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ありのままで生きていこう

(公社)ギャンブル依存症問題を考える会の事務所にて

 こうして取材を受けていくと出版社からも声がかかり、2020年には自叙伝『生き直す』を刊行しました。執筆のために自分の過去を振り返り、子ども時代を思い出していくと「俺はずっと淋しかったんだな」「ずっと誰かの顔色を見て生きてきたな」「辛かったんだな」という感情に気づいていきました。人間って不思議なもので、本当に辛い状況にある時には辛いということも分からないし、自分の感情を言葉にすることもできないんだと思います。大人になって安心できる人間関係ができて、初めて自分の感情の蓋を開けることができました。

 反面、こうして過去の感情が噴き出してくると、最初はその感情に圧倒されてしまい、怒りという形になっていました。過去を振り返る作業を繰り返す度に田中さんと喧嘩になり、なんと僕は帯状疱疹に2回、めまい症に3回も見舞われ、医者通いをする羽目になりました。知り合いになった山梨県にある薬物依存症の回復施設「山梨ダルク」の仲間達に田中さんの愚痴を言うと、僕の家まで飛んできてくれて、明け方まで話しを聞いてくれました。更にこの頃、同時並行で自分の問題を振り返る依存症の回復プログラム「12ステップ」にも取り組んでおり、頭の中は感情の嵐が吹き荒れ混乱の極みに陥っていました。

 けれども、怒り、悲しみ、憎しみ、恨み、後悔、罪悪感、淋しさ、恐れ、恥こういった感情も出し切ってしまえばやがて収まっていくことも学びました。僕は、感情が噴き出すと、青春期は喧嘩に明け暮れ、大人になると女性や酒やクスリといった刺激で感情を抑え込もうとしてきました。けれどもそんなマネは二度とできない状況下で、ただひたすら仲間達に話し続けるだけという経験を初めてして、これに効果があるということを身を持って体験したのです。これが依存症のプログラムの1つであり、自助グループの強みです。このプログラムや自助グループについてはいずれ書く機会があればと思います。

 過去に対する感情が昇華できたことで、僕はありのままの自分を見せて生きていこうと思えるようになりました。生い立ちを明らかにしたことで、自分のアイデンティティを恥じることをしなくて済むようになりました。

 逮捕前の僕は、自分で作り上げた高知東生のイメージを守っていこうと必死でした。勝手に思っていた「他人から期待されているであろう高知東生像」を演じていました。そして、「芸能界で売れっ子になりたい」「生き残っていきたい」と、子ども時代同様に権力者の顔色を伺って生きてきました。むしろ俺はそういう対応が得意だと自信すら持っていました。

ところが、その生き方は自分自身を苦しめていました。本当は顔色を見て生きるような気の小ささなんてとっくに見透かされていたんだと、この年になってやっと判るようになりました。

 だからありのままで生きていこう。これからは自分のやりたいことを実現していこうと思っています。

 今、僕が実現したいことは「リカバリーカルチャー」と呼ばれる、回復者が作る文化を日本に広めることです。依存症だけでなく、うつ病や引きこもり、いじめやパワハラ、病気、挫折などなど人生のどん底を経験した人達がそこからリカバリーしていく様子を、音楽、演劇、映画、絵画、文学どんな形でも良いので表現していく、それを広めていく活動をしたいと思っています。

 僕も役者だけでなく、仲間と映画を作ったり、こうしてエッセイを書かせて貰ったり、作詞や歌手としても活動しています。1月25日には自伝的青春小説『土竜』を単行本として出版させてもらうことにもなりました。自叙伝では相手のことを考え書けなかったことも、小説というフィクションなら表現できます。青春時代の淋しさを表現しようともがきながら書いているうちに何度も泣いてしまい、涙が流れる度に癒やされてもいきました。

 もうすぐ還暦になろうというオジサンが、新しいことにチャレンジできることは本当に楽しい。それはカッコつけた高知東生像を捨てて、失敗することも度々ある、そんなありのままの自分を受け入れたからできるようになった生き方だと感謝しています。

『土竜(もぐら)』高知東生 2023年1月25日刊行予定!
昭和の高知を舞台に、どん底に堕ちた男の人生と、彼を巡る人間たちに光をあてる、絶望と再生の物語。壮絶な過去と向き合いすべてを曝け出した、自伝的初小説集。文芸界を驚かせた唯一無二の世界がここに。
https://amzn.asia/d/3RfiSVf

※本記事は『一個人』2023年冬号に掲載した連載した内容の原稿から再構成したものです。

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