なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第10弾!
※時刻表は記事最後に掲載
時刻表を読み込んでいるとたまにみかけるのが「1駅だけ走る列車」だ。始発駅を出発すると次の停車駅が終点。2つの駅にしか停車せず、途中の通過駅がないため、時刻表上に3桁もしくは4桁で表記された時刻が2行だけ記されている。
このような列車が多く見られるのは、主要幹線から1駅だけ枝分かれする路線だ。首都圏では東武伊勢崎線の西新井駅から分岐する大師線や、西武新宿線の東村山駅から分岐する西武園線。関西圏では山陽本線の兵庫駅から分岐する山陽本線支線(通称・和田岬線)、阪和線の鳳駅から分岐する阪和線支線(通称・羽衣線)が該当する。
また、車庫へ向かう回送列車が通る線路上に1つだけ駅を作って、新たな鉄道路線にしたため1駅だけ走る列車がたくさん走る区間もある。東京メトロ千代田線の綾瀬~北綾瀬、九州の博多南線がこれに当たる。
他にも山陽新幹線の小倉~博多間だけ走る「こだま号」など、1駅だけ走る列車は各地で見ることができる。だが、1駅だけの支線は時刻表では「●●線」といったトピックが付けられて掲載されているので見つけやすく、新幹線も列車名が一緒に記されているので時刻表で見つけやすい。
そんな中、時刻表をしっかり読み込んでいるときにちらりと目に入ってくる、普通に眺めていると見逃してしまう2行の数字を見つけたとき、時刻表好きの私は「おおっ!」と声を出してしまう。今回紹介するのは、発見したときに思わずそんな声が出てしまった、時刻表で見つけることが難しい1本だ。
渋谷、新宿、池袋といった東京23区の西側の繁華街エリアと戸田、浦和、大宮を結ぶ埼京線。2019年、相鉄・JR直通線の開業によって運行形態が複雑になったが、現在では大崎~池袋~赤羽~武蔵浦和~大宮の間を埼京線と呼ぶことが多い。
厳密に言えば、大崎~池袋が山手線、池袋~赤羽が赤羽線、赤羽~大宮が東北本線の支線で埼京線というのは京浜東北線(正式名称・東海道本線、東北本線)同様、運行形態に合わせ利用者に分かりやすく使ってもらうための通称で……といった細かいことはさておき、時刻表の後ろの方のページ、北海道の路線の時刻の後には、埼京線の時刻が掲載されている。
以前、この埼京線をよーく見ていたら発見したのが、「新宿発 池袋行」の電車だ。
確か、見つけたのは今から20年以上前の2000年3月号の時刻表。埼京線が恵比寿~大宮間で走っていた頃だ。当時の時刻表には、埼京線の全列車の時刻が記されていた(駅は主要駅のみ掲載)。そして、土休日朝の時間帯で目についたのが新宿を9時59分に出発、池袋に10時04分に到着する電車だった。
始発から終点までの所要時間はわずか5分。JR東日本が発表する駅の乗車人員数、第1位の新宿と第2位の池袋を結ぶ電車が時刻表にひっそりと掲載されている姿は味わいのある感じだった(注・個人の感想です)。
この列車、今はどうなっているかと最新号の時刻表の埼京線のページをみると、残念なことにその姿はなかった。りんかい線直通列車や相鉄線直通列車も掲載するため、全列車を掲載するとスペースが足りなくなるためか、埼京線内を走る列車は大宮から先、川越線に直通する列車のみの掲載となったためだ。
そこでJR東日本のホームページで調べてみると、池袋始発の新宿行が平日1本、土休日2本、新宿始発の池袋行が土休日に1本走っていた。この3本を比べると、残念感断トツなのが土休日にのみ運転される新宿9時16分発の池袋行だ。
土休日の前後を走る電車の時刻表をみると、2分前には渋谷方面からやってくる快速川越行が、4分後には同じ渋谷方面からやってくる各駅停車大宮行が運転されている。もし、この土休日9時16分発の列車が大宮行であれば、新宿から座りたいという利用者の需要があると思われるが、終着駅は次の池袋なので、新宿から乗車して池袋へ行こうという人しか乗らないと思われる。
さらに出発ホームが3番線というのも残念な要因の一つだ。新宿駅の3・4番ホームは山手線、中央・総武線各駅停車、中央線快速などのホームより南側の位置にある。そのため東口や西口からのアクセスが悪い。その上、10両編成の埼京線の電車はホームの前よりに停車しないため、東口や西口から向かう場合、長い地下通路を歩き、階段を登ってホームに着いて、さらに40mほど歩くことになる。新宿と池袋を結ぶ便利な列車にもかかわらず、乗り換えでこの列車を利用するにはハードルがありいろいろと残念だ(注・あくまで個人の感想です)。
なぜ、このような列車が運行されているのか。それは池袋に埼京線の車両基地があるからだ。平日、土休日にかかわらず、鉄道は朝の時間帯に利用者が多く、日中より運転本数を増やしている。そんな運転本数の増える時間帯に走らせた電車を車両基地へ戻すために運転されているのがこの列車というわけだ。
こういった車両基地へ戻す列車は、回送列車として運行されることが多い。回送なら車掌の業務が必要なく、終着駅で寝過ごしている人の確認をする手間も省けるからだ。にもかかわらず、長年にわたって1駅だけ運行する列車を運行させているのには、私のような時刻表だけを眺めている人間にはわからない理由があるのだろう。