一個人:公式WEBサイト

新着記事

「いくつになっても新人というのは楽しいものだなと思いました」高知東生さん・小説『土竜』発売記念インタビュー

 好評発売中の『一個人』2023年冬号から連載が開始した高知東生さんの「ありのまま生きる」では、高知さんの ”いま” にフォーカスしたエッセイが展開されている。早くも読者から「勇気がもらえた」「自分も新年に頑張ろうと思えた」と大反響だ。そして本日1月25日に光文社より高知さんの”過去”を振り返りながら独自の世界観を表現した自伝的小説集『土竜(もぐら)』が発売。今や俳優だけでなく、作詞家、歌手など様々な分野でマルチに活躍する高知さんの小説という新たなフィールド、新たな挑戦に込めた思いを聞いた。

ーーまずは今回発売される『土竜』のあらすじや概要について教えてください。

『土竜』は、6つの短編小説からなる作品です。僕の青春時代から現在までに起きた様々なできごとを織り交ぜて作り上げた自伝的小説になっています。とはいえ1つの話にいくつかのトピックを混ぜ合わせたり、設定を変えて経験した世界観だけを表現したりしているので完全な自伝ではなく、あくまでもフィクションです。
 6編の物語は、バラバラなようで実は主人公の「竜二」を中心に繋がっている、オムニバス作品になっています。僕の愛する故郷、土佐の高知の昭和青春記ですね。強がって、不器用で、無知で、感情的で、どうしようもない心の渇きを持て余しながら、泥臭く生きてきた様を描きました。

ーー小説を書くことになったきっかけについて教えてください。

 僕はTwitterで日々の心情を毎日書いているんですが、それがたまたま光文社の編集者さんの目に止まり、お声をかけて頂きました。
 当時、自叙伝の『生き直す 私は一人ではない』(青志社)を書き始めていたので、お断りするつもりだったんです。しかも、よくよく話をきいたら「小説を書いて欲しい」という依頼だって言うじゃないですか! そんなもの僕に書けるわけないじゃないかと驚いて「これはもう絶対お断りしよう」と気持ちを固めていたんです。
 ところが一緒に回復し続けている依存症の仲間達が「高知さん、何言ってんですか。世の中に小説を出したいと思っている人がどれだけいることか。頂いたチャンスは謙虚に受けるべきです」と言って背中を押してくれたんです。
 僕は、本当に不器用だし、根が臆病なんで、新しいことに直面すると尻込みしちゃうんですよね。第一今までの人生で役者しかやってこなかった、しかももうすぐ還暦になろうというおっさんがですよ、今更全く別分野のことができるなんて思わないじゃないですか。
 だけどプロの編集者さんが、僕の書いている文章を読んで下さって「きっと書ける」と見込んでくれたのなら、やってみるべきだなと思い直したんです。当初は本にまとめるなんてお話もなくて、「まずは短編を1つ」ということで書かせて頂きました。
 いざ書こうとなったら、1本の映画を作るつもりになってきて、「エピローグはどこからいくかな」「中盤はこうだな」「伏線回収にはあの話しを使おう」なんて、物語の筋書きを作っていくことがすごく楽しくなったんです。そのうち、「この役は俳優なら誰々がぴったりだな」なんて考えるとますますイメージが具体的になるんで、小説を書くと言うより、脚本家や監督になったような気持ちでしたね。

ーー新刊のタイトルとなる『土竜』に込められた思いをお聞かせください。

 6つの短編のタイトルが全て花の名前で繋がっているので、最初はもっと文学的で花の名前が生きるような格好いいタイトルを考えていたんです。でもいくつかあげたタイトル候補に対し、編集者さんから一向にOKがでない。一体どんなタイトルならいいんだろう? と判らなくなっていたら「もっと高知さんらしいものを」とアドバイスされたんです。それで格好つけるのをやめて自分の気持ちに正直になってみたら、「モグラ」という単語が浮かんできました。
「生涯土の中に埋めておこうと思っていた話しがポコッと顔を出した」この小説を書いている間ずっとそんな気恥ずかしさがあったんですね。
そしたら編集者さんも、「モグラ! いいですね」と言われたんで、正直「マジで!?」とビックリしました。そして「モグラを漢字にしましょう」となって「土竜」という文字を教えてもらいました。モグラがこんな漢字だったなんて全く知らなかったんですけど、僕は辰年だし主人公は竜二だし、「これだ!」と運命のように思いましたね。泥の中を這い回ってきた、まさに僕自身という気がしています。

ーー小説を執筆するにあたって、過去に執筆された自叙伝『生き直す』とは書き方などは変わりましたか?

