新年は明けたばかりだが、受験生にとってはここからが本番。
受験生の神頼みといえば天神さま(菅原道真公)が思い浮かぶが、学問にご利益があるのは天神さまだけではない。今回は「やるだけのことはやった…あとは最後の神頼み…」という方に向けて、霊験あらたかとして信仰を集めている寺社をご紹介したい。
頼りになる学問の神仏を知る
日本初の学問の人神さま
菅原道真公より先に学問の神として崇められたのが、第15代応神天皇の皇子・菟道稚郎命(うじのわきいらつこのみこと)である。
菟道稚郎命は百済より来日した学者・王仁(わに)を師として学びあらゆる典籍に通じたとされる賢者。応神天皇から皇位継承者として選ばれていたが、兄宮(のちの仁徳天皇)に位を譲るために自ら命を絶ったという清廉な人物でもある。
菟道稚郎命が活躍されたのは3世紀末から4世紀初めにかけてなので、日本初の学問の人神さま(神として祀られるようになった人のこと)といえるだろう。
この菟道稚郎命をお祀りしているのが、京都府宇治市の「宇治神社」だ。鎮座地の宇治川の右岸(平等院の対岸)は古くから聖地とされてきた場所で、「宇治神社」はその中心的な存在となっている。
閻魔大王の代わりを務めた学者
小野篁(おののたかむら)と聞いてぴんとこられた方は、かなりの伝奇小説好きだろう。小野篁は平安初期の公家で学者であるが、夜は冥界に行って閻魔大王に代わって亡者を裁いていたとか、知り合いの貴族を百鬼夜行(妖怪の群れの行列)に遭遇させたといった奇妙なエピソードがいくつもあり、古くから伝奇物語の登場人物とされてきた。
そのようなエピソードが生まれたのも、小野篁が学者として並外れてすぐれていたからで、ここから 小野篁を祀る神社は学業成就・受験合格のご利益があるとされてきた。
東京都台東区の「小野照崎神社」もその1社であるが、江戸後期には菅原道真公も合祀され、まさに学問の神の聖地となっている。当社のご利益で無名の役者が国民的映画の主役に抜擢されたともいわれ、その霊験は学問に限らず文芸や芸能にも及ぶとされている。
「落ちない」ご利益を授かる
いっぽう、おそらく日本一ユニークな受験生の守り神といえるのが上野大仏だ。
上野大仏は最初の像が寛永8年(1631)に漆喰で造られたが、地震で倒壊。その後、万治年間(1658~61)に木食浄雲が青銅で再建した。
ところが、関東大震災(1923年)で首が落ち、その後、胴体は金属供出(戦争遂行のため国民に金属の供出を求めた国の政策)によって徴用され、顔だけが残されることになってしまった。現在は大仏殿の跡地に顔のみがコンクリートで固められて安置されている。
いつの頃からか、この姿から「これ以上落ちない=合格する」ご利益があると受験生に信仰されるようになった。今では各種合格守りも授与している。
天界の賢神が「晴れ」を呼ぶ
人神ではなく、日本古来の知恵(学問)の神さまといえば、八意思兼命(やごころおもいかねのみこと、思兼命とも)である。
八意思兼命は天照大神の天の岩屋隠れなど、神々の世界で事件・大問題が起こった時に、知恵を絞って対策をたてた天界の賢神で、知恵や知識を象徴する神さまである。
この八意思兼命を祀るのが、「高円寺氷川神社」(杉並区)の境内に鎮座する気象神社だ。
c_神の知恵を象徴する八意思兼命を祀る高円寺氷川神社の気象神社
八意思兼命は気象現象もコントロールされることから気象(天気予報)の神さまとして祀られているのだが、もちろん学問・知恵の神さまとしても霊験あらたかだ。
オリジナルの晴守りやてるてる守りは、「晴れて合格」のご利益をもたらしてくれるはずだ。
合格祈願は学問の神さまが専門というわけではない。
たとえば、「足利織姫神社」(栃木県足利市)などもご利益が期待できる。社名からもわかるように「足利織姫神社」は織物の神さまを祀る神社であるが、縁結びのご神徳で有名になっている。しかも、結んでくれるご縁は、恋人や結婚相手だけではない。志望校・希望進路との縁もとりもってくれるのだ。
