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マイナールートで北欧からドイツへ~思い出のヨーロッパ鉄道紀行~|マルメ中央駅からバルト海を横断してベルリン東駅へ

スウェーデンでは珍しいドイツの客車へ

マルメ中央駅に停車中の列車

 北欧とドイツを結ぶ鉄道ルートは、先頃休止となった「渡り鳥コース」および、ハンブルクから北上し、ユトランド(ユーラン)半島、オーデンセ、ストアベルト海峡横断ルートが有名である。しかし、スウェーデンの南端の都市マルメからバルト海を横断してドイツ東部のザスニッツに上陸し、ベルリン方面に至るルートがあったことは意外に知られていない。
 2019年夏のヨーロッパ鉄道時刻表を見ると、夜行の1往復が夏季の特定日限定で運行されているが、昼行列車はなくなっている。私は、2000年夏に、マルメをお昼ごろ発車する列車に乗ったことがあるので、その時の旅をご紹介しよう。

スウェーデンの電気機関車

 シックなレンガ造りのマルメ中央駅。その片隅の1番線に、スウェーデンでは珍しいドイツの客車が停車中だった。ドイツでは、特急に相当するインターシティよりはワンランク下の急行に該当するインターレギオという列車種別の客車である。上半分が青、下半分が白で、その境に薄い青帯が入っている車両だ。僅か2両編成で、先頭にはスウェーデン鉄道(SJ)お馴染みのRC6というタイプの電気機関車が連結されていた。

 このような短い編成でも、Kurt Tucholsky (クルト・トゥホルスキー)という愛称が付いている。ベルリン生まれのユダヤ系風刺作家で、ナチスを批判したためスウェーデンに移り住み、その地で亡くなったという。スウェーデンとドイツを結ぶ国際列車にふさわしい命名といえるだろう。

列車の行き先表示板。ドイツ発のものが表示されていた

 12時02分、定時にマルメ中央駅を発車。首都ストックホルム方面へ向かう幹線と分れ、右へ大きくカーブ。進路を南に定めると、マルメの市街地を抜け、のどかな田園風景の中を坦々と走っていく。

トレレボリ駅のホーム

スウェーデン最南端付近で客車はフェリーの中へ…

 急行列車なので、小さな駅はすべて通過。20分少々でスウェーデン最南端付近に位置する港町トレレボリ (Trelleborg)に到着する。列車は行き止まりのホームに停車したようだ。左脇の線路は前方に停泊しているフェリーへとつながっているが、列車の線路はつながっていないので、直接フェリーの中には行けそうもない。
 しばらく停車しているうちに、フェリーの中からディーゼル機関車が引っ張る貨物列車が出てきた。

フェリーから出てきたディーゼル機関車

 貨物列車が上陸してしばらくすると、やっとのことで客車が動き出した。後部に入換用の機関車が連結されたようで、マルメから牽引してきた電気機関車を置き去りにしてバックしはじめる。かなり後進して駅のはずれまで到達すると、今度は向きを変え、線路を切り替えてフェリーに向けて進みだした。ゆっくりとではあるけれど、確実に前進し、ついにフェリーの中へと入りこんだ。船内は薄暗いけれど、客車のまわりには自動車がぎっしりと駐車していた。

 列車は停車すると、固定され、車外へ出ることが許される。これから4時間ほどの長旅になるので、船内のカフェやレストランで飲食し、デッキからバルト海を眺めたりるほうが気晴らしになってよさそうだ。ほとんどの乗客は貴重品を身に付けて客車を後にする。

トレレボリ港を出帆

 M/S Trelleborg という名前のフェリーは巨大なビルみたいで、案内板によると、列車が留置されているのは3階に位置する。カフェやレストランは7階なのでエレベータで移動する。とりあえず、デッキに出て、フェリーがトレレボリ港を後にする様子を眺める。13時の予定を少々遅れて出発。ゆっくりと沖に向かう。トレレボリの街並みが次第に遠ざかり、やがて見えなくなった。

 夏なのにバルト海の潮風は肌寒い。早々に船内に戻って遅いランチを摂り、のんびりとくつろぐ。ドイツ北岸の港町ザスニッツまでは4時間もかかるのだ。食後は、到着後のドイツでの行程をガイドブックを調べながら考えたり、ときにはデッキで海を眺めたりして過ごす。船での時間はゆったりと流れていく。
 夕方、5時近くになると、水平線の彼方にドイツの地が見えてきた。やっとのことで、ザスニッツ港に到着。客車に戻ると、ゆっくりと船外に引き出され、久しぶりに大地を踏みしめることができた。

ドイツの入換機が活躍するザスニッツ港駅

 ザスニッツ連絡船港駅(Sassnitz Faehrhafen)は真新しい近代的な駅だった。DB(ドイツ鉄道)のロゴをつけた入換用のディーゼル機関車が忙しそうに動き回っているのを目にすると、北欧からドイツにやってきたんだと実感できた。

ビストロカフェ車内

 17時17分発車。ザスニッツは、実はリューゲン島にあるのでドイツ本土ではない。かなり大きな島なので1時間近く走り、鉄橋で海峡を渡ると、ようやくドイツ本土のシュトラルズント(Stralsund)に到着する。
 ここで、何両もの客車が増結される。軽食堂のビストロ車もつながり、ようやくインターレギオにふさわしい編成となった。ここからは、2時間に1本運転されるインターレギオのひとつとなり、幹線を走る優等列車の仲間入りである。
 それまでとは違って、かなりのスピードで走る。しかし、天候がそれほどよくなかったせいか、まわりは早くも薄暗くなり、車窓が楽しめなくなってきた。そこでビストロ車に向かい、ビールを飲みながら寛いだ。

ベルリン東駅構内。インターシティホテルの表示が見える

 ザスニッツ発車後、3時間近く乗車して、21時09分にベルリン東駅に到着。この列車はベルリンが終点ではなく、さらに走ってライプツィヒへ向かう。ホームで列車を見送って、駅に隣接したホテルにたどり着き、部屋に入り込むと、たまっていた疲れのせいか、あっという間に眠り込んでしまった。

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野田 隆

のだ・たかし 1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

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