なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第6弾!
※時刻表は記事最後に掲載
九州新幹線の南端の終着駅、鹿児島中央を22時13分に出発する「特急きりしま82号」は、鹿児島、重富(しげとみ)、姶良(あいら)、帖佐(ちょうさ)、加治木(かじき)、隼人(はやと)と途中6つの駅に停車して終点の国分(こくぶ)に22時55分に到着する。所要時間は42分。運行距離は33.7キロだ。
途中6つの駅に停車すると書いたが、鹿児島中央から国分の間にある駅は8つしかない。つまり乗車には特急券が必要となる列車にもかかわらず、たったの2駅しか通過しない。さらに時刻表でこの列車の前後を走る普通列車を見ると「特急きりしま82号」の通過する駅のうちの一つ竜ケ水(りゅうがみず)は、この区間を走る普通列車31本のうち16本が通過している。半分以上の普通列車が通過するこの駅を差し引くと、実質通過する駅は錦江(きんこう)1駅のみとなる。
こういったほとんどの駅を通過しない列車はJR北海道の「快速しれとこ摩周号」も同様だが、時刻をよく見ると通過駅は普通列車とほぼ変わらないが、各駅での停車時間が短く設定されているため所要時間が早くなっている。だが、この「特急きりしま82号」と前後の列車の鹿児島中央〜国分の所要時間を比べてみると、前を走る普通列車が38分、後を走る普通列車も38分であるのに対して「きりしま82号」は42分と、4分も遅い。特に後を走る普通列車と比較すると停車駅は1駅少ないだけで、所要時間は4分遅いという残念感がたっぷり出ている特急と言える。
なぜ、このような普通列車よりも遅くて停車駅もさほど変わらない列車が特急として運行されているのか。それは「通勤ライナー」としての役割を担っているからだ。
今、座って通勤できる「通勤ライナー」と呼ばれる列車が全国各地で増えている。JR東日本の「特急湘南」「特急はちおうじ」、小田急の「特急モーニングウェイ」「特急ホームウェイ」、京急の「ウィング号」、京阪の「ライナー」、JR西日本の「特急らくラクはりま」などなど、すべてを挙げるとページの半分が列車の名前になってしまうほど運転されている。今回紹介している「特急きりしま82号」の始発駅は人口50万を上回る鹿児島市の中心部にある駅。特急料金を払っても座りたいという需要が多いのだろう。
通勤ライナーという視点で考えると、着席して快適に帰宅できれば目的が達成できるので、通過駅が少なくても、所要時間がかかっても問題ない。京阪の「ライナー」は特急料金や座席指定料金のかからない特急と停車駅がまったく変わらない。
ところが「特急きりしま82号」の編成表を見ると、1号車の半分が座席指定のグリーン車となっているだけ。1号車の残り半分と2〜4号車は自由席となっている。つまり、特急料金を払っても座れない可能性があるのだ。自由席は150席ほど。過去の時刻表を調べたところ「きりしま82号」が登場したのは九州新幹線の新八代〜鹿児島中央が開業した2004年(それ以前は、座席定員制の「ホームライナー」として運行)。20年も運転されていることから自由席でも確実に座れるということなのだろうが、年末の忘年会シーズンや鹿児島市内で大きなイベントが行われた際に乗車して「座れない、前後の普通列車より遅い、なのに特急料金がかかる」という状況をあえて楽しんでみたい(私のような変なダイヤの列車好きでなければ、この区間は桜島の勇姿と錦江湾が窓一杯に広がる昼間に乗車していただきたい)。
ちなみに、この列車がいつから運転されているかを調べた際、前後を走る普通列車の時刻もチェックしたが、2020年頃までは所要時間は特急の方が早かった。その後、普通列車は昭和の時代から使っていた古い電車を新型に変更。一方の特急は1992年に設計された古い型の電車のまま。加速、減速機能の向上や車体の軽量化が図られた新型普通電車の導入が所要時間の逆転現象を起こしたのだろう。
JRグループは2024年3月16日にダイヤ改正を行う。これまで紹介してきた残念だけど味わいのある列車も何本かはなくなってしまうと思うが、この「きりしま82号」はこのまま残ると思われる。その際、前後の普通列車との所要時間の差が詰まるのか、広がるのか。普通列車の詳細な時刻は2024年3月号で公開されるので、発売が楽しみだ。
JR九州 特急きりしま82号 鹿児島中央駅22時13分発 国分行
本記事は「一個人」2024年3月号に掲載した内容の増補版です。情報は発行時のものです。