 『生き直す』の時は、起きた出来事を真実のままに書いていきました。過去を掘り起こすことは心が痛む辛い作業でしたね。特に当時は逮捕後まだあまり世間に出ていなかった頃なので、余計にプレッシャーがかかりました。けれども事実を書き起こしていくだけなので、執筆することはそれほど難しくはありませんでした。
 それに引き換え『土竜』は小説というエンターテイメント作品です。物語が面白くなければ誰も読んでくれません。真実を全て書き起こすのではなく、余韻や行間を残し、読者それぞれに想像を巡らせて貰えること、そんな書き方を心がけました。
 何よりも物語の構成ですよね。最初に考えていたプロットが、書いているうちに面白くないなと思ったり、全く別の新しいアイディアが沸いてきたりするので、実は、自分でも最後までどんな結末になるのかわからないところがありました。それと自分が物語に感情移入できることを心がけていました。だから自分で書きながら、泣いたりしてましたね。恥ずかしながら。

ーー小説を書いていく中で、苦労したことはありますか?

 苦労?したかな?
 それよりも物語を作ることが本当に面白かったです。それは俳優をやっていることが大きいのかもしれません。俳優って人の人生を演じることが楽しいからやってるわけですよね。そして俳優やってたら「今度はプロデュースや監督をやってみたい」って思うものなんです。実現できるかどうかはともかくとして。だからそもそも創作が好きな人種なんじゃないですかね。
 とはいえ、初めてのことなので、時代背景や人物像をどんな風に描写するのか? ってところは苦労しましたね。編集者さんにアドバイスを貰ったり、プロの作家さんはどんな風に描写するのかな? なんて、今更ながら勉強しました。人生で一番本を読みましたね。
 昭和への懐かしさを感じさせるような小説にしたくて、時代描写には気を使いました。当時のことを思い出そうと、高知に戻って図書館で写真集を借りたりもしました。地域の歴史書って東京ではなかなか手に入らないんですね。そんなことも生まれて初めて知りました。
 ただ、昭和ノスタルジーを感じさせながらも、閉塞した現代を生きる今に心が通じるようなものにしたいと古くさくならないよう心がけました。その辺の塩梅が一番難しかったです。
 それと、自分を主人公にしながら色んな人の目線を通じて自分を書くというのは、ともするとナルシスト的になったり、自虐が過ぎたりしてしまうので、ほどよい距離感というのを探っていました。そのあたり読者の方はどう感じるのか……ちょっと怖くもあり、楽しみでもあります。

 あと苦労というほどではないですが、愛する土佐の高知の青春記なので、「高知弁を生き生きと描きたい」「土佐っぽの心意気を描きたい」と思ったんですけど、方言がわかんなくなっちゃってるんですよね。あまりにリアルに書きすぎても意味が通じなかったりするし、実は何度も地元の友人に高知弁を確認したりして、そこが案外大変でしたね。

ーー小説を書いたことで自分の中に生まれた変化のようなものがあればお聞かせください。

 いくつになっても新人というのは楽しいものだなと思いました。失敗を恐れ、チャレンジしないなんて本当に勿体ない! 断らなくてよかったと今は思っています。完璧を目指すんじゃなくて、その時の最善を尽くす。それが人生そのものを楽しむコツのような気がしています。
 それからこの本を書いたことで、自分の人生を改めて振り返ることができて、「あぁ、土竜なりに頑張って生きてきたな」と自分を赦すことができました。沢山間違ったし、沢山傷つけ、沢山傷ついてもきた。でも、その時はそれが最善だと思って頑張って生きてきたんだなと。その上で、自分だけが頑張ってきたわけでも、自分一人で生きてきたわけでもない。沢山の人に赦され、愛されてもきたなと。そういう有難味みたいなことも同時に実感できた。これは大きかったです。

ーー最後に、今後の展望についてもお聞かせください。

 そうですね。自分で展望を描くというより、与えられたものをやっていくことで見えてくるものがあるのかなと思っています。小説もまた依頼が貰えたら喜んで引き受けようと思っています。もっと小説がうまくなりたいです。

『土竜(もぐら)』高知東生 amazonほか全国書店にて好評発売中!
昭和の高知を舞台に、どん底に堕ちた男の人生と、彼を巡る人間たちに光をあてる、絶望と再生の物語。壮絶な過去と向き合いすべてを曝け出した、自伝的初小説集。文芸界を驚かせた唯一無二の世界がここに。
https://amzn.asia/d/3RfiSVf

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

RECOMMEND

関連記事