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何度でも訪れたい!身も心も「癒す」温泉旅~鹿児島・宮崎 南九州温泉紀行~天孫降臨の地、輝ける古代・日向(ひむか)へ

『朝日の直刺(たださ)す国、夕日の日照(ひで)る国ぞ。故(かれ)、此処は、甚吉(いとよ)き地(ところ)』(古事記)。天から降りた瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が〝朝に光が真っ直ぐに射し、夕にはあざやかな陽が照る〟と讃えた地、日向。日向とは、一説によると宮崎、鹿児島、熊本の一部を含む南九州一帯ともいわれる。天孫降臨から始まり、日向で生まれ育ち、初代天皇となった神武(じんむ)天皇の軌跡を追いながら、光眩しい南九州を古代と温泉をテーマに巡る。
取材・文/郡 麻江 協力/九州観光機構


【鹿児島】

神々が出会う雄大な地

立神と呼ばれる巨石の向こうに野間岬が続いていく。この岬で瓊瓊杵尊と木花咲耶姫(このはなさくやひめ)が出会い、恋に落ちたと伝わる。写真提供:ピクスタ

ひたすら車を走らせて 海の青が眩しい野間岬へ

 鹿児島空港に着陸してすぐ、空の旅で凝り固まった体をほぐそうと向かった先は、『休暇村指宿(いぶすき)』だ。錦江(きんこう)湾を一望する砂むし温泉『癒砂(ゆさ)』では、「さあ、どうぞ」と係の人に導かれて掘られた砂の上に寝転ぶ。そこにざっくざっくと砂が被せられていく。その意外な重さに驚くが、そのうちに快感になっていく。背中から全身がじんわり温かくなり、顔には潮風が心地よく感じられ、ふわふわと眠気を誘う。

 砂むし温泉は、指宿に300年以上前から伝わる世界的にも珍しいお風呂で、砂の圧力で心臓から送られる血液量が増加し、55 ℃前後の高温が血管を拡張させて、血流を促進する作用があるのだとか。通常の温泉入浴の3倍もの効果が期待できるというが、10~15分が適度な入浴時間だという。その後は、砂を洗い流し、源泉かけ流しの大浴場『知林(ちりん)の湯』に浸かって、すっきりと体を調える。

休暇村指宿
砂むし温泉「癒砂」
錦江湾の景色を独り占めするような日本最南端の休暇村。名物「砂むし温泉」をはじめ、天然かけ流し温泉を日帰りでも楽しめる。
住所:指宿市東方10445 電話番号:0993-22-3211
立ち寄り温泉:入湯料1,100円(砂むし温泉と知林の湯) 11:00~20:00 第2・第4火曜日は12:00~ 無休 ※休暇村宿泊:1泊2食(2名利用) 13,000円~
<泉質> ナトリウム塩化物温泉(知林の湯)
<泉温> 砂むし温泉約50℃、知林の湯約42℃


 リフレッシュした後は、薩摩半島をぐるりと回り、神話の舞台、野間岬(のまみさき)へと向かう。途中、開聞岳(かいもんだけ)の美麗な山の姿を楽しみつつ、だんだんと海の色が群青から、明るい青へと変わってきたのに気づく。半島の西側に回ると、目の前は東シナ海だ。どこまでも明るいオーシャンブルーに目を奪われる。

 野間岬は、瓊瓊杵尊が、美しい木花咲耶姫(このはなさくやひめ)に出会った笠沙(かささ)の御前(みさき)と伝わる場所だ。岬の奥へと車を走らせると神々しい景色が突然、現れた。 

 巨岩が入り組む海岸線に、立神(たちがみ)と呼ばれている巨岩がすっくと天を指差すように立つ。その先に美しい円弧を描いて、岬が続いていく。雄大な神がかった風景はまさに、ここが神話の舞台であり、瓊瓊杵尊の曽孫、神武天皇へとつながる物語のはじまりの地だと実感する。

広すぎる南九州…!移動の疲れをラムネ色の湯で癒す

 またもやロングドライブの末に、霧島にたどり着く。『かれい川の湯』は、天降川(あもりがわ)という清流に面した立ち寄り温泉だ。貸切り風呂が18室あり、すべて川に面していて、せせらぎを耳にしながら源泉かけ流しの温泉に浸かることができる。

 ごろりと横になれる座敷付きの部屋もあり、家族や友人とゆっくりとプライベートな温泉時間を過ごせる。源泉掛け流しの温泉はなかなか熱い!水で好みの温度に埋めつつ、ゆったりと手足を伸ばす。目の前は緑の木々が茂り、その下を清流が流れていく、ただただ、贅沢な時間。

