ある大学の山岳部のメンバー5人が、地元の山で冬山登山の訓練をしていた。さほど高い山ではないが雪深いことで知られ、毎年何人かの遭難者を出す難所であった。彼らが登った時も途中から猛吹雪となり、道を見失ったあげく、一人が事故で命を失ってしまった。
死体を抱えて雪山をさまよった彼らは、日暮れ間際にようやく避難小屋にたどり着くことができた。そこは小屋といっても風雪がようやく防げるだけの納屋のような建物で、暖房も明かりもなかった。
「こんなところで眠ってしまったら凍死してしまうかもしれない…」
そう考えたリーダーAは、メンバーたち(B,C,D)にこんな指示をだした。
- 死体を小屋の中央に寝かせる
- 残りのメンバー4人が小屋の四隅に座る
- Aは壁づたいに歩き隣りの隅に座っているBの肩を叩き、Bの代わりにその場に座る
- 肩を叩かれたBはAと同じく隣りの隅へ行き、Cの肩を叩いてその場に座る
- CはDの肩を叩き、その場に座る
- DはAの肩を叩き、その場に座る
部員たちは小屋の中をひたすら歩き回り、なんとか眠らずに朝を迎えることができた。しかし、3人が無事でいることを確認したリーダーは、ふと奇妙なことに気づいた。そして、Dにたずねた。
「お前はどうやってオレの肩を叩いたんだ?」
Dはきょとんとしながらも、こう答えた。
「壁づたいに歩いて、隅に座っていたリーダーの肩を叩きました」
リーダーは真剣な顔で聞き直した。
「いや、よく思い出してくれ。その次の隅まで行ったんじゃないか?」
Dは笑って言った。
「そんな無駄なことしませんよ。隣りの隅にいたAさんの肩を叩きました」
それを聞いたリーダーの顔はまっ青になった。
「オレはBの肩を叩いた後、Bが座っていた隅に座っていた。お前が壁づたいに歩いていった隅には誰も座っていなかったはず…」
Dはいったい誰の肩を叩いたのだろうか。また、Aは誰に肩を叩かれたのだろうか。幽霊なのか妖怪なのか、いずれにしろ、そのお陰で彼らは生き延びることができたのだが…。
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