埴輪(はにわ)として初めて国宝になった「埴輪 挂甲(けいこう)の武人」。国宝指定50周年を記念する特別展「はにわ」が、東京国立博物館(東京・上野)で開幕しました。会期は12月8日までです。なお、2025年1月21日~5月11日の会期で九州国立博物館に巡回します。
埴輪とは?
埴輪とは、王の墓である古墳に並べられた素焼きの造形物です。製作時期は古墳時代(3〜6世紀)の約350年間。時代や地域ごとに個性豊かな埴輪が作られ、その生き生きとした姿から、王をとりまく人々や当時の生活の様子を見てとれます。
プロローグ/《埴輪 踊る人々》解体修理後初のお披露目
展示室でお出迎えしてくれるのは、最も有名な埴輪と言える《埴輪 踊る人々》。気の抜けたゆるい表情が魅力的です。昭和5(1930)年に出土してすぐに修理復元されましたが、経年劣化が見られたため、令和4(2022)年から解体修理が行われていました。今年3月末に完了し、修理後初の展示となります。この修理プロジェクト費用はクラウドファンディングで集められました。
令和の解体修理前、2体の身長差は7cmでしたが、修理を経て4cm程度に縮まりました。近年の研究で、同じ古墳から出土した埴輪の円筒部は同じ高さだとわかったためです。また、土汚れが落とされて、赤みが強くなりました。
第1章「王の登場」/国宝の副葬品のみ集結
第1章は国宝の副葬品のみで構成された贅沢な空間です。
古墳時代に入ると、ヤマト王権(政権)という政治的な結合体ができました。近畿地方の大王(だいおう)を中心に、東北地方南部から九州地方にかけて各地の王が連合を組んだのです。埴輪はそういった王などの権力者の古墳に並べられました。
古墳の埋葬施設からは豪華な副葬品(ふくそうひん)が出土することがあります。副葬品は王の役割の変化と連動するように移り変わっていきました。また、中国大陸や朝鮮半島との関係を示す国際色豊かな副葬品もあります。
◉古墳時代前期の副葬品
◉古墳時代中期の副葬品
◉古墳時代後期の副葬品
第2章「大王の埴輪」/トップ水準で作られた埴輪
第2章の展示室で一際目を引くのが巨大な円筒埴輪(えんとうはにわ)です。高さ242cmで、日本最大の埴輪。メスリ山古墳(奈良県)の石室を取り囲む二重の埴輪列の中で、最大2万個のうちの一つです。
第2章では、大王やその周辺にいた権力者の古墳から出土した、技術水準の高い古墳が取り上げられています。古墳時代前期に箸墓(はしはか)古墳が作られて以降、古墳文化の中心地として栄えた奈良盆地、倭の五王の陵(みささぎ)として名高い百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群(大阪府)、古墳時代後期の古墳で継体天皇の陵とされる今城塚(いましろづか)古墳(大阪府)などから出土したものです。
第3章「埴輪の造形」/各地域で発展した独自の形
埴輪は、北限は岩手県、南限は鹿児島県から出土しています。中央集権化が進むなか、大王との関係が強い王の古墳には、大王の古墳と似たような技術的に優れた埴輪が作られる傾向にありました。一方で、大王との関係が弱い古墳などからは、民衆主体で作られた独特な造形の埴輪が並べられることもありました。
また、6世紀の途中からは、仏教の影響を受けて、近畿地方では大規模な古墳が作られなくなります。それに伴い、埴輪作りも低調に。そのため、見本となる大王の埴輪がないため、地方の埴輪は独自に発展していきました。土以外の素材で埴輪に似たものが作られることもありました。
第4章「国宝 挂甲の武人とその仲間」/5体が史上初めて一堂に
いよいよ、本展示の目玉に辿り着きました。広い展示室に、国宝「埴輪 挂甲の武人」を中心にして5体がゴレンジャーのように集結しています。
2024年現在、4件ある国宝の埴輪のうち、初めて国宝に指定されたのが「埴輪 挂甲の武人」です。頭から足先までに鎧を身につけていて、左手には弓、右手には太刀を持っています。古墳時代の武人を彷彿とさせる状態の良い埴輪です。
この挂甲の武人は群馬県太田市の窯で焼かれましたが、同じ工房、同じ工人に製作された可能性を指摘されるほどよく似ているのが今回集まった他の4体です。それぞれ、群馬県、千葉県、奈良県、そしてアメリカのシアトル美術館からやってきました。とてもよく似ていますが、国宝「埴輪 挂甲の武人」に比べるとどれも簡素化されていて、細かい部分は異なります。
第5章「物語をつたえる埴輪」/さまざまな組み合わせでみせる“埴輪劇場”
最後は、人物や動物、家などさまざまな形の埴輪が大集合しています。古墳に並べられた形象埴輪は、複数の人物や動物などを組み合わせて「埴輪劇場」とも呼ぶべき、何かしらの物語を表現していました。そして、各人物や動物には役割がありました。例えば、盾持人(たてもちびと)は古墳のガードマン、相撲の力士は大地の邪気をはらう役割があったそうです。
家形埴輪は長い期間作られました。神聖な魂の拠り所として重要な役割があり、埋葬施設の上など古墳の中心部分に置かれました。
動物がモチーフの埴輪もたくさん作られました。よく見られるのは鳥形埴輪で、鶏形は光をもたらす神聖な役割として、水鳥形は魂を運ぶ役割として採用されました。犬や猪、鹿は狩猟を再現しています。一方で、猿や魚といった埴輪が持つ役割はいまだわかっていません。
そのほか、この章ではユニークな埴輪が多数展示されています。
東京国立博物館では50年ぶりとなった埴輪展。約50の所蔵先から貴重な埴輪や副葬品が大集合しています。古墳時代を通して多様に変化した古墳の奥深さを、ぜひ体感してみてください。
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
会場:東京国立博物館 平成館
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、東京メトロ千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
開館時間:午前9時30分〜午後5時
※毎週金・土曜日、11月3日(日)は午後8時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
※ただし11月4日(月)は開館、11月5日(火)は本展のみ開館
料金:一般2,100円、大学生1,300円、高校生900円
https://haniwa820.exhibit.jp/