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連載

山上公実さんの古代レシピを食べる!食べることは、明日に命をつなぐこと【古墳ライターが旅した、見た、聞いた!vol.2-2】

 連載vol.2-1「古代ニッポンの人々は、一体何を食べていたのか?」では、私たちの祖先の食事情を振り返った。今回は、実際に古代レシピを食べてみよう。

 ナビゲーターにお招きしたのは、京都・三条大宮の京町家(きょうまちや)暮らし、おばんざいなど京の家庭料理をはじめ、四季の暮らしに寄り添う健やかな食を提案する家庭料理研究家の山上公実さん。古代に食べていたとされる食材を使って、現代でもおいしく食べられる山上流古代食レシピを提案してもらった。


今日いただく食が明日の命への架け橋

 ノビル、長芋、ミョウガ、山椒、ゴボウなど瑞々しい古代の食材が竹ザルに盛られている。山上さんが、連載vol.2-1のナビゲーター・佐古和枝先生のアドバイスを受けて、また自身もさまざまに調べながら集めた食材たちだ。

山海の豊かな食材。時に危険を冒すこともあっただろう。それだけに食事の時間は満ち足りた素晴らしいものだったような気がする。


 「古代の食レシピを考えながら、試作をするうちに、素材を生かすということが明確に感じられるようになってきました。今は世界の調味料が簡単に手に入る時代。ついあれこれ足して、積み上げていくレシピになりがちですが、調味料を塩と魚醤だけに削ぎ落としてみると、シンプルに素直に美味しくて…。料理の原点を垣間見た気がしました」(山上さん)

 出来立てほくほくのおこわは、もち米、鴨肉、クリ、クルミ、タケノコ、ゼンマイを使って、調味料は魚醤のみ。鴨肉の旨みと脂でもち米がコーティングされ、さらにクリの甘みやクルミのコクを纏(まと)って、味つけはちょうどいい塩梅に。
 鮭のとろろ蒸しは、長芋を包丁で叩いてのせて蒸し上げ、アクセントに松の実をトッピング。こちらは塩だけの味つけだが、鮭、舞茸、松の実のそれぞれの持ち味がしっかりと引き出されている。
 土鍋でぐつぐつ炊いた縄文鍋はアサリ、切りこんぶのエキスと塩味みが三位一体となって、妙なる出汁の旨みに思わず天を仰ぎ見る…。
 縄文クッキーはパサパサしがちなドングリ粉に、おろした長芋をつなぎで加え、クルミをたっぷり入れることで油分を補った。微かな土の香りとほのかな甘み、チョコレートのようなほろりとした甘苦さがじんわり広がる。
 どれもこれも優しい味わいなのだが、五臓六腑にしんしんと深く染み込んできて、なぜかまたすぐに食べたくなるような不思議な魅力に満ちている。

鴨肉と山菜と木の実のおこわ
魚醤の風味を具材に染み込ませるのがコツ。もち米にたっぷり具材を混ぜたボリュームのある一品。
松の実たっぷり鮭のとろろ蒸し
古墳時代には甑(蒸し器)が登場したことから考えた蒸し料理のレシピ。鮭と舞茸の風味を叩いた長芋が一つにまとめている。
縄文鍋
土鍋にアサリやキノコ、ゴボウなどを入れて水と塩だけで味付けした汁物。切りこんぶの旨みと具材の旨みが、ふくよかな出汁を生み出す。
魚醤と海藻の汁物
時短で完成するシンプルな一品。たっぷりのワカメとアラメ、濃厚な魚醤のコク、それぞれの旨みを余すところなく堪能できる。
縄文クッキー
韓国ではポピュラーなドングリ粉を使って、卵、長芋のすりおろし、ハチミツ、刻みクルミを混ぜ合わせて焼く。(記事の最後にレシピを掲載しています)

海と山河からの恵みを享受する稀なる国

 山上さんは薬膳料理にも造詣が深く、実際に料理をしてみて、栄養価の高い木の実や、滋養をつける長芋、食物繊維豊富な根菜やキノコなど古代人は体に必要なものを上手く取り合わせていたと感じたそうだ。