 支配人の伊地知悟志さんによると、この辺り一帯は昔から「家族風呂」という習慣があるそうだ。完全貸切りの温泉が天降川の上流から下流にかけて何軒もあり、週末になると、家族で浸かりに行くのだとか。なんとも羨ましい温泉習慣ではないか。西郷隆盛もこの辺りに家族で来ていたそうで、地元民をはじめ、多くの旅人がこの湯に癒されたのだろう。

 泉質はさらとろの感触で、碧がかっていて、ラムネ温泉とも呼ばれている。淡い碧色が川のせせらぎを思わせ、芯から浄められる気がする。温泉を出るともう暗く、空は満天の星…!天から降るような美しさにしばし見惚れた。

写真提供:ピクスタ

日当山(ひなたやま)温泉
かれい川の湯
貸切り風呂全室が清らかな天降川を望む造りになっている。湯上がりはいつまでも体がポカポカと温かい。
住所:霧島市隼人町嘉例川4471-2 電話番号:0995-54-6060 
立ち寄り温泉:一室利用60分1500円~ ※予約がベター 10:00~23:00(受付~22:00) 定休日:木曜
<泉質> ナトリウムー炭酸水素塩温泉(低張性・中性・高温泉)
<泉温> 43.3℃


鹿児島で、ちょっと立ち寄り!

熊襲(くまそ)の穴
妙見温泉西側の山腹にある洞穴。記紀に現れる熊襲(古事記では熊曽)と呼ばれる勇猛果敢な一族の首領・川上梟帥(かわかみたける)が住んでいたところで、女装した日本武尊(やまとたけるのみこと)に殺されたという伝承がある。奥行き22m、幅10m、高さ6mもの空間に、芸術家・萩原貞行氏のモダンアートが描かれていてプリミティブな空気が満ちている。
住所:霧島市隼人町嘉例川 電話番号:0995-77-2111(妙見石原荘)

上野原縄文(うえのはらじょうもん)の森
霧島市東部の標高約250mの台地上にある国内最古・最大級の定住化した集落跡である上野原遺跡を保存・活用している。約10,600年前の竪穴住居跡が52軒発掘され、竪穴住居(復元)の見学ができる。クリ、クヌギ、コナラなどの落葉広葉樹の森が再現されている。展示館では遺物の展示をはじめ、「縄文シアター」やジオラマなどで古代に楽しく触れられる。すぐ近くに鹿児島県立埋蔵文化センターもある。
住所:霧島市国分上野原縄文の森1-1 電話番号:0995-48-5701 
展示館:9:00~17:00(入館~16:30) 月曜休館 入館料:大人320円

【宮崎】

日向から東へ。新たなる旅立ちの地

天孫降臨の地といわれる高千穂峰。その山頂に突き立てられた「天之逆鉾(あまのさかほこ)」は、一説では、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)、伊邪那美命(いざなみのみこと)の二神が国生みのために大地に突き刺してかき混ぜたとされる。天之逆鉾は霧島東神社の社宝で、いつの頃からかここにあるという。写真提供:ピクスタ


霊峰 高千穂峰の麓に湧く
名湯に古(いにしえ)の物語を思う

 神武天皇は、幼名を狭野尊(さののみこと)といい、宮崎県高原(たかはる)町にある皇子原(おうじばる)神社の産婆石(うべし)付近で生まれたという伝承がある。そのため高原町には、神武天皇にまつわる場所が多い。町に入ると霊峰・高千穂(たかちほ)峰が見え隠れする。山頂がうっすら雲に覆われていると余計に、そこに神がかったものを感じる。

 皇子原神社は、高千穂峰をすぐ近くに仰ぐ地にある。鬱蒼(うっそう)とした緑の中に鎮座する皇子原神社を一号墳として、6基の古墳が点在している。ポコポコと墳丘の高まりが続く風景は、神武天皇誕生や天孫降臨にまつわる日向神話と高原町の結びつきを窺(うかが)わせて面白い。


 長く美しい杉木立の参道が続く狭野(さの)神社は、木々の上から、しんしんと清浄な空気が降り注いでくるようで、歩くだけで禊(みそぎ)をしたような心持ちになる。主祭神は神武天皇で、社伝によると、この神社は第五代孝昭(こうしょう)天皇が神武天皇生誕の地に創建したという。


 近くには狭野尊が、父・鸕鶿草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)と共に暮らしたという「高千穂宮」がある。小さな原っぱだが、地元の人々が大切に守っていることがわかる。

