【紀州鉄道】歴史を体感する8分間
御坊寺内町の繁栄を今に伝えるローカル線
和歌山県の真ん中、紀中地域に片道約8分で運行するローカル線がある。営業距離2.7km、駅がたった5つの紀州鉄道は、一両で御坊市内を南北に走る。設立は1928(昭和3)年で、前身は御坊臨港鉄道。国鉄御坊駅が街外れに開業したことから、有志が資金を出し創立したという。民家の軒先をかすめるようにゴトゴトと音を立てブレーキ音をキィキィ鳴らす列車は、昭和当時の生活ぶりをそのまま今に伝えているよう。車両は信楽高原鐵道から引き継いだ「KR205」と「KR301」。JR御坊駅端っこの0番線ホームから、ワンマンで出発進行!
御坊は本願寺日高別院を中心に栄えた寺内町。醤油発祥の地・湯浅と並び醤油や金山寺味噌作りが盛んで、今も醸造所が残る。焼きそばを玉子で焼き固めた「せち焼き」など昭和の香りが漂う、県内でここだけのご当地グルメも人気だ。
公共交通に詳しい和歌山大学の西川一弘准教授によると「約90年にわたって同じように街なかを走り続ける列車は、イギリスの保存鉄道のように御坊の歴史を伝える文化的な側面がある。ノスタルジックな街並みと融合し、これからも地域を盛り上げる存在だ」。
終点・西御坊駅は年季の入った木造駅舎。その中にポツンと「旅の思い出」ノートが置かれている。北海道、仙台、東京、岐阜などからの来訪者が残した「紀州鉄道完乗」の力強いメッセージが心に響いた。