人間同様、学問や仕事も縁がなければうまくいかないものだ。そこで縁結びの神さまにお願いをして、志望校・志望職種との良縁をもたらしていただくのである。
三人寄れば…?「文殊の智慧」で難関突破を叶える
仏教で智慧の仏さまといえば文殊菩薩(もんじゅぼさつ)。
童子の姿で表されることもあるので本当に頼りになるのかなと思われるかもしれないが、観音や地蔵など数ある菩薩の中でも指導的立場にある菩薩で、お釈迦さまに代わって説教をすることもある仏さまだ。
日本でも古くから信仰されており、「三人寄れば文殊の智慧」といったことわざもある。
文殊菩薩像を安置する寺院は各地にあるが、その中でも古来有名なのが『安倍文殊院(奈良県桜井市)』・『智恩寺(切戸文殊、京都府宮津市)』・『大聖寺(亀岡文殊、山形県東置賜郡)』の日本三文殊である。
「安倍文殊院」は孝徳天皇の勅願により大化元年(645)に創建された古刹で、三文殊の中でも一番霊場とされている。本尊の文殊渡海像(五尊像)は快慶の作で、日本最大の文殊像でもあり、国宝に指定されている。これ以上はないといってよいくらい頼りになる文殊さまといえよう。
「智恩寺」は日本三景の一つ、天橋立のほとりに建っている。平城天皇の「勅願寺」として大同3年(808)に創建された。雪舟の名作「天橋立図」(国宝)にも描かれている。
伝説によると、かつてこの地には龍がいて神も人も住めない場所であったため、神々は中国の五台山より文殊菩薩を招いて龍を教化してもらったのだという。その時、文殊菩薩が手にしていた如意(にょい)が海に置かれて天橋立となったのだされる。
まさに文殊菩薩の究極の聖地といえよう。「智恩寺」をお参りして天橋立を渡れば、どんな難関校も立ち向かえる智慧が授かりそうだ。
「大聖寺」も歴史は古い。大同2年(807)に徳一上人が、平城天皇の命により五台山よりもたらされた文殊菩薩像を本尊として創建したと伝えられる。
本堂の裏には利根水(りこんすい)と呼ばれる湧き水があり、これを飲むと文殊の智慧が授かるという。また、「大聖寺」で祈祷を行った「受験合格米」も門前町などで入手できる。受験生ならぜひとも入手しておきたいところだ。
天神さま(菅原道真公)に祈願
しかし、合格祈願といえば、やっぱり天神さま(菅原道真公)が一番人気だ。総本宮の「北野天満宮」(京都市上京区)・「太宰府天満宮」(福岡県太宰府市)のほかに、各地に信仰の拠点となるような天神社・天満宮があるからだろう。
なお、天神さまにも三大天神というのがある。このうち二つが「北野天満宮」と「太宰府天満宮」であることは揺るぎないが、三つ目には諸説がある。菅原道真公を祀る最古の神社といわれる「防府天満宮」(山口県防府市)とすることが多いが、「亀戸天神社」(江東区亀戸)・「荏柄天神社」(神奈川県鎌倉市)・「大阪天満宮」(大阪市北区)などとする説もある。
もちろん、三大天神でなければ一流校は合格しないということはない。お近くの天神さまもご祭神は同じ菅原道真公であり、ご神徳は同じだ。
しかし、どうせお参りするのなら由緒あるところという気持ちもおありだろう。そこで、上記の三大天神に次いでお勧めの天神社・天満宮(あくまで個人的な判断に基づくもの)をご紹介することにしたい。
お勧めの天神社・天満宮
まずは大阪府藤井寺市の「道明寺天満宮」。
お寺とも神社ともつかない不思議な社号と思われるかもしれないが、もともとこの地は土師(はじ)氏の所領で、氏寺の土師寺が建てられていた。菅原氏も土師氏の一族で、道真公の叔母の覚信尼も住していた。道真公は太宰府に赴く途中で土師寺に立ち寄り、叔母に自刻の肖像を預け、寺を道明寺と名づけたとされる。
その後、天満宮が「道明寺」の境内に建立されたが、明治の神仏分離に伴い「道明寺」は西に移転し、境内全体が天満宮とされた。
菅原道真公ゆかりの地に鎮座するだけあって、「道明寺天満宮」は古くから信仰を集めてきた。織田信長・豊臣秀吉・徳川家康からも寄進を受けている。
なお、桜餅に用いられる道明寺粉は、道明寺の尼が発明した保存食である。
1
2