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「点としての解決から、面として世の中を変えていくことができる」(駒崎)

向山
 駒崎さんが書かれたその政策起業の本を読むと本当に泥臭いことをやってるなと感じます。政策起業をやっていく上でのコツ、苦労などはありますか?

駒崎
 事例を紹介すると早いかもしれません。例えば僕がやらせていただいた政策起業の一例は小規模保育の制度化です。
 僕が待機児童問題と出会ったのが2006年くらい、きっかけはうちの女性社員でした。育休の取得後に戻ってきてくれる予定だったのですが、彼女は子供を保育園に預けられず、戻りたくても戻れない状況になっていました。
 何とかしたいと思った時に「なければ作ればいいんだ」と役所に連絡したんです。するとルールがたくさんあると言われ、一番大きかったのが「20人の壁」です。保育園は20人以上子供を預からなければ認可されないというルールがあったんです。20人という人数を保育できる建物を東京で確保することは難しい。だから保育園が足りないんだということに気付きました。そこで「なんでそもそも20人なんだ?」と思ったんです。例えば10人とか9人であれば3LDKのマンションや空き家も保育園にできます。
 厚生労働省の保育課になぜ20人なのか問い合わせたら「なんでかは分からないですけれども、昔からそうだったんで従ってください」と言うんです。で、「ははあ、これはもしかしてさしたる理由はないんじゃないか」「なら変えられるかもな」と思いました。当時の官房副長官がたまたま知り合いだったので連絡をして、そうしたら厚労省を説得してくれました。実験的に定員9人の保育園というのを、当時の待機児童の中心地であった豊洲地区で始めることに。マンションの一室を保育園に変えたので、「おうち保育園」と名付けたんです。この 9 人のおうち保育園は大成功。
 これで9人を救うことができましたが、待機児童問題は全国的なものです。これを制度にするために政策起業が始まりました。具体的には政治家の方や官僚の方にどんどん視察に来てもらって、見てもらい、知ってもらう。すると問題意識や解決法が共有される。このケースでは官僚の方が当時の法案を書き直してくれました。そして、その法案は2012年に国会に出されて通過。結果として、70年間大きく変わらなかった認可保育園の仕組みが大きく変わったんです。小規模認可保育所制度は2015年に正式に制度化され、その年のうちに約1600箇所にまで広がりました。そして今や約5000箇所に広がって待機児童問題の解消に大きく貢献しています。
 すなわち 1 つ、何かモデルとなるものを作る。それを国が真似して制度にする。すると多くの人が利用できるインフラになっていく。点としての解決から、面として世の中を変えていくことができるんです。

向山
 ありがとうございます。ちなみに私の姉の子供もフローレンスさんの小規模保育所に入っていて……

駒崎
 えーっ!

向山
 本当に社会に浸透しているんだなって実感しました。

駒崎
 もっと前に教えてくださいよ笑

■向山淳(むこうやまじゅん)
慶應義塾大学法学部、ハーバード大学公共政策大学院卒業。
三菱商事にてネット事業や金融事業、インフラ事業に従事したほか、カナダの年金基金でも働く。
30歳を過ぎて子どもをなかなか授からない経験を乗り越え、4年前に娘を産んだことをきっかけに、「子どもたちの未来のために働こう」と政治家を志す。
その後、子どもを連れて留学し、帰国後はシンクタンクで、政府のコロナ対応の検証や、デジタル分野での政策提言を行う。

「『変えられるんだ』という前提を持つことが政策起業の第一歩」(向山)

向山
 制度化されることで、社会に浸透するというのはすごいなと思ったんですが、一方でお話の中に「官房副長官がたまたま知り合いだった」という結構なパワーパワーワードが笑

一同

向山
 普通の人には無理なんじゃないかと思ってしまう部分もあるかと思います。例えば私も普通のママだし、普通の会社員だし、官房副長官の電話番号はアドレスに入っていないです。笑 そういう人でもなれるのかどうかは、やっぱり一番大きなポイントかと思います。

駒崎
 よく聞かれますが「誰でも政策起業家になれる」と僕は断言します。というのも、別に有名ではなくても政策起業している事例はたくさんあるからです。
 ウチの社員の市倉さんという、普通のママで元美容師の方の例を紹介します。たまたま親友が双子のママで、「双子だとバスにも乗れなくて大変なの」と聞いたそうです。双子用ベビーカーは、一人用に比べて幅広なんですよ。それでバスに乗る時に畳むよう言われる、けれど双子がいるのに畳むことなんてできない。ということで、実質「乗るな」という運用になってたんです。
 それはおかしいぞと思った市倉さんがインターネットでアンケートを取りました。そうしたらめちゃくちゃ双子の親御さんたちが困っている実態が可視化されたんです。そこで市倉さんは記者会見を開いてこの問題を訴えました。そうすると色んなメディアに載って、話題になる――こういうのアジェンダセッティングと言うんですが、そうすると政治家も興味を持つんです。
 このケースでは記者会見に来てくれていた東京都の議員さんが都知事のアポを取ってくれました。アンケートを直接手渡して「こんな困ってるんです」って言う機会を作ってくれたんです。結果、都知事の号令で東京都の都バスでは双子ベビーカーをたたまずに乗れることになりました。都バスが可能になると、その周りの民間のバス会社も追従します。次々に乗れるようになって、今では東京都の全バスで双子ベビーカーが乗れるようになっています。
 これも立派な政策起業です。普通のママ社員が頑張ってやったら社会が変わった。そんな事例だと思います。

向山

 今まで双子ちゃんのお母さん達は「仕方ない。うち子供 2人いるし、皆さんにご迷惑かけちゃいけないから 」と頑張っていた。でも、それは本当に我慢していいことなのか。現状のルールや課題を発見する目の付け所、「変えられるんだ」という前提を持つことが政策起業の第一歩ですね。

駒崎
 まさに現状への違和感が出発点です。我々は何か問題や課題があっても、「まあそういうもんだし社会は」といった具合に適応してしまう。「おかしくない?」とか言うと「わがまま言うなよ」って言われたり。
 でも、実はおかしいのは社会やルールの方だったりするんです。だからそこで「おかしくない?」と声を上げるのは、実はみんなのためだったりするんです。

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