■国内外の猫好き作家たち
猫は、多くの人間を虜にしてきた。そのかわいらしい姿を見ると、自然と笑みがこぼれてしまう。それゆえ猫は一般人だけでなく、多くの文豪や芸術家たちに愛されてきた。
谷崎潤一郎もそのひとりで、とりわけ洋猫が好きだったと伝えられている。猫を溺愛する男と、それを取り巻く女性たちの姿を描いた小説『猫と庄造と二人のおんな』では、猫の小悪魔っぷりが見事に描写されている。猫と暮らし、猫に惚れていた谷崎だからこそ、その魅力を存分に引き出せたのだろう。
歴史小説などで名を残す大佛次郎も、類を見ないほどの愛猫家として知られている。「猫は一生の伴侶」といい、生涯を共にした猫の数は約500匹とも言われるほど。猫グッズや浮世絵なども収集していて、その全貌は『大佛次郎と猫』(監/大佛次郎記念館)でも紹介されている。
ほかにも、中島らも、町田康、角田光代、村山由佳など、現代の作家たちにも愛猫家が多い。また、国内だけではなく、もちろん海外にも猫好きの作家は多い。
アメリカの絵本作家、エドワード・ゴーリーは、人に対してはそれほど興味を抱かないが、猫への愛情は尋常ではなかったという。氏の作品は殺人事件をテーマにするほど、その内容は絵本とは思えない禍々しいものもあるが、決して猫が不幸になるような描写はなかったことからも、猫を愛していた様子が伝わってくる。
ノーベル文学賞を受賞したヘミングウェイも、猫好きとして有名だ。6本指の多指症の猫を「幸福を呼ぶ」としてかわいがったという。これが由来となり多指症の猫を「ヘミングウェイ・キャット」と呼ぶこともある。
なぜ猫好きの作家が多いのか。それを定義することは難しいが、自由奔放な姿がインスピレーションを与えてくれる、不規則な生活でもお互いのペースで暮らしやすい、といった理由が考えられそうだ。
時には、「猫が原稿を破いた(データを消去した)」などといって、締め切りに遅れた言い訳に使っていたこともあるかもしれないが、猫はそんなことはつゆ知らず、これからも作家たちに愛されていくだろう。
※養老孟司さんも無類の猫好きとして知られる。その猫愛はこちらから。