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2022/01/27

仏滅・大安…順番のルールとは? 意外と知らない「暦(カレンダー)」の基礎知識

今年の干支は「寅年」ではない? お盆は本来7月だった

新谷 尚紀

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昔ながらのカレンダーには、日付や曜日が記されているほか、季節感溢れるさまざまな情報が盛り込まれている。それは、古代中国に由来する暦(こよみ)の歴史とも深い関わりがある。伝統行事との関係など、暮らしに深く関わっている「旧暦」のしくみについて、國學院大學文学部教授の新谷尚紀さんに伺った。

「壬申の乱」「戊辰戦争」「甲子園球場」も干支から名付けられた

 年の瀬に家中のカレンダーを掛け替え、新しい年に思いを馳せる。毎年のことながら、浮き浮きと心弾む習慣ではないだろうか。

「カレンダーの種類によっては、和風月名、干支、二十四節気、行事や、その日が大安か仏滅かなど、実に多くのことが書かれていますね。それぞれの意味を知って、お日柄を気にしたり、季節に親しんだりするのは、案外楽しいもの。忙しい現代の暮らしの中に、心のゆとりが生まれてきます」と、國學院大學文学部教授の新谷尚紀さんは語る。

 確かにどの言葉も、今まで何かと耳にすることはあっても、その意味について深く考えたことはあまりなかったりする。

「農業や漁業が生活の中心だったかつての日本は、春夏秋冬の移り変わりと日々の暮らしが深く関わっていました。それが『和風月名』と呼ばれる独自の呼び方を生み出したのだと思います。季節の変化を愛でる先祖伝来の感覚は、今の日本人にも受け継がれているのではないでしょうか」

 豊かな自然観から生まれた「和風月名」。「きさらぎ」「やよい」などは、古くは『日本書紀』にも見られる。ただし、日常の会話ではなく、主に文学的な表現として好まれたという。
 中国から伝わった「十干十二支」は、歴史上の出来事などで目にする。「壬申(じんしん)の乱」や「戊辰(ぼしん)戦争」は、それが起きた年の干支から名付けられたのだ。また、兵庫県の「阪神甲子園球場」も、甲子の年に完成したことが名前の由来。

「今は、『今年の干支は寅年だ』というように言われますが、本当はおかしい。干支とは、『十干十二支』のことなので、60年でひと回りします。61歳になると、自分の生まれた年の暦の干支に還るから『還暦』と呼ばれるんですね。生まれた年の干支に関して、『丙午(ひのえうま)の女性は気性が荒い』と言ったりもしますが、あれは単なる迷信。みんなが面白がるからでしょうか、江戸時代の後期に流行ったのですが、現代の血液型占いのようなものです」

 もともと「十干」とは、十進法の数え方。1カ月を上旬・中旬・下旬と10日ごとに分け、それぞれ1日目から甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)と数えていた。一方「十二支」は、太陽系の5つの惑星の中で最も重要とされる木星の運行を12に区分したことが始まり。それが、12カ月の月の呼び名として使用されるようになり、覚えやすいように各月に多少ゆかりのある動物の名前が付けられた。その後、月だけではなく年や日、時刻や方位など、時代とともにさまざまな用途に使われるようになったのだ。

「時代小説に『草木も眠る丑三つ時』という言葉が出てくるでしょう。丑の刻は、午前1時から3時、三つ時はそれを4等分した3つ目の時間なので、丑三つ時は2時から2時半ごろになります」

 正午や午前、午後という言い方も、十二支が由来だ。午前は午(うま)の刻の前、午後は後を意味する。

結婚式は大安に、葬式は友引を避ける…実は意味がない?

「ほかに、カレンダーによく記されているのが『六曜』です。結婚式を大安の日に行ったり、葬式は友引を避けたりするなど、気にする人は多いですね。でも、本当はあまり意味がない(笑)」

 室町時代に中国から伝わり、江戸時代の末から庶民の間で広まったとされる「六曜」だが、旧暦では現在の七曜(日月火水木金土)と同じように使われ、特に関心を持つ人もいなかった。

「明治時代に入って新暦が採用されると、旧暦に基づくその順番が不規則になり、それが複雑でミステリアスなものに感じられたのでしょう。いつの間にか吉凶判断の意味も付加されました」

