縁を結ぶとされている。その一つが〝美しいものたち〟との出会いだ。
足立美術館を初めて訪れる人は、きっと不思議な感動に打たれるはずだ。決して交通の便が良いとはいえない地にありながら、この美術館には年間、60万人もの人々が訪れる。一体、何がそんなに人々を魅了するのだろうか?
敷地内に入ると、最初に出会うのが「歓迎の庭」だ。白砂に柔らかな曲線を描くつややかな緑の苔、すっくと立つ赤松。時折、風が木々を揺らし、小鳥のさえずりが響く。この庭に続いて、美しい庭園の数々が、5万坪にもおよぶ敷地内に次々と展開する。「枯山水庭」や「苔庭」、「池庭」、「白砂青松庭」など自然の山々を借景(しゃっけい)に創造された庭々は、端正な佇まいの中に、溢れるような情熱と美の力を持って、観る者を圧倒してくる。館内から庭園を愛でられるよう工夫されており、「生の額絵」は、長方形の窓枠が額縁の役割を果たし、そこから見る「枯山水庭」は、まるで日本画のようだ。
創設者の足立全康(あだちぜんこう)は貧しい農家に生まれたが天与の商才を発揮し、努力・精進を重ねて、事業で成功をおさめた。1970年、郷土・島根への恩返しと文化発展の一助にという思いで、この美術館を設立した。彼は、庭園の一木一草にいたるまで、自らの審美眼で選び抜き、樹木や花木、石などを配置し、91歳で亡くなるまで全身全霊を傾けた。私たちがまず、美の洗礼を浴びるのが、全康が心血を注いだ「名園の時間」なのだ。
たっぷりと庭園美を楽しんだあとは、余韻に浸りながら「名画の時間」へ。全康が私財を投げ打って手にした、唯一無二の横山大観(よこやまたいかん)コレクションをはじめ、北大路魯山人(きたおおじろさんじん)コレクションや現代日本画に至るまで、見応えたっぷり。ひたすら名画に浸る幸福な時間が続く。
名庭と名画のほかにもう一つ、忘れてはならないのが、開運・吉祥の願いを賭けたくなる、おめでたい金の茶釜だ。「茶室 寿楽庵」では、〝招福・延命に功あり〟とされる純金の茶釜で沸かしたお湯で呈茶(ていちゃ)を行っている。椅子席からは双幅(そうふく)の「生の掛軸」を鑑賞できる。美しいものたちとの贅沢な出会いを喜び、開運を願いつつ、ゆるりと一服したい。
足立美術館
●安来市古川町320 TEL:0854-28-7111 開館時間:9:00~17:30(4〜9月)、9:00~17:00(10〜3月) 休館日:本館は年中無休、新館のみ休館日あり 入館料:大人2,300円
極彩色の鳴き龍に開運を祈る
世界遺産、石見銀山の入り口近くに、大物主命(おおものぬしのみこと)(大国主命)を祀る城上(きがみ)神社がある。二階建てのように見える重層な拝殿の建築様式は非常に美しく、見応えがある。
川のせせらぎが満ちる静かな境内から拝殿に上がると、天井に勇壮な龍の絵が描かれている。社伝によると三瓶山麓の絵師、梶谷円隣斎守休(えんりんさいもりやす)の筆による、極彩色の鳴き龍だという。
天井がややドーム型になった造りで手を叩くと音が反射して、不思議な音色が返ってくる。じっと聴いていると龍が返事をしているような感覚にとらわれる。この神社との出会いもまたご縁の一つ。龍のパワーをいただいて、明日への活力にしたい。
城上神社
社伝によると、永享6(1434)年、大内氏が邇摩郡馬路高山(まじたかやま)から大森町の愛宕(あたご)山へ遷座し、天正5(1577)年、毛利氏が現在地に遷座、造営したという。緑に囲まれた神社は、静寂に包まれて、心癒される
●大田市大森町イ1477
幸運とは偶然もたらされるハピネスであり、開運とは自らの力で切り拓き、幸運の方向へと進んでいくことだと聞く。そして、ご縁は結ぶだけでなく、自分自身と改めて向き合うことで、新しい自分、未来の自分へとつながっていくこともできるという。
〝ご縁の国、島根へ行こう!〟。その気持ちが芽生えた瞬間に、私たちは、未来の自分とつながって、すでに開運の扉を見つけているのかもしれない。
Pickup! 島根のいにしえの歴史とご縁を結ぶ
島根県立古代出雲歴史博物館
出雲大社の東隣にある島根県立古代出雲歴史博物館では、出雲大社や島根県の歴史や文化を深掘りして紹介している。古代の高層神殿をリアルにイメージできる、出雲大社本殿の巨大な宇豆柱(重要文化財)などを展示。巨大神殿だったという古代の出雲大社本殿の10分の1模型は必見。また、世紀の大発見と日本中を驚かせた358本におよぶ、荒神谷遺跡の銅剣(国宝)や、加茂岩倉遺跡の銅鐸39個(国宝)のほか、『ヤマタノオロチ退治』などの神話を題材にした「神話シアター」もおすすめだ。
●出雲市大社町杵築東99-4 TEL:0853-53-8600 開館時間:9:00~18:00(11月~2月は9:00~17:00)※入館時刻は閉館時間の30分前 休館日:毎月第1・3火曜日(祝祭時は翌日) 入館料:大人620円
まだまだある!〝ご縁の国、島根〟で出会う。うるわしき開運スポット
縁結びで知られる島根には数多くの見どころがあるが、なかでも開運スポットとして人気の神社をご紹介。もっと豊かで幸福な明日のために、良き「気」に触れて、良きご縁を得よう。
【良縁祈願・縁結び】 八重垣神社
ヤマタノオロチを退治したスサノオノミコトとイナタヒメがこの地で結ばれたと伝わり、夫婦円満や良縁結びにご利益があるとされる。和紙に硬貨を乗せて池に浮かべて様々な縁を占う、鏡の池の「縁占い」が人気。
●松江市佐草町227
【文武両道・勝運】 物部(もののべ)神社
石見の国の一の宮として、崇敬されてきた。御祭神のウマシマジノミコトは、文武両道や勝運の神様として知られ、スポーツの試合など勝負ごとの前にお参りする人も多い。神様の使いである鶴をかたどった陶器製のつるみくじが愛らしい。
●大田市川合町川合1545
【恋愛成就・良縁】 高津柿本(たかつかきのもと)神社
万葉歌人の柿本人麻呂を祀る柿本神社の本社とされ、津和野城からも参拝ができるよう津和野の方向に向いている。人麻呂は、学問や安産の神様として有名だが、恋の歌を多く残したことから、恋愛成就を願う人も多い。
●益田市高津町上市イ2612-1
【願望成就・失せ物発見】 太皷谷稲成(たいこだにいなり)神社
約1,000本もの朱塗りの鳥居のトンネルを登った先にある。安永2(1773)年、津和野七代藩主、亀井矩貞が城の鎮護と領民の安穏を願って、ここ太皷谷に京都伏見稲荷から斎き祀ったのが始まりといわれる。珍しい「稲成」表記。
●鹿足郡津和野町後田409
【縁結び・学業・開運】 隠岐神社
承久の乱で敗れたのち、海士町に遷った後鳥羽上皇を祀る。隠岐造りといわれる堂々とした銅板葺きの本殿が目を引く。4月14日と10月14日の例祭では、隠岐神社独特の承久楽(じょうきゅうがく)が奉納される。
●隠岐郡海士町海士1784
取材・文◉郡 麻江 撮影◉津久井珠美(③~⑨、城上神社、物部神社)
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