 この宮跡のすぐそばの温泉宿『湯之元温泉』は、明治35年開業の老舗温泉だ。 温泉そのものの由来はさらに昔に遡(さかのぼ)り、瓊瓊杵尊の神話より昔だったとも伝わる。泉質は「高濃度炭酸泉」で、全国的にも稀有な温泉だという。「源泉が冷泉で、この冷泉に熱を加えると、黄金色へと変化します。ここでは加熱のみで、加水は一切行っていませんので、純度100%の炭酸泉をお楽しみいただけます」と三代目女将の永田礼奈さん。

 温泉は、40 ℃に加温した内湯、源泉のままの冷泉、30 ℃のぬる湯の露天風呂の3種がある。常連客によると、内湯と冷泉をじっくり5往復ほどするのがツウらしい。これにより血行を促進して、副交感神経の働きを助けるという。しばらく湯に浸かっていると細かい気泡が肌にびっしりついて、温泉成分が毛穴からじわじわ染み込んでくる気がする。

 温泉好きだが、長湯が苦手な筆者が、高濃度の冷泉と40 ℃の内湯を行き来し、中濃度のぬる湯の露天風呂にいつまでも浸かり、なんと1時間以上、温泉を楽しむことができた。
とくに露天のぬる湯が素晴らしく、青い空と緑の木々に囲まれて、ただただゆったり湯に浸かる。去りがたし、名湯。ふと、神武天皇はここで産湯を使ったのでは…?という妄想にとらわれる。

提供:(株)リバティー
提供:(株)リバティー

湯之元温泉
日本最古の高濃度炭酸泉の温泉宿。温泉と冷泉、露天風呂を交互に楽しめる。炭酸泉で炊いたおにぎりや鉱泉で割ったカルピスなどもおすすめ。
住所:西諸県郡高原町大字蒲牟田7535 電話番号:098-442-3701 
立ち寄り温泉:600円 10:00~22:00 定休日:水曜 ※宿泊:1泊2食(2名利用)12,650円~
<泉質> 炭酸水素塩冷鉱泉(含二酸化炭素マグネシウム・ナトリウム・カルシウム)
<泉温> 21.6℃

うるわしい古代の心息づく美々津(みみつ)という地

 神武天皇が東へと旅立った「お舟出の地」といわれる美々津は、江戸時代から明治時代に海運の要衝として全盛をきわめたそうで、虫籠窓(むしこまど)や京格子の家々が当時の面影を留めている。町のそばを流れる耳川(みみかわ)河口のすぐ近くに、神武天皇が旅の安全を祈願したという立磐(たていわ)神社がある。

 その日、天皇は急遽、出航を決め、寝入っていた家々の戸を叩き「おきよ、おきよ」と触れ回り、人々は急いで「つき入れ餅」を作って見送ったという。これにちなみ、今も「おきよ祭り」が毎年、行われている。

 美々津のわずかな滞在時間の間に、地元の人が何人か声をかけてくれた。「神武さんは、この河口から出航して、あの灯台と小島の間を通って、東に向かっていった」と…。鄙(ひな)びた漁師町にしか思えなかったが、人々の古事記に登場する由緒ある土地への誇りと矜持を深く感じた。

 浜に出ると、白波が立ち、青い青い海が目の前に広がる。出港の日もこんな景色だったのだろうか。古事記では神武天皇は美々津を発ってのち、兄を失い、艱難辛苦(かんなんしんく)の末、はるか遠く、ヤマトの地に辿り着き、橿原(かしはら)の地で初代天皇として即位する。

 神の時代から人の時代へ。天孫降臨の舞台となった地は、〝日向〟の名にふさわしく、どこまでも明るく輝いていた。



宮崎で、ちょっと立ち寄り!

鵜戸(うど)神宮
太平洋に突き出すような鵜戸崎岬。その突端の洞窟の中に、朱塗りの御本殿がご鎮座する。周囲には奇岩が連なり、独特な景色を見せている。
●日南市大字宮浦3232

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郡 麻江

こおり・まえ 古墳ライター。 時々、添乗員。京都在住。得意な伝統工芸関係の取材を中心に、「京都の人、モノ、コト」を主体とする仕事を続けながら、2018年、ライフワークと言えるテーマ「古墳」に出会う。同年、百舌鳥古市古墳群(2019年世界遺産登録)の古墳ガイドブック『ザ・古墳群 百舌鳥と古市89基』(140B)、『都心から行ける日帰り古墳 関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス)、『巨大古墳の古代史』(共著・宝島社新書)、『中公ムック 日本百名墳』(中央公論新社)などを取材・執筆。古墳や古代遺跡をテーマに、各地の古墳の取材活動を続ける。その縁で、添乗員の資格を取得。古墳オタクとして、オン・オフともに全国の古墳や遺跡を巡っている。日本旅のペンクラブ会員。

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