「食材を調達するのも、時に大きな危険を伴ったはずですよね。古代の人々にとって毎日の食事は命がけであり、食事は明日の命へとつなげる重要なものだったと、改めて感じました。今はスーパーなどでなんでもすぐに手に入る時代ですが、食材ひとつ、おろそかにしてはいけないと思います」(山上さん)

 山上さんの古代食レシピを味わうほどに、なんと多彩な食材に恵まれた国なのだろうと感動を覚える。そして、海と山河に恵まれた稀なる国、自然立国・日本という、この国の姿を改めて思う。
「今日も恵みをたくさんいただいてありがとうございます。明日もどうぞ与えてください」と森や川や海の神々に祈る縄文人のピュアなこころは、私たちのどこかに、微かにでも残っているはずだ。
〝自然を動かす見えざる力〞に感謝を捧げて、日々の食事を、一つひとつの食材を、大切に味わいたいと願う。

佐古先生のご感想

関西外国語大学教授 佐古和枝先生

日本の食文化の原点ともいえる 滋味豊かな味を堪能しました!
どれもほんとうに美味しくて味わい深いお料理ばかりで、山上さんのアイデアが詰まったレシピに感動しました。シンプルな調味だからこそ、食材本来の風味が際立つのでしょう。日本は南北に長いので、古代の食べ物も地域によって異なり、その種類もじつに豊富でした。食材には体に良いものもあれば、毒になるものもあったはず。時に食材による人間の死を持って、危険もまた経験値として積み重ねていったのでしょう。考古学の「体験イベント」などで、古代の食を再現することがあるのですが、お恥ずかしいことに、今日の料理と全然、違います(笑)。こんなふうに見た目も美しく、洗練されたお料理を考古学関係者にもぜひ教えていただきたいです。

なんと山上さんは関西外国語大学の学生時代、佐古先生の講義を受講していたそうだ。「卒業生がこんなに立派な仕事をされていて嬉しいこと」「先生の講義はとても面白くて、あの時に受けた感動を今回の仕事に生かせたような気がします」。師弟の語らいは穏やかに続く。

古代・シンプルcooking!縄文クッキーの作り方


韓国ではポピュラーなドングリ粉を使って、卵、長芋のすりおろし、ハチミツ、刻みクルミを混ぜ合わせて焼く。

〈材料(10枚分)〉
卵……1個 長芋(すりおろす)……30gハチミツ……大さじ1 ドングリ粉……100gクルミ(粗みじん切り)……50g
〈作り方〉
❶オーブンは180℃に温めておく。ボウルに卵を割りほぐし、長芋とハチミツを加えて、よく混ぜ合わせる
❷ドングリ粉とクルミを加え、粉けがなくなるまで練り、10等分にして丸める
❸天板にオーブン用の紙を敷き、②の生地を薄く平らにのばして並べ、180 ℃で15分~20分ほど焼く




今回のナビゲーター
    家庭料理研究家 山上公実(やまがみひろみ)さん
京都生まれ、京都育ち。家庭料理教室や季節の仕込み事の講習会などを開催する「キッチンみのり」を主宰。土地に根付いた「食」を大切に、おばんざいや薬膳の知識をプラスしたレシピを提案。国際薬膳学院和学薬膳○R博士、日本漢方養生学協会 漢方薬膳スタイリスト

撮影◉竹中稔彦

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郡 麻江

こおり・まえ 古墳ライター。 時々、添乗員。京都在住。得意な伝統工芸関係の取材を中心に、「京都の人、モノ、コト」を主体とする仕事を続けながら、2018年、ライフワークと言えるテーマ「古墳」に出会う。同年、百舌鳥古市古墳群(2019年世界遺産登録)の古墳ガイドブック『ザ・古墳群 百舌鳥と古市89基』(140B)、『都心から行ける日帰り古墳 関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス)、『巨大古墳の古代史』(共著・宝島社新書)、『中公ムック 日本百名墳』(中央公論新社)などを取材・執筆。古墳や古代遺跡をテーマに、各地の古墳の取材活動を続ける。その縁で、添乗員の資格を取得。古墳オタクとして、オン・オフともに全国の古墳や遺跡を巡っている。日本旅のペンクラブ会員。

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