なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第9弾!
※時刻表は記事最後に掲載
時刻表を見ると、小田急からJRに乗り入れする特急ふじさん号、JRから京都丹後鉄道に乗り入れする特急はしだて号など、鉄道会社をまたいで運転される列車が結構走っていることがわかる。
鉄道会社をまたいで走る列車は、多くが東京、名古屋、大阪、福岡などの大都市圏で運転されている。住宅地の多いエリアを私鉄やJRの線路を走り、途中から地下鉄の線路に乗り入れ、都市の中心部を行くというパターンで運転される、住宅地と都心部を乗り換えなしで移動できる便利な列車だ。
次に多いのが、新幹線が開業したことで誕生した並行在来線の県境をまたぐ列車だ。並行在来線は、青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道、しなの鉄道、えちごトキめき鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道、ハピラインふくいと、県単位で会社が分割されることが多く、金沢と富山を結ぶ列車などの県境をまたぐ列車が他社との乗り入れ列車となる。
観光地と都心部を乗り換えなしで移動できるのを目的とした乗り入れ列車も結構見ることができる。冒頭に述べた2つの特急は、列車名からわかるように、富士山や天橋立といった観光地まで乗り換えなしで移動できるのがセールスポイントの特急だ。
そのほかにも、ショートカットするために第3セクターの路線に乗り入れる特急南紀や特急スーパーはくとなど、便利な乗り入れ列車は全国で走っているが、今回紹介するのは、そんな乗り換えなしで便利に移動できるにもかかわらず、残念な感じが出ている(※注:個人の感想です)列車だ。
栃木県にある東武鬼怒川線の鬼怒川温泉は、名前の通り鬼怒川温泉の玄関口となる駅。この駅を9時37分に出発する「快速AIZUマウントエクスプレス1号」は、東武鬼怒川線、野岩鉄道、会津鉄道、JR只見線と、4社の鉄道路線を直通して、福島県の会津若松へ向かう。海外からの観光客も多い日光エリアの宿泊先として人気の温泉地と、同じく観光地として人気の会津若松を結ぶ便利な列車だ。
9時37分という時間は鬼怒川温泉で1泊し、宿で朝食をとってから乗り込むのにちょうどいい。浅草を7時30分に出発する東武鉄道の特急リバティきぬ105号もこの列車に接続するので、都内から会津若松へ向かうにも便利だ。
車両は、全席リクライニングできるものを使用。特急券などの特別料金を払うことなく乗車できる列車としては豪勢なものと言える。観光客が利用しやすい時間に走る車内設備のグレードが高い列車なので「AIZUマウントエクスプレス」という列車名をつけるのは当然と言える。が、その列車名の前に「快速」とついているのが、残念な理由なのだ。
この列車を時刻表で見ると、鬼怒川公園、新藤原、龍王峡、川治温泉と停車しながら会津若松へ向かう。会津若松の到着時刻は11時57分で、所要時間は2時間20分。途中の停車駅は30だ。だが、鬼怒川温泉から会津若松までの間にある駅を数えると31。快速なのに1駅しか通過しないのだ。
この列車の前後を走る普通列車と比べてみると、鬼怒川温泉~新藤原の所要時間は東武鬼怒川線の普通列車と変わらず。新藤原~会津高原尾瀬口の野岩鉄道線は、男鹿高原を通過するため普通列車より1分早着。会津高原尾瀬口~西若松~会津若松の会津鉄道とJR只見線の区間は、会津高原尾瀬口を7時07分に出る会津若松行の普通列車より4分遅い。
さらに時刻表を読み進めると、鬼怒川温泉を6時19分に出発する新藤原行きの普通列車に乗車した場合、新藤原、会津高原尾瀬口と普通列車ばかりを乗り継いで会津若松に着くのは8時39分。所要時間2時間20分で、快速と変わらない。
この快速が唯一通過する男鹿高原は駅前にヘリポートしかない駅で、1日の平均乗車人員が1人以下。鉄道ファンの間から「秘境駅」と呼ばれる、列車以外では駅にたどり着くのが大変な場所。そんな駅しか通過しないのに快速を名乗っているのだ。
北海道にもJR釧網本線にほとんどの駅に停車する「快速しれとこ摩周号」が運転されていた。この列車も観光客が利用しやすい時間帯に運行されている列車だが、この春のダイヤ改正で「しれとこ摩周号」と、快速の名前がなくなった。この列車も観光客が利用しやすく、車内設備もいいので「AIZUマウントエクスプレス」という列車名をつけることに異論はない。だが、1駅しか通過せず、前を走る普通列車と所要時間が変わらないのに「快速」を名乗る姿勢に私は残念さを覚える。
怒川温泉駅9時37分発 快速AIZUマウントエクスプレス1号
本記事は「一個人」2024年9月号に掲載した内容の増補版です。情報は発行時のものです。