 単に日にちを区別するための符号だった六曜だが、明治時代に入って広く使われるようになり、いつの間にか吉凶の意味が付加された。29~30日おきに順番が変わる仕組みは旧暦の月始めに特定の「六曜」の配置が予め決められているためだ。
  • 先勝(せんかち・せんしょう・さきかち)●「先んずればすなわち勝つ」の意。万事急ぐほど吉。午前中は吉。旧暦1月1日と7月1日に配される。
  • 友引(ともびき・ゆういん)●「凶事に友を引く」の意。葬式などは避ける。朝晩は吉、正午は凶。旧暦2月1日と8月1日に配される。
  • 先負(せんまけ・せんぷ・さきまけ)●「先んずればすなわち負ける」の意。急用は避けるべき。午後は吉。旧暦3月1日と9月1日に配される。
  • 仏滅(ぶつめつ)●「仏も滅する」の意。何事もうまくいかない凶日。祝い事は避ける。旧暦4月1日と10月1日に配される。
  • 大安(たいあん・だいあん)●「大いに安し」の意。何事も成功する最高の吉日。結婚式には最適。旧暦5月1日と11月1日に配される。
  • 赤口(しゃっこう・せきぐち・しゃっく)●午の刻のみ吉。朝夕に行う祝い事は凶。特に刃物を扱う人は要注意。旧暦6月1日と12月1日に配される。
 旧暦と新暦の違いについても知っておきたい。現在私たちが使用しているのは新暦で、太陽の運行をもとにしたグレゴリオ暦だ。1582年、ローマ教皇グレゴリウス13世が採用し、今では世界共通の暦だが、原則として1年が365日に定められている。太陽の1回帰年を365.2425日と計算し、約3000年に1日の誤差が出るだけの精密な暦だ。日本では西洋暦とも呼ばれ、1873年(明治6)から採用されている。

「それまでの太陰太陽暦では、月が地球を1周する約29.5日は1年で約354日となり、太陽が一周する365日とは11日のズレが生じていました。放置しておくと暦と季節がどんどんずれてしまう。それを修正するために、19年に7回ほど、1年が13カ月ある閏(うるう)年を設けて調整していたのです。ただし、農作業などでは季節を正確に知る必要があり、太陽の一周を基準とする『二十四節気』とセットになって、広く一般に浸透していました」

日本の旧暦(太陰太陽暦)は天体の動きが基準

地球は自転しながら、太陽の回りを約1年かけて公転しているが、自転の地軸は、公転面に対して23.4度傾いている。そのため、太陽の光が地球に差す角度が変化することによって季節が生まれる。
旧暦では、新月の日を1日(朔月)とし、29日もしくは30日周期で1カ月としていた。

旧暦に基づく年中行事は季節感にズレが生じる

 旧暦の起源は、古代中国。飛鳥時代、日本に伝わった最初の暦は元嘉(げんか)暦だった。その後、平安時代の862年(貞観4)に採用された宣明(せんみょう)暦は800年以上も使われた。

「宣明暦は誤差が大きく、日食や月食がずれてしまうなど問題もありました。しかし、暦を変える権限があるのは天皇だけでしたから、長らく使われ続けました。江戸時代になると幕府が強大な権力を持ち、暦を制定する権限も幕府天文方に移ります」

 1685年(貞享2)、渋川春海(しぶかわはるみ)が元(げん)の授時(じゅじ)暦を改良して完成させた貞享暦が、ようやく採用された。そのあらましは、映画化もされた冲方丁の小説『天地明察』でご存じの方も多いだろう。幼い頃から算学と囲碁の天才と呼ばれた渋川春海は徳川家の碁所に勤め、宣明暦の不備を主張し、改暦の必要性を説くようになる。やがて大和暦という日本独自の暦を考案、これが貞享暦として採用された。
 その後3回の改暦を経て、幕末から明治にかけて使われていたのは天保暦だ。一般に「旧暦」と言う場合、この天保暦を指す。
渋川春海著「貞享暦」
 日本の伝統的な年中行事は、旧暦に基づいて行われてきた。これをそのまま新暦の同じ日付に行うと、季節感が合わなくなることも多い。そのため、現在では行事を1カ月遅らせて行うこともあり、これを「月遅れ」と言う。

「本来お盆は、7月15日前後ですが、現在ほとんどの地域で8月に行われています。7月では仕事も休みにくいせいか、定着しませんでしたね。七夕も、仙台などでは梅雨の真っただ中の7月7日ではなく、月遅れの8月7日に行われますね。雨がめったに降らない時期だからこそ、降っても〝清めの雨〟と言われ、縁起がよいとされたのですが…」

 暦の基本は、大いなる天体の動きと自然現象だ。季節感が失われがちないまこそ、自然に感謝して季節とともに生きた昔の人々の知恵を見直してみるのもよいだろう。

一個人増刊『日本人のしきたり入門』より
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新谷 尚紀

しんたに・たかのり
國學院大學大学院客員教授。
1948年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部史学科卒業。
同大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得。
社会学博士(慶應義塾大学)。
現在、国立歴史民俗博物館名誉教授、國學院大學大学院客員教授。
著書に『伊勢神宮と出雲大社』(講談社学術新書)、『神道入門』(ちくま新書)など多数。

しんたに・たかのり
國學院大學大学院客員教授。
1948年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部史学科卒業。
同大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得。
社会学博士(慶應義塾大学)。
現在、国立歴史民俗博物館名誉教授、國學院大學大学院客員教授。
著書に『伊勢神宮と出雲大社』(講談社学術新書)、『神道入門』(ちくま新書)など多数。

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