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つつましやかに伝わる郷土料理と食を彩る越前漆器|1500年の歴史をもつ福井の伝統工芸

「御食国(みけつくに)」とよばれる福井県。古来より豊かな食材の宝庫であり朝廷に食料を納めてきたことに由来する。また福井県には食に関わる伝統工芸が多く、特に「越前漆器」は1500年もの歴史を今も受け継いでいる。

漆器の一大産地、福井県へ

越前漆器は日本の外食産業・業務用漆器の80%以上のシェアを誇る。旅館やレストランで、おそらく誰もが一度は手にしていることだろう。
福井県鯖江市河和田地区にある漆器のミュージアム「うるしの里会館」を訪ねた。越前漆器の歴史や作品の展示販売のほか、職人が作業する工房を見ることもできる施設だ。

漆器の製作工程は完全なる分業制によって成り立っている。木地を作る木地師、下塗りと上塗りをする塗り師、加飾を行う蒔絵師・沈金師。分野ごとに培われた高度な職人技術が、見た目の美しさや堅牢さ、安定した量産体制につながっているのだ。

山に囲まれ湿度が高く漆器作りに適した気候をもち、御食国として京都の市場とつながりがあったことも一大産地となった所以である。

ハレの日も日用品も。伝統も革新も。

漆器で作られるものはお椀や膳、重箱、盆、菓子箱など多岐に渡る。
お正月のおせちを詰める重箱、日々のお味噌汁のお椀、日本人の暮らしには昔から身近な存在だ。しかし今は少し形を変えて親しまれているようだ。

1793年創業の老舗の漆工房「漆琳堂」のギャラリーには伝統的な漆器に加えてポップな印象の漆器も並ぶ。

塗師としての技術を継承しながらも、現代的な色合いと食洗機対応という実用性を兼ね備えた「RIN &CO.」シリーズなど様々なプロダクトを提案している。伝統を守るために時代に合わせて挑戦を止めない職人の姿がそこにはあった。

漆器で味わう鯖江市河和田地区の御膳料理

漆器の制作工程や作品を見た後は、実際に漆器でお料理をいただきたい。
福井県内の山間部では冬は雪に閉ざされてしまうため、集落ごと谷ごとに異なる食文化が発展してきたという。
「うるしの里会館」内にある「喫茶 椀椀」では事前予約をすると、立派な御膳と器に盛り付けられた福井の郷土料理が味わえる。

漆器は県内の家庭で使われていたものを譲り受けて修繕し、料理は河和田地区の女性グループが腕を振るう。ここでは地域ぐるみで漆器と郷土の味を広く次の世代へと伝えているのだ。
この日の献立は、里芋や油揚げの煮物、舞茸の天ぷら、ぜんまいの和えもの、焼きさば、麩のからし和え、すこ、山うに、葉寿司、呉汁など、どれも先人の知恵と工夫が凝らされている。

暮らしの中で、集落ごと谷ごとの特性を生かした生活への創意工夫を重ね、つつましやかに受け継がれてきた郷土の味は滋味深く体にスッと染みこんでいく。料理も漆器も、そこに客人とおもてなしをする人があってこそのものだ。
季節を変えてまた訪れたい、いや、帰りたくなる味となった。風土により育まれた食文化を感じながら、心も豊かになる時間を過ごしてみてほしい。

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