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特急「かもめ」と西九州新幹線「かもめ」|9月23日デビューの新幹線がお披露目

「白いかもめ」の旅も今回が最後?

博多駅に入線する「白いかもめ」

博多駅から久しぶりに長崎行き特急「かもめ」に乗車した。車両は「白いかもめ」と呼ばれるスマートなものだ。デビューしたのは2000年3月だったから、はや20年以上が経過したことになる。いつでも乗れるという安心感があったのだが、実は、風光明媚な有明海に沿って走るのは2022年9月22日までになる。西九州新幹線が9月23日に開業するためだ。したがって、慣れ親しんだ「かもめ」に乗るのは、今回が最後になるかもしれない。車窓をしっかりと目に焼き付けておこうと思う。

「かもめ」車内のギャラリー

車内に入ると、客室にたどりつくまでに通るデッキの雰囲気にいつものことながら惹かれる。壁面がギャラリーになっていて、墨書がずらりと並んでいるのだ。「長崎」「南蛮」「おくんち」など長崎の文化の香りを早くも感じることができる。

博多を発車すると、しばらくは鹿児島本線を走る。熊本や鹿児島方面へ向かう優等列車は九州新幹線に移ってしまったので、鹿児島本線を行きかう優等列車は長崎や佐世保方面へ向かう特急がメインとなっている。

鳥栖駅前のスタジアム

博多を出て20分ほどで最初の停車駅鳥栖に着く。左手には巨大なサッカースタジアムが建っている。鹿児島本線と長崎本線の分岐駅なので、往時は大きな機関区があってSLが多数たむろしていた場所だ。まさかスタジアムに変わるとは、昔の人は予想もしなかったことだろう。ホームのみが国鉄時代を偲ばせるレトロな造りだ。

いよいよ長崎本線へ

新鳥栖駅到着前に見える九州新幹線の高架橋

発車すると、鹿児島本線を跨いで、右にカーブしていく。いよいよ長崎本線の旅が始まるのだ。と思う間もなく、列車は減速して停車する。立派な九州新幹線の高架下にある新鳥栖駅で、2011年3月に開業した。熊本方面からやってきた人は、この駅で乗り換えて佐賀や長崎方面に向かうことになる。発車すると、ようやく特急列車らしいスピードとなり、佐賀平野が猛烈な勢いで後ろへ飛んでいく。右手には吉野ケ里遺跡が垣間見える。やがて、市街地に入り、高架になると佐賀駅だ。

佐賀平野を快走

佐賀駅を出ると、再び平野の中を行く。貨物列車が停まっている鍋島駅、バルーンフェスタの時だけ営業するバルーン佐賀駅を通過、嘉瀬川を渡り、久保田駅で唐津線と分れ、しばらく進むと肥前山口駅に停車する。かつて、長崎・佐世保行きのブルートレインや優等列車は、この駅で車両を切り離していたので、長距離列車の愛用者にはよく知られた駅だった。もはや、この駅で分割併合を行う優等列車はなく、ホームはひっそりとしている。ちなみに、西九州新幹線開業にあわせて、この駅は江北駅と改名予定である。

単線となって有明海に沿って走る

ここまで複線電化区間で、列車はスムーズに走ってきたが、これより単線区間となる。かつては佐世保方面がメインルートだったこともあって、長崎本線は大きく左にカーブして佐世保線と分れる。肥前山口からしばらくの間は、肥前白石、肥前竜王、肥前鹿島、肥前浜、肥前七浦、肥前飯田と肥前が頭に付く駅が連続する。大いに紛らわしいけれど、「かもめ」が停車するのは肥前鹿島だけである。肥前浜は観光列車「36ぷらす3」に乗車したときに50分ほど停車し、街歩きツアーなどを楽しんだことを思い出すけれど、「かもめ」は猛スピードで通過してしまう。

車窓から見える有明海

このあと、列車は有明海に沿って走る。カーブが連続し、スピードはダウン、午後の太陽が車窓から降り注ぐかと思えば、日陰に入るというように目まぐるしく変化する。遠浅の有明海は、浜辺がぬかるんだようなちょっと不思議な海岸線だ。小長井あたりからは、有明海の向こう側に雲仙普賢岳が見える。車窓の見ごたえはあるけれど、長崎への道のりは遅々として進まず遠く感じる。ルートは大幅に変わるけれど、佐世保線の武雄温泉駅からショートカットで長崎を目指す西九州新幹線の威力は絶大だ。博多からの直通列車ではなく、武雄温泉駅での乗り換え必須だけれど、現行の「かもめ」より30分短縮されて、博多から長崎まで1時間20分で行けるようになる。

諫早駅に到着

列車は、博多から1時間40分ほどで諫早駅に到着した。この日は、ここで下車し、長崎に向かう列車を見送った。諫早駅は西九州新幹線開業を控え、真新しい駅となっていた。

西九州新幹線開業を待つ諫早駅

西九州新幹線の「かもめ」車両を見学

駅近くのホテルに宿泊し、翌朝、諫早駅前から送迎バスで大村車両基地へ向かう。西九州新幹線唯一の車両基地で、この日がお披露目だった。基地には沿線自治体の首長や地元の国会議員が多数詰めかけていた。それだけ、新幹線にかける期待は強いのであろう。

西九州新幹線「かもめ」

車両基地とともに公開されたのが、西九州新幹線を走る「かもめ」だ。東海道・山陽新幹線の最新型車両であるN700Sを基本としているけれど、水戸岡鋭治氏がデザインすると別の車両のように変身する。白が主体なのは、現行の「かもめ」と同じだが、裾に赤いストライプが入っていてひときわ目立つ。JR九州の青柳社長が毛筆で書いた「かもめ」の字が車体に掲出されていてアクセントとなっている。

車内は、指定席車両が通路を挟んで4人掛け、自由席車両は、通常の新幹線同様3人掛けと2人掛けシートがずらりと並ぶ。クリーム色や黄色のシートは南国九州の陽光のように明るい。車内見学だけで、まだ走ることはできないけれど、9月23日以降になれば乗車できる。

西九州新幹線「かもめ」指定席車両の車内

在来線の「かもめ」から新幹線「かもめ」へ。乗り慣れた「かもめ」は佐世保線の武雄温泉駅までの「リレー列車」に変身し、長崎駅までは行かなくなるけれど、西九州新幹線の「かもめ」で長崎へ向かうのは楽しみだ。鉄道旅行は、どんどん進化していく。

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野田 隆

のだ・たかし 1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。

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