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神の化身となった麒麟獅子 頭を噛まれると無病息災になる

 麒麟獅子舞をめぐる旅のスタートは、発祥の地・鳥取東照宮(鳥取市)から。その境内で見せてもらった因幡麒麟獅子舞の会による演舞は神々しく荘厳で、神事であると改めて印象づけられた。

「獅子はゆっくり動き、笛、太鼓、鉦の3つで構成されるお囃子もゆっくりと素朴な調べを奏でます。これが因幡での基本。一説には、神事によって神様が麒麟獅子にのりうつるとも。そして神様の化身となった麒麟獅子を家々に先導する役割が猩々だといわれています」と会長・西村伸一さん。

 家々に寄った麒麟獅子に頭を噛んでもらう習慣もある。子どもは賢くなり、大人は1年間無病息災になると伝えられている。「子供の頃から見慣れた光景ですし、いつまでも残したい文化です」と、西村さんはにっこりしながら演舞でかいた汗をぬぐった。

因幡 因幡麒麟獅子舞の会

深緑の東照宮境内に朱色の麒麟がひときわ眩しく輝き、ゆっくりしたテンポで神々しく舞う。演舞してくれたのは、因幡麒麟獅子舞の会の皆さん。鳥取県東部の麒麟獅子舞保存会50団体を取りまとめている共助組織である。
獅子舞2人、猩々1人、太鼓や笛、鉦のお囃子が各1人ずつの最低6人、7~8人で行うのが因幡では一般的。お囃子で打楽器「鉦」を使用するのも因幡の特徴のひとつ。

因幡 芦津神社・䖝井(むしい)神社の麒麟獅子舞

 同じ鳥取県でも東南部の山里、智頭町芦津集落に伝わる麒麟獅子舞は、黒、緑、赤の3色の蚊帳(胴幕)が特色だ。

「赤や朱の一色が多い中で、これはうちだけです」と芦津獅子舞保存会の事務局長、寺谷紀明さんは言う。

その由来に関する伝承も面白い。

「言い伝えでは、大正時代、この集落に住むある青年が宇倍神社に麒麟獅子舞を習いに行かされたとか。そして無事に免許皆伝となり、帰郷する際に記念として、宇倍神社に保管されていた旧藩主・池田家の3色の布団袋をいただきました。これを仕立て直して蚊帳に利用し、以来、生地は変わっても3色の伝統が残ったと伝わります」

 また、その舞いも特徴的だ。

「うちは頭を低く、低くが基本。その方が天に伸び上がるときに迫力が増します。猩々が舞に絡まないのも特徴です。一言でいえば勇壮と静寂。そんな表現を見て楽しんでもらいたいですね」

智頭町の芦津神社に奉納される麒麟獅子舞は、3色の蚊帳がひときわ存在感を放っている。同神社の獅子舞は毎年10月の第2日曜日に行われる。また芦津獅子舞保存会では近隣の䖝井神社でも舞いを奉納する(祭礼は10月28日)。
保存会にはおよそ60名が所属しているが「実働部隊は8人ぐらい」と事務局長の寺谷さんは笑う。

但馬 宇都野神社の麒麟獅子舞

 続いて、但馬の代表的な麒麟獅子舞を見るべく、兵庫県北但西部の新温泉町にある宇都野神社を訪ねた。

 真赤な胴幕を着用し、思わず踊りたくなるほど軽快なお囃子のリズムに乗って、2頭の獅子が呼吸を合わせて舞う。2頭を登場させる麒麟獅子舞は珍しく、今では但馬の同神社と諸寄為世永神社の2カ所だけで舞われている。希少な2頭舞は、獅子と獅子の息の合った様式美が見どころだが、2頭もいると稽古が大変そうだが…。

「昔から、獅子の舞い方は先輩から後輩へ手取り足取り教えるのが伝統。獅子のあやし役の猩々の動きは、基本動作に加えて自由にアドリブを入れてもいいというのが特徴です。小さい子は見ているうちに舞いを覚えて真似しちゃってますね」

 と話す田村才一さん(宇都野神社麒麟獅子舞保存会獅子連中 頭取)自身も、会社員をしながら伝統を守っている一人。

「麒麟獅子舞の魅力は、何より参加すること。お囃子もやってみると一発で心に刺さります。できるだけ近くで厳かな動きや軽快なお囃子の音、その場の空気を肌で感じてほしいですね」

2頭の麒麟獅子が登場してダイナミックな演舞を披露してくれた、宇都野神社麒麟獅子舞保存会・獅子連中の皆さん。下は4歳から学生、大先輩まで約60名が所属している。小さなシンバルのような楽器が、但馬の特徴のひとつである「ジャンジャン」。
新温泉町・宇都野神社の麒麟獅子舞は毎年、川下祭りの7月第3日曜日・月曜日(海の日)と、10月8日の秋祭りに行われる。

 各地の麒麟獅子舞を知ると、その土地の気質や事情、想い、心意気が伝わってくる。何度でも訪ねて多彩な郷土文化に触れてみたい。

 

祭礼で演舞を体感しよう!

麒麟獅子舞の多くは、本舞を舞い、氏子の家々をまわった後、神前で本舞を奉納して終える。1年を通して各地の例祭で麒麟獅子舞を見ることができるので、予定をチェックしてから訪ねたい。

「日本遺産 麒麟のまち」ホームページで【例祭の暦】をご覧ください
360度VR動画も公開中

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